第二十五話 待ってろクソ総理

一足先に枝里花が身の危険を感じて降りてきた。


「何すんのよ、アホ鬼!殺す気?!」


「枝里花なら死なないとわかってたからやったのよ。」


「そ、そりゃこのくらいじゃ問題ないけど?」


なるほど、枝里花はツンデレだったか。ただ、それは女に対してやるやつなのか?


バランスが取れなくなった段蔵も降りてきた。


「全く、常識はずれな子ですねぇ。今日はこの辺にしときましょうか。」


「ん?諦めて帰るのか?」


段蔵は不敵にニヤリと笑った。


「えぇ、お二人は諦める事にします。ちょっと勝てそうにないですしねぇ。」


そう言うと足早に去って行った。


「何だったんだ?」


「よからぬ事は考えてそうな雰囲気だったけどね。」


俺達はモヤモヤしたままコーヒーカップのテントを後にした。


俺たちの違和感はその後、すぐ明かされることとなった。


「あいつらは無事か?」


「トイレは粉砕されているから桃山君の脱出は成功してそうだけど…。あ、あれ!」


枝里花が何かを見つけた。


「お前…栗田かよ!いつまで寝てんだよ!」


「うぅっ、君達か。大変だ…急いでくれ。」


「寝ぼけてんのか?八助はもう助けたぜ。」


「違うんだ…。会長達が攫われた…。」


衝撃が走る。紅蓮がいたのにか?雛乃進はどこへ行った?


「俺達が八助を助けてる間に、一体何があった?!」


栗田は深く息をして説明を始めた。



栗田が段蔵にやられた傷は深くなく、雛乃進の手当てで動けるくらいにはなった。


紅蓮も金棒を出現させトイレの瓦礫を吹き飛ばす事に成功した。


「…ど、どうして君たちがここに??」


中から瀕死の桃山が出てきたので雛乃進が手当てをしながら状況を説明した。


「がははは!どうじゃアタイの金棒は!」


と紅蓮は騒いでいたが急に静かになり、崩れ落ちる。


なんと背後にはもう1人の忍者がいたのだ。紅蓮は油断していた所、後頭部に手刀を入れられたようだ。


なんとか一矢報いようとした栗田はカバンの中に常備していた砲丸を忍者に投げつけるも、怪しい忍術を使われて砲丸が跳ね返ってきた。


自分の砲丸を受けて倒れた栗田をよそに忍者が雛乃進に語りかける。


「娘は連れて行く。お前達は人質としてついてくるか、ここで命を断つか好きな方を選ばせてやる。」


そう言われた2人は渋々ついて行かざるを得なかった。



「と、まぁこんなとこだ。不甲斐なくて申し訳ない。」


「まぁ栗田の能力は多対一向けの能力だもんな。それにしても雛や紅蓮まで連れてかれちまうなんて不覚だった。桃子すまねぇ!」


「うーん、まぁ紅蓮なら大丈夫だと思うけど、ここまで本気で喧嘩売ってくるなら、うちもちょっと考えないといけないわね。」


桃子は思ったよりも冷静だった。


「枝里花、相手は阿倍野派って事は間違いないんだよね?」


「うん、そうみたい。私も再度、猿藤を名乗るようになったからストーカーの目がキツくなるだろうとは思ってたんだけど、まさかこんなに早く動いてくるなんて。」


すると桃子が枝里花に語りかけた。


「もしも、私がクソ親父に一言頼めば鬼ヶ島派の人間を全員猿藤派の味方に付けられるといったらどうする?」


ドロン


「願ってもない!是非おねがいしたいでござる!」


ゴンッ!


枝里花の拳が槍梨に振り下ろされる。


「槍梨は邪魔しないで!これは私と桃子の話。」


そう言って枝里花は桃子の方を向いた。


「嬉しくないと言ったら嘘になるわ。でも無理に味方になって欲しいとも思わない。あなた達の考えで私達に背中を預けても良いと思った時は手を貸して欲しいと思ってる。」


「立派な回答ね。確かに猿藤派の下につく気はさらさらないわ。これまでも、これからも。」


「じゃあ、どうするつもり?」


桃子はニコッと笑った。


「鬼ヶ島派は全員、柿太郎様個人の下につくわ!」


「なるほど、そうきたか。ってえぇ?!俺?!」


場に似合わず素っ頓狂な声をあげてしまった。


「私は柿太郎様になら、親も、家族も、自分自身の命も、全てを捧げる事ができる!柿太郎様に死ねと言われれば今すぐにでも死ぬ!あなたはどう?枝里花。」


「私は…。」


俯いてしまう枝里花。流石にこんな事を言われたらしょうがない。


「枝里花、無理する事はねぇって。だいたい何で俺が仲間に死ねって言わねぇといけねんだよ。」


「私はっ!」


枝里花は急に顔を上げた。


「私は柿太郎についていく!猿藤派としてでも、鬼ヶ島派としてでもなく、私個人が柿太郎についていく!」


こいつは驚いた。君もか。良い所の娘がどこぞの小僧の下につくとか簡単に言うんじゃないよ。


「私には桃子みたいに自分の一存ですぐに動かせる人がいない。兄弟もいなけりゃ頼れる親もいない。私には何もない!!」


「こんな私だけど、柿太郎は私を受け入れてくれる?」


真っ直ぐな目で俺を見つめてくる。


「ったくよぉ。お前らときたら…。」


俺は枝里花の頭にポンと手を置く。


「わざわざ仲間宣言なんかしてると薄っぺらく聞こえるぞ。去る者は追わねぇ、来る者は拒まねぇ。来るなら黙ってついてきやがれ!」


「ううっ…良かったぁ。わーん!」


枝里花がその場に泣き崩れる。桃子がそっと枝里花に近寄って抱きしめた。


「よく言えたね。じゃあ柿太郎様の手下同士、仲間だね!」


「それに枝里花は1人じゃねぇぞ!なぁおっさん!」


「うむ、拙者は忠義の忍。主君は絶対に裏切らないでござる!」


「あんたの主君はお父さんでしょ。私じゃないもん。」


やはり枝里花から見て父親は家族より遠い存在なのだろう。近寄りたいけど近寄れない。そんな感覚でいるのかもしれない。


「うーん。お父上も枝里花様の事を心配なさってるでござる。それに枝里花様がこうやって実質的に鬼ヶ島派と手を組むなら我々ももちろん馳せ参じますぞ!」


「お父さんねぇ…。」


枝里花は意味深に考えていた。


「柿太郎、言うまでもないが俺もお前の仲間だからな。あいつらを取り返しに行くなら連れてけよ?」


八助もそう言ってくれる。


「あぁ、もちろんだ!」


気がつけば俺の周りには優秀な人間が沢山集まっていた。


「皆、改めて申し訳ない!俺の判断ミスで仲間3人連れてかれちまった。」


「大丈夫だよ、柿太郎様!取り返しに行くんでしょ?」


「あぁ、もちろんだ。あいつらも俺の大事な仲間だ。必ず取り返す!」


阿倍野派は徹底的に潰す。そして雛乃進達を必ず取り戻すんだ。


「俺は味方に死ねなんて言わねぇ!逆に死ぬ気で俺が守ってやる!味方の敵は全員敵だ!誰であろうと叩き潰す!」


「待て待て!君達が相手にしようとしてるのは阿倍野派。つまり、国だぞ?」


話を聞いていた栗田が驚いて俺達に問いをかけてくる。


「いいぜ、やってやろうじゃねぇか…。俺の敵は阿倍野派、つまり国のトップだ。国家反逆罪だろうがなんだろうが背負ってやるよ!」


たとえ世間から嫌われようとも俺は阿倍野派に抗う。


「待ってろクソ総理。俺のダチに手ぇ出した責任は取ってもらうぞ!!」

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鋏使いのトレイター Den @den-1124

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