第二十一話 手紙だったのか!
「いやー、鬼ヶ島桃子の攻略はどうにもならんと思っておったがまさか友達になっていようとは!」
ホッとしたのか槍梨は嬉しそうに話す。
「おっさん、桃子に会ったのか?」
「うむ、姉がいるという情報が入ってすぐ、拙者は校長室へ駆け上がった。まだ全隊戦っている最中であり、誰も登ってきてない時間帯である。拙者は1人で校長室へ忍び込んだ。」
どうやら一番乗りは槍梨だったらしい。
「拙者は絶対にバレないであろう場所に忍び込み聞き耳を立てた。桃子は寝起き一番のゲームをしておった…。」
…数時間前
「はぁ、かったる。なんで休日にあたしが起きなきゃいけないのよ。紅蓮が終わらせてくれれば良いのに。」
朝早くに起こされた桃子はすこぶる不機嫌だった。
「暇だし銀拳のランク上げでもしよー。」
桃子はブレステを起動してインターネット対戦に勤しんでいた。
数対戦終わらせて一息ついた頃だった。部屋に置いていたポテチを食べながら桃子は違和感に気付いた。
「誰かいるなー。」
ポテチをボリボリ食べながらあぐらをかいて目を瞑る。
わずか3秒後
「なぁーんだ。下着泥棒か。おっさん、勝負下着以外なら好きなの持ってって良いから出てってくんない?」
ガタッ
「不覚!…なぜ、ここにいるのがわかった?!」
槍梨がクローゼット下部の下着入れから出てくる。
「普通に気で。害を与えてくる訳じゃないなら攻撃しないであげるわ。ここじゃ大した情報も得られなかったでしょ?」
「むむむ、無念!」
ドロン!
「あ、あいつ本当に下着持って行っちゃった。」
…
「という事があってな。」
「それでおっさんさっきから女物のパンツぶら下げてたのかよ。」
ケツからぶら下がっていたので気にはなっていたが、アレは桃子のパンツだったのか。
「アンタがただの不審者なだけじゃない!相手にもバレてるし、ろくな事しないわね!」
「いや、普段なら絶対にバレない自信があった!これまで数百、数千という場に隠れてきたが見つかった事は一度もなかった!あの娘、只者ではない!身体能力はもちろんのこと、トレイター能力も全くの未知数。本物の化け物とはまさに彼女の事を言うのだ!」
パンツ片手におじさんが必死に語っていた。
枝里花は呆れながらも話を要約した。
「まぁ槍梨さんが下着泥棒した事はさて置いて、あの娘が規格外で立ち位置的にも超重要という事はわかったわ。」
「お父様が喜ぶとかそういうのはどうでも良いけど、私だって命は狙われたくないわ。強い人は味方に付けておいて損はない。それに柿太郎も悪い奴じゃないって言うくらいだし、まぁ仲良くするくらいならするわよ。」
枝里花が仲良し宣言をしてくれた。ほっと胸を撫で下ろす。
「また阿倍野派の人達が襲ってくる可能性もあるし。強い仲間は多い方がいいよね。」
雛乃進も乗り気だ。確かに獅子尾と言い阿倍野派の野郎共はまだ素性が知れない。警戒しておくに越したことはないだろう。
「その点は拙者達にお任せあれ!阿倍野派の者共が容易に攻撃できんように猿藤派が目を光らせておる!」
槍梨を初め猿藤派の人達も俺達に味方してくれるようだ。
「じゃあこれからは所構わずおっさんに見られてる可能性が高いって事だな!」
「心配せずとも野暮な事はせぬ!プライベートな時間は合図一つでその場から去る故!」
「それは助かるな。トイレしてる時にいると思ったら引くわ。」
一通り話が終わり槍梨は満足げに枝里花に話しかけた。
「良い回答が貰えて拙者非常に嬉しく思いやす!では、拙者これにて!」
「待ちなさい。」
枝里花が槍梨を引き止めた。
「パンツは置いて行きなさい。私が明日返しといてあげる。」
「ぬ、ぬぬぬ。殺生な!!許可は得たというのに!!」
槍梨はせっかく手に入れた戦利品を枝里花に手渡した。
「まぁ良い歳のおっさんが女子高生のパンツ持ってるのは気色悪いしな!」
槍梨はしょんぼりしながらその場を去った。
ドロン!
「ホント、使えるんだか使えないんだか怪しいおじさんなんだから。」
「でも中野さんの言う事には忠実だったね!なんでだろ??」
雛乃進が的確なツッコミを入れる。そうだ、こいつは枝里花の本名を知らないんだった。
「た、確かにな!何でだろうな!」
俺も一緒になってとぼける。
ドロン!
「お主ら、もしや手紙を開けておらぬのか?」
まだいたのか、このおっさん。
「手紙ってこれのことか?」
以前槍梨から貰った紙切れを取り出した。
「何という!手紙を貰って開けぬとはどういう事だ?!」
「これ手紙だったのか!上等な布だからお守りにしか見えなかったぞ。」
とりあえず開く事にした。中には確かに2通の手紙が入っていた。
“トレイター判定を受けに来た者達へ。
私は猿藤派の槍梨と申す。まずは謝罪をさせて頂きたい。
この度はせっかく判定を受けにきてくれたにも関わらず阿倍野派の汚い一面を見せてしまい誠に申し訳なく思っている。
我々も阿倍野派の過激なやり方には憤りを感じておる。彼らはトレイターを家畜同然として扱う古い考えの一派である為、このような不幸なトレイターが増えてしまうのだ。
もし、君達がそのようなトレイターを増やしたくないと考えてくれるなら我々に力を貸してほしい。
力を貸す気になった際は、もう一枚の手紙を持って銀河峰女子高校の猿藤枝里花という女子を訪ねてほしい。
何卒よろしく頼みます。"
…
「んー、なんだ。読むのが1ヶ月遅かったな!だっはっはっは!」
「柿太郎は昔から興味が湧かなかったら貰ったもの忘れちゃう癖があるんだよね…。八助君に渡しとけばまだ開けられてたかも!」
「まぁ結果的に同じ事だったから良かったけどね。っていうか苗字バラさないでよ!」
「なんと、まだ苗字を隠されておられるのですか!」
まぁ手紙自体は結果オーライだろう。問題は枝里花の苗字だ。槍梨としては猿藤を名乗って欲しいようだ。
「お嬢、猿藤の名は隠す必要ありません!堂々と名乗っていただければ良いのです!」
「うるさいなぁ。私がどっちの苗字を名乗ろうが勝手でしょ!」
「僕はどっちでも呼んで欲しい方で呼ぶよー。」
苗字呼びしている雛乃進が今回一番の被害者かもしれない。
その日、結局枝里花の問題は進展する事なく、解散する事になった。
解散した後も枝里花と槍梨は言い合いを続けていたようだ。
「私は中田!中田枝里花!」
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