第20話 似た者同士4

アルセイ叔父と姉たちは最後まで、見苦しく喚いていた。

役所に、被害届をだしたセパスは、そのまま捕縛吏も連れてきたのだ。

そのまま、拘束されるのだと、伝えられると、アルセイは、青筋を立てて、怒鳴った。


「わしは男爵だぞ! 一介の市民と同様に捕まるいわれはない。」


ゼパスは愛想よく笑った。

「どうもその地位はさっき剥奪になったようです。」


「ふざけるな! そんなことが・・・・」


「男爵の地位を与えたのは、アルセンドリック侯爵家です。剥奪するのもアルセンドリック侯爵家の勝手です。」

「ふん!」

アルセイは鼻で笑った。

「そうするのなら、ルドルフが生きているうちにやっておくのだったな。ときすでに遅し、だ。そういった決定をくだせるのは、当主だけ。

いま、アルセンドリックには当主はいない・・・・いや、」

にやっと、アルセイは嫌な笑いを浮かべた。

「次期当主ならばここにいる。おい不浄役人。次期アルセンドリック侯爵の命令だ。わしを開放して、かわりにこの痴れ者の小娘を捕まえろ。」


「あなたが次期侯爵閣下?」

「そうとも!」

「そこらは、お家の内部問題なので、役所の管轄外ですが、侯爵になられてからあらためてご要望いただけますか?

いずれにしても、現在のご当主があなたを指名されるとは思えませんが。」

「アルセンドリックに現在は当主はいない!」


アルセイは、叫んだ。

マハラとジュリエッタも賛同した。アルセイが、アルセンドリック侯爵になるといった際には無視したのだが、ここは異論はないようだ。


「なにをおっしゃいます。アルセンドリック侯爵はそこいいらっしゃいます。」


捕縛吏が指さした方を、三人はおそるおそる見やった・・・ありえないことだが、ルドルフが復活でもしたのか、吸血鬼は不死身だときく、いやそんな馬鹿な。


「なにを言ってるの?」

マハラが吐き捨てた。

「そうよ、あそこにいるのは、前アルセンドリック侯爵の未亡人よ。いまのアルセンドリック侯爵家になんの権利もないわ。」

ジュリエッタも叫んだ。



「恐れ入ります。」

ゼパスが愛想よく続けた。

「アルセンドリック侯爵閣下への侮辱罪も追加願います。」


「なにがどうなって・・・・」

ジュリエッタが叫びかけたが、捕縛吏が手際よく猿ぐつわをかました。


「いい手際です。」

ミイナは、捕縛吏を褒めた。

「侮辱罪は、わたしやゼパスを屋敷から追い出しただけでも充分でしょう。これ以上罪を重ねる必要はありません。」


「ま、まさか・・・・」

アルセイの顔色が変わった。


「わたしくは十年前に父から、侯爵位を継ぎ今日まで夫とともに、アルセンドリックの家を守り続けておりました。」

ミイナは、ハンカチで目頭を抑えた。

「夫は、グラハム閣下との行き違いから、不慮の死をとげました。これからどうなるかと悲しみと不安に打ちひしがれておりましたところに、葬儀の相談のため、呼んだ親類からこのような仕打ちをうけようとは・・・・。もはや、当家とこのものたちとはなんの関係もありません。

法に照らして、厳重な処罰をお願い致します。」


「侯爵家に対する侮辱罪は、最高刑は死刑になりますが・・・・」


マハラとジュリエッタが、真っ青になって、腰をぬかして座り込んだ。


「それはやめておいてください。父のいるところにあまり早く送っては、親不孝になりましょう。罪を減じるようわたくしから依頼いたしますわ。」


捕縛吏は一礼した。ミイナの言動をきわめて、適切なものだと考えていることが、わかる自然な所作だった。



「さて、ミイナ。アルセンドリック侯爵閣下、これからどうします?」

一行を見送ったアイシャが、尋ねた。


残ったのは、ミイナの腹心。屋敷のなかに残った使用人はひとくせもふたくせもあるものばかりだ。

Aクラスの冒険者『氷漬けのサラマンドラ』。

もともと傭兵ギルドから総スカンをくらう原因になった『生贄の仔羊』の精鋭たち。


「まずは、ルドルフの葬儀をしましょう。」

ミイナはため息をついた。

「吸血鬼の葬儀を仕切ってくれる神様はいないかしら。」


「“隷属の邪神”ヴァルゴールの使徒なら、別段、亜人でも葬儀をいとなんでくれるだろう。」

アウデリアが、言った。

「ただ、わたしはその場合は欠席させてもらうがな。こんなときに申し訳ないが、ヴァルゴールとはいろいろあってな。」

珍しく慌てたようにアウデリアはいい直した。

「いやヴァルゴールの使徒とは昔、いろいろあってだな。」


「ヴァルゴール以外に、吸血鬼の葬儀を行ってくれそうな神様は?」


一同は顔を見合わせた。

最近、西域で力をつけている聖光教を代表として、亜人とくに吸血鬼を目の敵にしている教団は多い。遠く、西域の銀灰族の信仰する逆しまの神など、ごく少数の神をのぞいては、吸血鬼の葬儀に力をかそうなどという「神」は想像もできなかった。


「わかったわ。しかたない。ヴァルゴールの使徒に連絡をとってちょうだい。少なくとも十年わたしの夫だったのよ。

吸血鬼だったけど、そのくらいは些細な欠点よ。彼の魂が迷わないように送り出したいの。

アウデリアには悪いけど。」


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