第13話 君の姿はぼくに似ている。
「まあ、そんなこんなで、17歳のとき、わたしは突然、牢から出されたわけ。まあ、生きてるのはわかってたにしても、ちゃんと歩けて、言葉をしゃべることまでは期待していなかったと見えて、父なんかは、カップを投げつけて、喜んでくれたわ。
牢から出された理由は、お調べ済みかな、エクラくん。」
「それは」
エクラは頷いた。
「ルドルフ閣下との結婚のためですね。」
「そういうこと。当時、アルセンドリック侯爵家は、正体不明の魔道士に狙われていて、どうしてもSクラスの冒険者を雇いたかったのね。
普通、Sクラスの冒険者なんて、どこかの国のお抱えになってしまっていて、一貴族家になんて回ってこないわ。
でもダメ元で、ルドルフに交渉したときに、彼が『アルセンドリック侯爵家』の姫を妻に差し出すなら、って条件をだしてきたのよ。
普通だったら、話はそこで終わり、いくらなんでも自分の娘を吸血鬼に嫁に差し出すなんて、とても出来ないわ。ところが、アルセンドリック侯爵家には、ちょうどいい人材がいたのね。
それが、つまり、わたし。」
挑むように、エクラの顔を覗き込む。
「わたしは、ルドルフと結婚させられた。いやいや・・・・というわけでもなかった。
わたしにはわたしの事情があって。
ルドルフは、いろいろ欠点の多いやつではあったけど、どういうものか、わたしを気に入ってくれた。
政略結婚でそれ以上を望んではいけないものでしょ?
なんだかんだ、わたしはアルセンドリック侯爵家をついで、父の残した財産を懸命にくいつぶして、今日に至る。」
「そこらへんは、わたしたちの調査と違いますね。先代の侯爵閣下に遺産など、家屋敷以外にロクに残っていなかったはず。」
「あるわよ、一応。収支は、プラマイゼロのアルセンドリック侯爵領に、借用書の束という財産がね。正直アルセンドリック侯爵領を処分することも考えたのだけれど、そうすると爵位も返上になるので、まあ、出来るところまでやってみようと思ったのね。」
赤い酒は口上がりがよく、するすると喉を通った。
「気がついたら十年たっていた。まだ、若い君には、わからないかもしれないわね。」
エクラは、首を横に振った。
「全部は。でもわかるところもあります。」
「ふうん。」
エクラの表情はわからない。
単純にミイナに同情してるわけではなさそうだ。
「なら、今度はきみのことを話してよ。アルセンドリック家の力は、そっちには遠く及ばない。それは認めるわ。正直エクラくんという三男がいることも今日はじめて聞いたのよ。」
「ぼくは、いわゆる妾腹です。」
エクラは、自重するように言った。
「へえ。じゃあ、いままではどこかに留学でもしていたの?」
「都にはおりましたよ。ただし、学生ではありません。12から、オーガスタ街で働いておりました。」
ミイナの顔がしかめられた。オーガスタ街は・・・都でも有数の色街だ。
「ぼくの母は早くに亡くなりましたもので。」
エクラは、遠い目をしていた。
「実際に、伯爵閣下・・・父にも認知されていなかったようです。ですが、ここにきて利用価値が出来たので、昨年、ここに呼ばれました。付け焼き刃の礼儀作法に、基礎教育・・・・。いかがでしょう、ぼくは貴族の師弟に見えていますでしょうか?」
「出来は悪くない。」
ミイナはそれだけを、やっと言った。
「利用価値・・・・って言ったわね。」
「そうです。ルドルフ様を屠ったあとに、あなたの連れ合いになるためです。」
エクラの唇が歪んだ。それは笑みの形をしていたが、ひどく凶暴なものにも見えた。まるで、柔らかい毛並みに包まれた野生動物が、突然その本性をみせたような。
つまり、ミイナが、17歳のときに吸血鬼の連れ合いになるために、牢からだされたように、エクラは、吸血鬼(かもしれない)ミイナと結婚するために、連れてこられたのだ。
それってまるで。
「いかがです? ぼくたちはけっこう、相性がいいと思いませんか?」
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「兵は、腕利きを20名貸してくれるそうです。それに、A級冒険者のメイプル殿。」
宴がはけたあと、ミイナたちはそれぞれ、寝室が用意された。
だが、このまま、眠りにつくわけにはいかない。整理しなければならない情報が多すぎた。
パーティーの間も、執事頭のセパスは、あれこれと交渉をしてくれていたらしい。
「彼らをつれて、明日はいったん屋敷にもどり、男爵閣下とお姉様方に退去いただきましょう。アルセンドリック侯爵への不敬、およびに屋敷への無断侵入で、彼らを正式に告発いたします。」
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