第二十四話 崩れちゃうぞー!

「大丈夫かなぁ?おーい!」


「…ん、ここは?」


俺は公園のベンチで桃子に膝枕されていた。


「あ、目が覚めた!おはよう柿太郎様!」


「あぁおはよう。寝たつもりは全くないんだがな。」


「終わった後に楽しかったねって話しかけたら、完全に意識を失ってたからお姫様抱っこで連れてきたよ。」


「え、まじ?恥ずかしすぎて死にたい。」


気づかない内に辱めに遭っていたようだ。


「あ、柿太郎目覚ましたんだね。」


雛乃進達も戻ってきた。


「おー。…お前らも見たのか?お姫様抱っこ。」


「えぇ、惚れ惚れするほど様になってたわよ。まるで王子様みたいに。あ、桃子がね。」


俺のみっともない姿より桃子のカッコいい姿の方が映えていたらしいので良い事にしよう。


皆と合流して少し経った時だった。


ドオォーン!!!!


遊園地内で爆発音がした。


「おいおい。只事じゃねぇな。」


俺達は近くの現場へ向かった。


客は皆逆方向に逃げていたので、逆らうように走るのはなかなか苦労したが。


「柿太郎、僕達も逃げた方が良いんじゃないの?!」


「いや、なんだか嫌な予感がする!皆の怯えた表情、こいつは事故なんかじゃねえ!」


「柿太郎様ご明察!敵がいるよん!」


桃子が話しかけてきた。推測が確信へと変わった。


ゴロゴロ…ガタン!


現場付近ではトイレやアトラクションが破壊されていた。


横たわっている人もいる。


いや、よく見たら見たことのあるシルエットだった。


「お前は…栗田?」


「鋏屋君じゃないか!どうしてここに!」


「たまたまだよ!それよりこの状況はどうした?」


「急に忍者に襲われたんだ!トイレに爆薬も仕掛けられていて会長はあの中で下敷きになっている!俺は外にいたからこのダメージで済んだが動けそうにない。犬飼君が忍者と戦闘に入っているがあれだけの能力者だ。勝てるかは怪しいだろう。」


「忍者?!忍者ってあのおっさんじゃないのか?!枝里花!」


枝里花が指を鳴らすと槍梨は出てきた。


ドロン


「拙者はここにおります故!」


「あ、こないだの変態忍者だ。」


変態と呼ばれ、桃子に土下座をして謝る槍梨だったが、俺はおっさんに近づいて匂いを嗅いだ。


「加齢臭しかしねぇ…。おっさん昨日ドブに入ったよなぁ?!」


「け、けしからん!流石に風呂には入ったわ!」


「って事は…まずいな。もう1人いるぞ。忍者が!」


ドカァァン!


隣のコーヒーカップのテントから音がした。


「八助達はきっとあそこだな!雛は栗田の救護、紅蓮はトイレの瓦礫を吹っ飛ばしてくれるか?枝里花と桃子はついてきてくれ!」


「もちろんよ!」

「一生ついていきます!」

「救護は任せて!」

「アレを吹き飛ばせば良いんじゃなー?!」


俺達はコーヒーカップへ急いだ。



ハァ…ハァ…


「くそ、場所はわかるが追いつけないな…。」


八助は謎の忍者相手に苦戦していた。


「君はなかなかやりますねぇ。人質を取ろうと思ったのですが思ったより手強い。近づいたら喉笛でも食いちぎられそうですねぇ。」


「自分から攻めてきて、一丁前にびびってるのかよ。」


「否、近づかなくても私はあなたに攻撃できる故。」


ヒューン!トッ!


手裏剣が八助に向かって飛んでくる。


カッ!


八助も牙で受け止める。どこから飛んでくるかは匂いでわかるようだ。


「これじゃあ埒があかないのでそろそろ終わりにしますか。」


謎の忍者はそう言って影分身をして八助を包囲した。


「さらばです。」


全方位からの手裏剣攻撃。これは流石に八助も受けきれない。


「くっ、ここまでか!」


ガギギギギギ!


八助の周囲で金属音が鳴り響く。


「大丈夫か八助!よく耐えたな!」


俺はデカバサミをひと回しさせて手裏剣を全て弾き落とした。


「柿太郎か…。助かった!」


「へへ、まぁ後は任せとけよ。」


俺は振り返って謎の忍者にデカバサミを向けた。


「おい、クソ忍者。てめぇ俺のダチに手ぇ出してタダで済むと思うなよ?」


「ほう、まさか本命が自ら来てくれるとは。」


「本命?なんだ、俺に用があるなら直接言ってくりゃいいだろ!」


「人質を取った方が話はしやすいですからねぇ。思ったより早く来られてしまったのが計算違いでしたが。」


どうやら八助達を人質に俺達と交渉をしようとしていたらしい。


「お久しぶりね、槍梨。まぁ私はずっとあなたの後ろをつけていましたがね。」


「お主、段蔵か?!拙者が背後を取られるとは不覚!!」


悪い想像は的中。この2日間どうやら槍梨の更に背後にヤバいやつが隠れていたらしい。


「単刀直入に言いましょう。そちらの姫君お二人を差し出して頂けませんか?」


段蔵と呼ばれる忍者は枝里花と桃子を要求してきた。


「忍者ってのは女子高生に欲情する変態しかいねぇのか?」


「槍梨と一緒にするでない。その姫君は“猿藤"と“鬼ヶ島"の娘。我々が預かれば交渉を有利に運ぶ事ができる。鬼ヶ島の娘さんはなかなか手強いと聞いておりますので本日は猿藤の娘さんだけでも結構ですよ?」


「それは俺に言う事じゃねぇな。なんてったって2人とも俺より強え。本人達に土下座してお願いしてみやがれ!」


そう言った直後、枝里花の爪が段蔵の顔をかすめていた。


「甘く見られてるみたいね。下忍が調子に乗るんじゃないわよ。」


「いやはや、こちらも血の気だけは多いようで。」


ヒュッ!ヒュッ!


どちらも身のこなしが軽い為、テント上部での戦闘が始まってしまった。


「あちゃあ。枝里花!そこじゃ援護できねぇぞ!」


「心配無用!私だけでこいつくらいやれるわ!」


枝里花はだいぶ頭にきているようでいつもより早いテンポで攻撃を仕掛けていた。


「枝里花、このままじゃまずいわね。」


隣で桃子がつぶやく。呼び方がいつの間にか変わっているが、気づかない内に少し仲良くなってたのか?


「不利なのか?」


「スタミナの問題ね。通常より早いテンポで攻撃してるけど全部かわされてる。その上相手は忍者だから丸1週間でもドブ川に入り続けられるような奴らよ。元のスタミナが違うわ。」


そう聞いたら確かに枝里花の息があがっているように見えた。


「あー!どうにか降りてきてくれたら、なんとかしてやるんだがよぉ!」


「パンツも取り返してくれたし、せっかく友達になったんだから、ちょっとくらいサポートしてもいいよね?」


桃子はそう言うとテントの支柱を掴みに行った。


「む、鬼ヶ島の娘。何をするつもりだ?」


「ちょっとだけ、ね?」


桃子は言葉通りちょっとだけ支柱を揺さぶりにいった。


グラグラグラ!


まず支柱を動かす時点で人間業じゃない事を理解して欲しいが、桃子は楽しそうに揺らしていた。


「ほーら、早く降りないと崩れちゃうぞー!」


あとで桃子に教えてやらねーとな。


崩れるほど揺らす事をちょっととは言わない。

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