第二十三話 スペースシティ

「じゃあ良い?最初はグー!」


俺達は行きの電車の中、席決めのじゃんけんをする事になった。


席が4つ空いてたので1人立っておかないといけないのだが女子2人がじゃんけんで席を決めると言って聞かない。


勝った順に席を決める権利が与えられるというルールだが、早くも俺が勝ってしまったので窓側にポツンと座っている。


「そんなんどこだっていいだろ。早く決めろよ。」


「あ、勝っちゃった。じゃあ僕も窓際もーらい!」


雛乃進も俺の前に座ってきた。


「「ぐぬぬぬ。」」


言い出しっぺの女子2人が闘志をむき出しにしている。いや、席くらい全然変わってやるんだが。


「お、アタイの勝ちか!姉ちゃんら弱いのう。」


紅蓮が俺の隣に座ってくる。


「「うわー!取られたー!」」


2人がシンクロして叫ぶ。いつの間に仲良くなったんだ?


「まぁ一応最後の席だけ決めときましょ。…あ、勝った。」


最後の席は枝里花が勝ち取り、桃子は立つ羽目になってしまった。


今日は寝不足のはずだから座らせてやりたいが、何を言っても桃子は意地を張って座らないだろう。


「ちょっと腹痛くなってきたんだけどトイレのある車両ってどこだっけ?」


「たしか1番後ろの車両だよ?」


「わりい、ちょっと行ってくる!桃子その間だけ席取っといてくれよ!」


そう言ってなんとか桃子を座らせることが出来た俺はトイレに向かった。腹が痛かったって理由を付ければ1時間くらいは仮眠できるだろう。


用はないが一応トイレに向かった俺はとある人物に出会う事になる。


「お、八助!」


「柿太郎!こんなとこで奇遇だな。」


まさかの電車の中で八助とバッタリ出会ってしまった。


「今日は女性陣と密会をするんじゃなかったのか?」


「密会ってなんだよ。今日はあいつらとスペースシティに行こうって話になったんだよ。」


「何?!スペースシティ?!俺達と一緒じゃないか…。」


どうやら八助もスペースシティに向かっているらしい。


「俺達って事は?他にもいんのか?」


「あぁ会長、副会長とお疲れ会という名目で行くつもりだったんだがまさか一緒とはな。」


桃山達もいるらしい。これはまさに昨日のお疲れ会になってきているな。


「大丈夫だ、柿太郎。お前の邪魔はせんぞ!あ、それより、少し気になる事があるんだがもうちょっとだけいいか?」


「気になる事?」


「あぁ、俺の嗅覚もだいぶ開花してきたせいで気になってしまうんだが、昨日からずっと同じ人間につけられている気がするんだ。」


八助の嗅覚だからつけられているのは間違い無いだろう。しかし、その匂いの相手がどうやらこの電車にも乗っているらしい。


「それは一緒に行動してる桃山達とは違う匂いって事だよな?」


「あぁそうだ。そんなに若くない、大人の男性の匂いだ。」


そこまで嗅ぎ分けられるようになったのか。八助がいれば警察犬いらずだな。


「大人ってのが気になるな。尾行してくるって事は阿倍野派の奴らの可能性もあるしな。」


「あぁ途中からわざとドブのような匂いでカモフラージュしてきたからよっぽど慎重なやつなんだろう。だが俺の嗅覚はその程度じゃ誤魔化せない。」


ドブ?途中からドブ?今日も電車に乗っているドブの匂いのおっさん?


「あ、八助。そのおっさんは、もしかしたら気にしなくてもいい奴かもしんねぇ。」


「ん?何か心当たりがあるのか?」


「あぁ、なんて言ったらいいかな。いわゆる3人目のトレイターって奴だ。俺も数回だけ見たが忍者みたいなおっさんだから人前にはほとんど出てこない。多分桃山に聞けば教えてくれるだろう。」


「そういえばいたな!3人目!確かに存在を忘れていた。今日もドブのような匂いをさせてる点からして相当筋の入った忍者に違いない!」


あのおっさん、風呂入ってねぇのかよ。


「ま、まぁ俺の思っている人で合ってるなら敵ではねぇ!一応桃山とイメージを照らし合わせてみてくれ!」


「あぁ、少し安心したよ。ありがとう柿太郎。」


俺達はたわいのない話をした後、解散してそれぞれの席へ戻った。


戻ったら案の定桃子は寝ていたので目的地までそっとしてやる事にした。



「ごめーん!柿太郎様!まさか寝ちゃうなんて!」


「寝かすつもりだったからな。ちょっとは動けそうか?」


「もうバッチリ!優しい柿太郎様好き!」


「ちょ、ちょっと離れなさいよ!」


現地に着いた俺達はいつものやりとりをしながら歩いていた。


各々好きなアトラクションで楽しんでいた矢先に桃子が禁断の発言をしてしまう。


「あのでっかい絶叫系に乗りたい!」


「うむ、アタイは身長制限で乗れないから皆で乗ってくると良いぞ!」


「僕は絶叫系苦手だから…ははは。」


「ふ、不覚。私も三半規管弱いから絶叫系だけは乗れないの。」


早くも3人脱落してしまう。


「じゃあ柿太郎様、一緒に乗ろ?」


「え!ちょ、待って!」


桃子に腕を掴まれて連れていかれる。皆の前では言えなかったが、俺も絶叫系は大の苦手だ。


だが、俺の腕力で桃子に勝てるはずはなく手を解かれた時は既にジェットコースターの席の上だった。


「…こりゃあ腹括るしかねぇな!」


カッコつけてみたが、ただ怖いだけである。


「あ、皆あそこにいるよ!おーい!」


下で雛乃進達がアイスを食べながらこっちを見ている。俺もそっちが良かった。


カタカタカタカタ…


「皆ずるーい!あたし達もあとで食べようね!」


「おう、そうだな…。」


ジェットコースターが上がる時の音が怖すぎて段々何も考えられなくなってくる。


カタカタカタカタ…


「なぁ、これいつまで上がるんだ??」


「わかんない!100mくらいじゃなかった?」


「待て待て、日本最大級の高さじゃないか!それは死ぬ!」


勢いよくジェットコースターが下り坂を駆け降りて行った所で、俺の記憶は綺麗に飛んだ。

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