第14話 主人公たちの悪巧み
「マハラたちは、それぞれ、裕福な商家に嫁いでるわ。ここで、弁護士をたてて、長々と法廷闘争をやるつもりはないわよ?」
「アルセイ閣下にせよ、マハラさまたちにせよ、強気でいられるのは、アルセンドリック侯爵家という後ろ盾があってこそ、です。」
セパスは、こういったことは得意分野なのだ。
「我々が、告発を行った瞬間に、アルセイ閣下は、男爵の地位を失い、マハラさまたちは離縁させられるでしょう。高位貴族とすすんでことを構えたい商家など存在いたしません。」
「だったら、なんでそうしなかったんだ!」
アイシャが怒ったように言った。
「アルセンドリック家が、主流派貴族である『王党派』に属さず、そこのトップであるグラハム伯爵家と対立していたからです。」
ゼパスはきっぱりと言った。
「政治的な告発を行っても、王党派に妨害されるでしょう。それが、なくなったのなら、今こそ、貴族の権力を思い知らせてやるべきなのです!」
「完全に悪役の発言だ。」
アイシャが、セバスをからかった。
「そもそも、だったらなんで、アルセンドリック家は、ルドルフ家と長年対立してたんだ。わたしが、護衛士として雇われたときは、もうそうなっていたぞ?」
「だからそいつも先代閣下の負の遺産です。山程でてきた借用書の一通です。」
「ミイナ。」
アイシャは困ったように言った。
「アルセンドリック家は、グラハム伯爵の軍門にくだり、これより王党派の一員となる・・・・とそれでいいのか。いや、その、現実的には、悪くはない。
もしアルセンドリックの対面の問題があるのなら、わたしが、実行犯であるメイプルの首を落とす。それで手打ちにできないか?」
「それは、やめておいて。」
ミイナはきっぱりと言った。
「メイプルは、あなたにとっては友達で、わたしにとっては姉弟子よ。殺してしまうことで、事務所関係も悪くなるわ。」
「しかし・・・・なにもせずに、黙って、エクラを婿に迎えるのか?」
ミイナとしてもそこは考えどころなのだ。何回かのダンス。短い会話。それだけで、ミイナはエクラを、いたく気に入っている。
とりあえず、ルドルフのために一定期間、喪に服し、そのあととりあえず、婚約、という段取りで。グラハム伯爵家はそれで満足するだろう。
だが、エクラはどうなのだ。それで幸せなのだろうか。だれか好いている相手はいないのか。
「だが、しかし。釣り合わないかもなあ、わたしと彼では。」
「たしかに、おまえは三十路間近の未亡人、むこうはピチピチの17歳だ。おい、17って結婚できたのか?」
セパスは、うんざりしたように、ミイナとアイシャを見返した。
「我が国の法では、正式な夫婦は、21からです。」
あれ?じゃあ、わたしとルドルフは、それまでは正式な夫婦じゃなかったのか? ミイナが頓狂な声をだした。
「ただし、貴族の当主は別です。なにしろお家を守り、次世代につなげるという仕事がありますからな。実際に届け出を行えば、何歳でも正式な夫婦になれます。奥方様は、結婚から間をおかず、家督相続をされましたので、なんの問題もありません。」
「今回・・・わたしとエクラの場合はどうなる。」
「そうですな・・・・ミイナさまはアルセンドリック侯爵家のご当主であられられますから、婚姻そのものは問題がないはずです。」
「『はずです』という表現が気になるな。」
「だって、そりゃあ、そうです。もっと年齢も近く、独身の兄二人がいるのに、三男のエレク様と結婚させよとすうる理由がわかりません。
あれは、出自もさだかじゃあない、不義の仔ですよ。
言っときますけどね、家の格から言ったら、うちの方がはるかに上なんですよ。」
「そんなことを言い出さないでよ。」
わたしとルドルフだって、精一杯やったんだから。
と、ミイナはむくれた。
集まった貴族や従者たちは退散していて、夜もフケたグラハム伯爵邸の廊下はいやに広く、また来客用の魔法灯の火も落とされていてかなり薄暗い。
長々と立ち話には、向いている環境ではなかった。
「では、ミイナ。わたしはいったん、『氷漬けのサラマンドラ』の詰所に帰ります。」
アイシャは言った。
「『弱虫ミール』に伝言を残しているから、手勢は集めているはず。明日の朝にはそいつらを引き連れて迎えに来ます。
そのまま、侯爵邸に乗り込んで、あの大馬鹿者どもをたたき出す。役所への届けは、ゼパスに任せるぞ。」
「帰ってしまうんですか?」
ゼパスは、泣きそうな顔でアイシャを見ている。
ここは先代から、何かとぶつかり合っていたグラハム伯爵の屋敷である。
もちろん、衛兵だっているし、そもそもアルセンドリック侯爵の良人を殺害した冒険者メイプルもいる。
腕と胆にからきし自信の無いゼパスの顔色は薄暗い廊下でもわかるほどに、青ざめていた。
「まあ、単純に暴力で来るなら、わたしがいるわ。」
ミイナは、胸をはって安請け合いした。
「そっちこそ、夜道を気をつけてよ、アイシャ。わたしは、グラハムにとって、生かしておく利用価値のある人間だけど、あなたはそうじゃないんだから。
むしろ、ルドルフ亡き後、あなた方『氷漬けのサラマンドラ』は、アルセンドリックの唯一の戦力よ。削りにくる可能では十分にあるわ。」
「わたしになにかあっても アウデリアがいます。」
アイシャは陰鬱な表情で言った。
「あらてめて、言うまでもないですが、わたしが闇討ちされたら、その日が、グラハム伯爵、いえ、王党派 、いえ、王都最後日になりますよ。
ミイナさまこそ、気をつけてくださいね。」
「だから、自分の身くらい守れるけど?」
「ではなくて、色仕掛けの方です。夜中にエクラ坊っちゃまが忍んできても、絶対にドアを開けてはダメですよ。」
みんなして人を非常識の化け物みたいな言い方をして。
ミイナはいたく気分を害したが、寝室として案内された部屋を開けて、アイシャの忠告が正しかったことを確認した。
ベッドの上にはエクラがいた
それも裸に剥かれていて。
そこまでは、まだいい。
いや、ほんとは良くないんだけど。
彼の背中やお尻りは、かなり酷い蚯蚓脹れがはしり、ほとんど、気を失っていた。
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