第十九話 全てを噛み砕く牙

獅子尾は俊敏な動きで爪や牙を使い桃子を襲った。


見た所、八助と枝里花を足して更に一つ一つの攻撃力が2人を大きく上回っているように見える。


「金棒じゃなくて猫じゃらしで相手をした方がいい?」


桃子も余裕そうに金棒で攻撃を否していく。


「ふふ、ジャブは効かないようね。それなら本気の攻撃でいかせてもらうわ!」


獅子尾は黄色のオーラを湧き上がらせ、それを自分の牙に集中させていく。


「これは全てを噛み砕く牙。金棒だって無駄よ!」


そう言って桃子に突進して行った。


「そういう説明する人ってだいたい弱いのよね。あんたくらいなら金棒いらないや。」


そう言って金棒を後ろに放り投げた桃子は


…ただ普通に殴った。


ドガアァァァァァッッッ!!


瞬殺だった。桃子の足元には獣人化が解けて転がっている獅子尾の姿があった。


「さっさと連れて帰りなよ。邪魔だからさ。」


桃子の一声に怖気ついた下っ端共は獅子尾を回収して足早に逃げて行った。


「なんだ?威勢の割には大したことなかったな!」


俺が笑い飛ばしてると枝里花が肩に手を置いてきた。


「違うよ、柿太郎。この子が異次元級に強すぎるだけ…。」


そう言う彼女の手は僅かに震えているようだった。



全てがひと段落した所で俺達は校長室に招かれた。


「皆の衆、コーヒーで良いか?」


紅蓮が気を利かして皆に飲み物を準備する。


「私ミルクたっぷり!」


「僕は砂糖たっぷり。」


「ブラックでいい。」


「…紅茶ってあるかしら?」


「あたしはチョコフラペチーノがいいー。」


各々が好き勝手注文する。


「任せろ!ただ、姉ちゃんのは自分で買ってこい。」


「妹なのにひどーい!」


紅蓮は桃子の扱い方をわかっているようだ。


「入れるの手伝うよ。小さいのに偉いねー。」


「小さい子扱いするでない!」


雛乃進は紅蓮の手伝いをしに行った。


「それじゃあ一通り落ち着いた所で話をまとめようか。一応何もなしじゃ締まらないからね。」


桃山が口を開いた。


「今後、鬼ヶ島高校生徒は他校区への侵入の一切を禁じる。」


「えー、厳しいー!」


「むむむ。」


桃山が発言に困る。一定の制約をかけようにも桃子にダメ出しされてしまうからだ。


流石に暴れ出したら誰も止めることが出来ないので腫れ物を触るように扱っている。


「まぁ確かに他の校区には一切入って来んなってのは可哀想だな。」


「でしょー?柿太郎様流石わかってる。好き!」


逆に俺は一言喋る度に抱きつかれる。


(…君が言ってくれれば話は早いんだが?!)


桃山にヒソヒソ声で語りかけられるが、こんなに好意を寄せられてるのにこっち来んなとは到底言えない。


「ナンパとか暴力がいけないんだよな!それさえ無ければ俺たちだって強く言うつもりは無いよな?」


討伐隊幹部が揃って頷く。


「わかった!じゃあどこ行っても良いって条件貰えるなら、うちの生徒がなんかやったら私がブッ飛ばしに行く!」


「それは非常に心強いな…!」


皆も異論はないようだ。


「よし、じゃあ決まりだ。鬼ヶ島高校生徒は今後も他校区の出入りを許可するが、暴力沙汰、ナンパ、その他迷惑行為の一切をしないこと!」


パチパチパチパチ


「話はまとまったみたいじゃの。まぁ茶だけでも飲んでけ。」


紅蓮がコーヒーを皆に配ってくれる。


「紅蓮、お菓子は?」


「アンタが全部食ったんじゃろがい!腐ったうまかろうもんでも食べとき!」


妹はなかなか辛辣だ。


「まぁうまかろうもんならいくらでもあるがな。」


俺はありったけのうまかろうもんを出した。


「え?今どこから出したの?」


「ちょうどお腹空いてたんだー。」


「やったー!コレクションが増える!」


1人反応のおかしい奴がいるが喜んでもらえたようで嬉しい。


「そういえば、なんで柿太郎はいつもうまかろうもんを持ってるの?」


「そりゃ美味いからな。あと誰にでも喜ばれるし何故か家にいっぱいある。」


そういえば物心ついた頃には遊びに行く時は必ずうまかろうもんを持って出るようになってたな。


「小学校の頃はうまか太郎ってあだ名つけられてたもんね!」


雛乃進に言われてそんな事もあったなぁと思い出す。


「そのせいで雛まで、うま乃進って呼ばれてたな!」


「ほんとだよー。僕持ってきた事ないのにー。」


たわいのない話をしている時が1番楽しい。そう思えるひと時だった。


「ところで、討伐隊はこの後どうなるの?解散?」


「まぁ目的を達成した以上やる事無いしね。僕らも受験の年だし解散が妥当じゃないかな?」


皆も黙って頷く。


「まぁ別に連絡先も交換してるし今生の別れって訳じゃない。何かあればまた友達として集まれば良いだけだろ?」


俺がそう言うと枝里花が微笑んだ。


「そうだよね!友達としてなら連絡とって良いよね?!」


「もちろん!枝里花も八助も、桃山達だって皆友達だ!」


「えー。私はー??」


桃子がうなだれる。


「そりゃ桃子と紅蓮もこれからは仲間だ!仲良くしてこーぜ!」


すぐ目を輝かせる桃子だった。


「はーい!ちなみに明日も明後日もそれ以降も、柿太郎様が暇な日は私も暇だよ!」


「!!わ、わたしも!明日は暇だよ!」


なぜか枝里花も対抗してくる。


「おし、じゃあ明日は雛も含めてどっか行くか!」


「「むむむむむむ。」」


桃子と枝里花が不満そうな顔で睨み合っている。


「鋏屋君も隅におけないね!それじゃあ僕達は用事があるからこれでお暇するよ。」


桃山、栗田、八助の3人が立ち上がる。


「おう!お前らも明日来るか??」


「ふふ、それは野暮ってものだろ?楽しんでおいで!」


「あ、僕も野暮かもしんないから明日は勉強しよーかな。」


「雛は来いよ!どこ連れてったらいいかわかんねぇんだから!」


雛乃進が逃げようとするがそうはいかねぇ。


「桃子ちゃん…だっけ?あなたも勉強してても良いよ?」


「ん?私は勉強なんてしないから大丈夫!」


「まぁ何にせよ、明日もここに来るがいい。姉さんは人が来ん限り起きんしな!」


紅蓮がそう提案してくれる。この子は桃子の保護者なのか?


2人に見送られながら俺達は鬼ヶ島高校を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る