第十八話 レベル3
「ねーえ!この子とはどういう関係なの?」
「あなた誰?柿太郎様にベタベタするのやめてくんない?」
可愛い女の子2人に両腕をガッチリホールドされながら1階に降りてきた俺は戦闘中よりも命の危険を感じていた。
これ、答え方次第では俺の命ないよなぁ…。
「やぁ鋏屋君、よくやったね。しかも両手に花じゃないか。もう鉄の掟も君を縛らない。これからは好きに恋愛するといいよ。」
桃山が声をかけてくる。いや、それは今こいつらの前で言う言葉じゃない。
「…そっか、もう鉄の掟なくなるのか!」
「なんかわかんないけど、鉄くらいなら壊せるわよ?」
ほらみろ。各々が危ない発言をしてるぞ。
「ほう、鉄の掟とやらは無くなっちまったみたいだぜ?会長さん。」
「だ、だからなんだってのよ!」
戦いが終わったと知った青鬼と漆野が西門からやってくる。漆野の服はなかなか大胆にはだけている。健全な男子高校生には目の毒だ。
1人でトレイターを相手にするなんてすげぇな!と言ったが、漆野は戦いの内容を一切話そうとしてくれない。
ただ、敵同士だった2人がなんだか良い雰囲気に見えるのは俺だけなのだろうか?
「良かった、柿太郎。無事戦わずに済んだみたいだね。」
栗田の治療を終わらせて後から降りてきた雛乃進も声をかけてくる。
「その言い方、お前なんか知ってたのか?」
「こないだのツタバの女の子だったでしょ?攻撃せず話し合いをしようって言おうと思ったのに、喧嘩する気満々で入って行っちゃうんだもん!」
「雛すげぇな!顔覚えてたのか!」
「そりゃあアレだけ美人だからね。パーカー被ってたからわかりにくかったけど。っていうかあの時も美人だから飲み物あげたのかと思ったよ。」
全く見えてなかった…。それより俺は弟分にナンパ野郎だと思われていたのか。
「俺はそんな事よりあのハサミが気になった。アレは一体どうしたんだ?」
八助がハサミの話を切り出した。
「あれな!すげぇだろ!鬼怒と戦ってる時に覚醒してよ!馬鹿デカいハサミを出せるようになっちまった!あのハサミさえありゃあ脳天叩き割る事ができるぜ!」
「まぁ確かにすごいんだが俺が言いたいのはそこじゃない!あんなデカいハサミが出せるって事は…お前レベルが上がっちゃってるんじゃないか??」
そう言われて俺はゾッとした。現状レベル2のはずだから3になっている可能性があるって事か。
トレイター協会の決まりにより、レベルが高くなるにつれて監視や動ける範囲に制約がかかってくると言う。
今までの私生活が送れなくなり、こいつらとも別れなきゃいけなくなるかもしれない。
「それについては大丈夫よ。柿太郎のレベルはおそらくレベル2のまま。」
枝里花が口を開いた。
「そういえばトレイター博士だったな、枝里花は!」
「あんまり他言しないでよね。私も詳しくは知らないけど、トレイター能力のレベル3ってのは皆が思っているより遥か上、人間でなくなる事を指すの。」
「「人間でなくなる?!」」
皆が一斉に驚いた。
「そう、だから世の中で普通の生活をしている人達にはレベル2までしかいないと言われているわ。一例だけどそれより上がっちゃうと尻尾が生えたり、耳が尖ってきちゃったりして、所謂"獣人化"してしまうみたい。」
「…妖怪みたいになってくって事だな。」
「まぁ、柿太郎はまだまだ人間って事!戦いも終わった訳だし、これからは喧嘩なんかせずにゆっくり暮らすことね。」
ほっと一安心していると空からヘリコプターの音が聞こえた。
バババババババ
「な、なんだ?!」
見上げると側面にはトレイター協会の文字がある。
着陸すると中から見覚えのある女性が出てきた。
「鬼ヶ島高校の皆さんこんにちは!私はトレイター協会の獅子尾と申します!」
「獅子尾…!」
「トレイター協会が何の用じゃ!」
紅蓮が勇ましく獅子尾に問いかける。
「鬼ヶ島高校が悪のトレイターから攻撃を受けていると通報を受けました。トレイター協会としては黙って見ていられませんので緊急出動、同時に悪のトレイター討伐に入らせて頂きます。」
そういうことか。こいつらの狙いは俺達討伐隊だ。鬼ヶ島高校を助けて味方に引き入れる作戦に切り替えたらしい。
「悪のトレイターだぁ?それはお前らの事だろ、獅子尾さんよぉ!」
「あなたは…鋏屋君じゃないですか!よくあそこから抜け出せましたね!」
「あんなしょぼい所入ってられるかよ!次からは極上VIPルームでも用意しやがれ!」
「やはり粗暴さに問題がありますね。全軍、目標を鋏屋柿太郎に!一斉射撃を行う!」
猫やトカゲ、シマウマ等、顔が様々な動物化したトレイター達が続々降りてきてこちらに構えた。
「もしかして、こいつらがレベル3ってことか?!」
「待たんか!戦いはもう終わっ…」
紅蓮の叫びも虚しく砲撃は開始された。
「撃てぇー!!!」
俺に向かって様々な色のオーラの波が押し寄せて…ん?オーラ?
オーラってさっき切ったアレのことだよな?
俺は防御ではなく切ることにしてみた。
ジョキン!
案の定真っ二つに切れたオーラは明後日の方に飛んで行って消えた。
「な?!何をやってる!ちゃんと狙いを定めなさい!」
「いや、確かに当てたはずですぜ!」
「ならもう一度!全軍、撃てぇー!!」
ゴォォォッ!
…ジョキン!
「何回やるつもりだ?わりぃがそんなオーラじゃ全くやられる気がしねぇ!」
俺の言葉に獅子尾達が少し焦り始める。
「お、オーラが効かないのなら直接倒すまでよ!全軍突撃!」
獅子尾が突撃命令を下す…が。
「…あんたら、柿太郎様の半径3m以内に入ったら消すよ?」
と桃子が俺の前に立った。紅蓮同様、手には金棒を持っている。
腕っぷしには自信があるのか、耳に入っていないのか、お構いなしにこちらへ突撃してくる協会のトレイター達。
「おらあぁぁぁ!」
「あっそ。じゃあ地獄へ行っといで。」
まるでうちわをあおぐように軽く一振りした桃子だったが、次の瞬間。
フッ…
ドドドドドドドド!
攻め込んで来ていたトレイター達は1人残らず乗ってきたヘリコプターに打ちつけられて意識を失っていた。
動体視力はある方だと思ったが、何が起こったかさっぱりわからねぇ。
「鬼ヶ島桃子…。なぜあなたが敵対するのです…。」
獅子尾は驚きを隠せないようだ。
「言ってんじゃん!私の柿太郎様に近づいたら消すって!」
「くっ、悪童鋏屋め…。精神的に鬼ヶ島一派を引き込んだという事か!この外道め!」
「無実の俺を牢屋にぶち込んだお前の方がよっぽど外道だろうがよ!」
「牢屋?」
桃子が訪ねてきたので獅子尾に牢屋に閉じ込められた時の事を話した。
ブチッ
同時に、桃子のこめかみのスイッチがオンになってしまった。目が充血して犬歯が発達する。まさに鬼の形相だ。
俺、悪くないよな?
「クソババア、やってくれてんねー。お前マジ潰すから覚悟しとけ?」
「やめておきなさい。私も阿倍野派幹部の端くれ、手を出せば鬼ヶ島派にとってもメリットはないわ。」
次の瞬間、獅子尾が立っていた場所には金棒が飛んできていた。
獅子尾は後ろに下がって避けて臨戦態勢に入った。身体中からオーラが溢れ出てくる。
「残念ね。せっかく鬼ヶ島派と仲良くできると思ったのに。」
オーラに包まれた後、獅子尾の顔が虎のように変貌していった。あまりに恐ろしい姿に俺は声を上げてしまった。
「と、虎人間だぁっ!」
「失礼ね!ライオンよ!」
どうやらメスライオンらしい。わかりにくいがこいつもレベル3、強さは間違いないだろう。
「虎だろうがライオンだろうが、猫みたいなもんでしょ?」
「減らず口が二度と叩けないようにしてやるわ!小娘!」
桃子と獅子尾の戦いの火蓋が切って落とされた。
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