第十七話 優しさとうまかろうもん

階段を駆け上りながら紅蓮に問いかけた。


「お前の姉ちゃんがこの学校で1番強いのか?!」


「いかにも!先程の撃を受けきられたのはお前と姉さんだけじゃ!そしてアタイより強い撃を放って来る!」


つまり俺以上の防御力を持っていながら攻撃力は紅蓮以上と…。本物の化け物じゃねぇか。


「…なんでそんな強いのに皆存在を知らないんだ?」


「引きこもりじゃからの!基本校長室でゲームか昼寝をしとる。食べたい物や飲みたい物がない限り部屋から出てこん!一応この学校の生徒会長じゃが全部アタイに任せてくるからアタイが生徒会長だと勘違いされとる。」


なるほど、強さ以外ポンコツってことか。にしても中学1年生に全て任せるとはどういう事だ。


最上階である5階に辿り着くと校長室付近はシーンと静まっていた。


よく見ると大柄な人間が横たわっていて、誰かが介抱している。


「!!雛じゃねぇか!あと栗田!」


「…うぅ、鋏屋君か。面目ない…。」


「柿太郎!中で八助君達が戦おうとしてるんだ!止めてほしい!」


こいつらも南門の戦いに勝ってここまで上がってきたのか。あの大群をこいつらだけで倒しちまったって考えるとすごいな。


「あとは任せとけ!雛もよく頑張ったな!」


「お主らも強者か!なんでアタイの相手はあんなに弱かったんじゃ?」


「え、この子誰?鬼ヶ島の子?」


「アタイは鬼ヶ島紅蓮!ハサミの主に負けてしまった!次は姉ちゃんとハサミの主のバトルじゃ!」


「え、柿太郎!戦っちゃダメ!止めないとダメだよー!!」


雛乃進の叫びは俺の耳に届いていなかった。校長室の扉を勢いよく開けると大声で叫んだ!


「姉ちゃんってのはどいつだ!」


「えー、また?もう今日はお客さん多いなぁ…。」


奥のテレビでゲームをしながら女の子がブツブツ言っている。


「柿太郎、ダメ、逃げて…。」


ふと横を見ると枝里花と八助が赤いオーラに押しつぶされそうになっていた。


「枝里花!八助!」


俺はハサミを使ってオーラを断ち切った。


「へえ。気を破れる人がいるんだ。」


「姉ちゃん!こいつ強いぞ!アタイの撃が効かなかった!」


「…もう。ちゃんと抑えてねって言ったのに…。」


紅蓮の姉はゲームをやめてすっと立ち上がった。


スウェット姿でいかにも寝起きという感じだ。だが、ゲーム片手間にトレイター3人を抑え込む力はやはり圧倒的と言わざるを得ない。


「この姉ちゃんがお前より強えって事か?」


俺はハサミを手にしつつも少し震えていた。


「そうじゃ!この方こそ、鬼ヶ島勲の長女にしてアタイの姉、鬼ヶ島高校2年生の鬼ヶ島桃子じゃ!!」


「もう、紅蓮うるさい…。」


そう言ってこちらを振り返った。


俺は驚いた。


なんて言ったってその見た目だ。芸能人かと思うくらいに整った顔、ツヤツヤな茶髪の髪の毛。出るとこ出てるのに全体のシルエットはダボついたスウェットごしでもわかるくらいに超スレンダー。


こんな天然記念物レベルの女の子を攻撃しないといけないとなると気が引ける。が、やらなければこちらがやられてしまう。


ジャキン!


俺はデカバサミを出現させた。


「くそ、やるっきゃねぇか!」


「…え?うそ…。」


こちらを振り向いた桃子は少し戸惑いを見せたが、すぐに臨戦態勢に入ったようだ。


次の瞬間、間髪を入れず俺の懐に入り込んできた。


ヒュン!


「は、はえぇ!」


おれはガードをする暇もなく首元を掴むのを許してしまった。


まずい、殺され…。


「きゃー!柿太郎様だ!やっと会えた!!」


…なかった。なぜこの子が俺の事を知ってるんだ?


「ぬぉー!なんと、お主と姉ちゃんは知り合いだったのか!」


「いやいや、全然知らない…。」


俺は否定した。田舎暮らしでジジババ相手に仕事しかしてない俺にこんな美人の知り合いはいない。


「えー!覚えてないのー?!ちょっと待ってて!」


そう言って桃子はどデカいクローゼットに入って何かを漁り始めた。


「これならわかるかな??」


そう言ってピンクのパーカーに着替えて出てきた。頭には可愛い鬼をイメージしたツノがデザインされている。


「そのパーカーどこかで…。あっ!ツタバでフラペチーノあげた子か!」


「ピンポーン!」


認知されたのが嬉しくなったのか俺に抱きついて来た。


「まさか愛しの柿太郎様がわざわざ部屋まで来てくれるなんて…。私今日討伐されても良い!」


「待て待て、俺はフラペチーノやっただけだぞ。」


「他にも貰ったよ?優しさと、うまかろうもん!」


そう言って俺が以前あげたうまかろうもんを見せてきた。


「おま!それいつのだよ!腐ってんじゃねぇのか!」


「えー、柿太郎様から貰ったのに勿体無くて食べられる気がしないよー。」


遥か1ヶ月以上前にあげたうまかろうもんを大事に保管していたというのだ。これは間違いない、アホの子だ。


「で、柿太郎様!今日は何しに来たのー?」


「あ、それだよそれ。俺は一応鬼退治に来てんだ。チンピラ共が俺らの校区を荒らしてるのをやめて欲しくてよ。」


「なーんだそんなことか。おっけー!やめさせとくね!」


ん?


俺は頭が追いつかなかったので枝里花と八助の方を見た。


2人とも俺と同じ「ん?」という顔をしてた。


「…え、ほんとにやめてくれんのか?」


「チンピラが他所に行くのをやめさせたら良いんでしょ?アイツ達にはキツく言っとくね!紅蓮が。」


桃子はニコニコしながらそう言ってきた。


「…これは討伐完了で良いのか?」


「あぁ、そうだな…。」


八助も戸惑いながら返事を返してきた。


なんとも締まらないが、これにて討伐完了という事らしい。


桃子が合図をすると、紅蓮が奥の部屋から全校放送用のマイクを取り出した。


「全軍攻撃をやめよ!この戦い、鬼ヶ島軍の負けじゃー!」


外からガヤガヤと声が聞こえてくる。


見下ろすと嘆くもの、喜ぶもの、安堵するものと様々だ。


鬼ヶ島の連中と討伐隊の連中が仲良く肩を貸し合っている姿も見える。


「なんだ?そんな悪いやつばっかりじゃなかったんじゃないのか?」


「もちろん良いやつばっかりじゃ!ただ頭があまり良くないでの。欲とか金とかに弱い奴が多いんじゃ!」


まぁどの学校にも良いやつ、悪いやつってのはいるもんだ。


「ねぇ、あの子だーれ?」


枝里花が俺に問いかけてくる。


桃子の事を聞いてきているんだろうが、いかんせん俺もよくわかっていない。


なんて答えるべきか考えながら俺は1階に降りる事にした。

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