第十六話 お前が相手してくれるのか?

2番隊から3番隊に異動を任じられた女子達は急いで東門へ向かっていた。


だが、そこで見たものは想像を絶する悲惨な光景だった。


「あなた達、来ちゃダメ。逃げなさい…。」


そこには青鬼に捕まった漆野の姿があった。


「漆野さん!どうして!」


周りを見渡すと隊員達は全員倒れており、漆野が最後の1人となってしまっていた。


「お?新しい姉ちゃん達をよこしてくれたのか?サービスがいいねぇ。」


青鬼が女子達に視線を移す。


「私の事はいいから!あなた達じゃ勝てないわ!他の隊と合流しなさい!」


「ひぃぃぃ!」


女子達は一目散に逃げていった。


「おやおや、せっかくの女の子が逃げちゃった。」


「あなたの相手は私でしょ?浮気者はモテないわよ。」


「そうかい。じゃあ君に相手してもらおうかな…。」


ペロリ…



ドドドドドドドドドドドド


再び、場所は変わって西門。


黒鬼と鬼怒の全力の連撃が4番隊の2人を襲っていた。


「何が真の能力だ!結局ハサミじゃねえか!こんなもんすぐぶっ壊してやるよ!!」


連撃を防いでいるのは先程の大きなハサミだ。


「無駄だ。お前達の蹴りじゃ俺のハサミは壊せない。」


ハサミは壊れるどころか蹴られるたびに熱を帯び、どんどん赤く光っていく。


「くそ、硬えなぁ。兄弟、なんか対策はあるか?」


止血され正気に戻った黒鬼が鬼怒にアドバイスを求める。どうやら攻撃力と引き換えに知力が極端に下がる為、元に戻されたらしい。


「あのハサミはあそこで地面に刺さってる。あんな馬鹿デカいハサミ、柿太郎の奴には到底持ち上げる事はできねぇだろう。両サイドから攻撃すればどっちかの攻撃は当たる。当てた方が仕留めに行こう。」


以前俺のパンチを受けた事のある鬼怒はたかをくくっていた。俺の腕力は所詮一般人レベルだと。


「お前もよく頑張ったな。だが俺達の本気の蹴りは片手では受け切れまい!さぁ、どっちの蹴りを受けたいか選べ!!」


左右から攻めて来る黒鬼と鬼怒。ほぼ同時に俺の元へ辿り着き双方から最高威力の蹴りが放たれる。


ドゴオォォォォォォォ!!


「「ぐあぁぁぁぁぁ!!」」


蹴りをかましたはずの2人は同時にその場にうずくまった。


攻撃をぶち込んだ先はお互いの脚。つまりそこに俺はいなかった。


「あいつ、どこへ消えやがった?」


「上だよ。」


俺は木の上から巨大バサミを持って飛び降りた。


「な、なぜそこに?!お前の腕力じゃそんなデカいハサミは持てないだろう?!」


「普通の物体ならな!だがこのハサミは俺の能力だ!俺が持てないわけねぇだろ!!」


相手の攻撃と同時にハサミを消した俺は、瞬発力強化で枝里花に木に登ってもらった。俺くらいは軽々と連れて上がれるくらいの腕力は枝里花も持っている。


そして今、同士討ちをしたタイミングこそ絶好の攻撃タイミングってことだ。


「今までの分、倍返しにしてやらあぁぁぁぁぁぁ!!」


ゴンッ!!!!


俺は巨大バサミの刃部分を掴み、持ち手部分を2人に向かって盛大に振り下ろした。


ドゴオォォォォォォォッッ!!!!


「切れねえなら殴りゃあいい。ハサミは使いようだぜ!」


直撃した2人は校舎の方に吹き飛ばされ、完全に意識を失っていた。


「柿太郎すごーい!!あんなの出せるなんて!トレイター2体同時撃破とかヤバくない?!」


枝里花が超ハイテンションで抱きついてくる。


「木の上まで連れてってくれた枝里花のおかげだ。まだ実感は湧かないけど倒せてよかった。」


「うんうん、これで最強部隊の名声は我々4番隊のものになりそうだねぇ。」


枝里花はおどけながら言う。いつになく上機嫌だ。


「よし、じゃあさっさと校長室へ向かうか。他の隊も長くは持たねぇだろ!」


その時、北門の方で何かが光った。


ドォォォォォォォォォォォン!!


轟音と共に黒い煙が上がる。


「あそこ、桃山んとこだよな?あんな攻撃、一般人のアイツらが受けたらやばくね?」


「うん、間違いなく死人が出るレベルだよ。あれは。」


俺達は話し合った結果、2人で北門へ様子を見に行く事にした。相性が良い方が赤鬼と対峙し、もう片方が校長室へ向かうと言う事で話は決まった。



「煙でなんも見えねぇし焦げ臭いな。雷でも落ちたか?」


ゆっくり近づいていくと北門まで辿り着いてしまった。


そこには2番隊の隊員達が横たわっていた。


「おい、おまえら!大丈夫か?!」


皆息はあるようだが重症だ。動けるやつはいないだろう。


「は、鋏屋君かい?西は突破できたのか…。」


桃山がなんとか立ち上がりこちらに声をかけてきた。


「ダメじゃないか…。こんなとこ来ずに君達は校長室へ向かわなきゃ…。」


「おめぇは自分の心配しろよ!赤鬼ってのはやべぇのか?!」


桃山が息をつきながら指差す。


「彼女ならそこだ。ただ強いってもんじゃない…。化け物だ…。」


だんだん土煙が晴れてきて姿が見えて来る。


「んー?なんかさっきよりザコが増えとらんか?」


鬼ヶ島紅蓮。校長である鬼ヶ島勲の娘だ。


中学1年生なだけあって身長は低いが、出しているオーラが鬼怒達のそれとはレベルが違う。


「あぁオーラでわかる。こいつはやべぇ…。よく今まで相手にできたな。」


「違うな。相手にしてもらえなかったんだよ。自分が攻撃したら味方にも被害が及ぶとわかっていたんだろうね。」


周りをよく見ると倒れているのは討伐隊の連中だけじゃなく、鬼ヶ島高校の奴らも倒れていた。


「おめぇが1人でやったのか?!」


「いかにも。手加減したつもりだが、思ったより弱くてオーバーキルになってしまったがの。」


こいつの攻撃力はヤバイ。枝里花じゃ到底受けきれないだろうからやっぱりここは俺が適任だ。


「枝里花、上は任せた!俺がこいつの気を引いとくからその内にダッシュで駆け上がれ!」


「わかった!柿太郎、死なないでね!」


そう言って枝里花は駆け足で登っていった。


「…誰に言ってんだよ。討伐隊一の防御力を持ってんのはこの俺だぞ。」


「ほぉ、今度はお前が相手してくれるのか?」


パァッ!


俺は巨大バサミを出現させた。


「どんな攻撃でも受けてやる。全力できやがれ!」


「…やっていいのか!」


紅蓮はニヤリと笑うと金棒を構えた。


「波っ!」


掛け声と同時に赤いオーラが飛んでくる。


ハサミがバチバチ言ってやがる。意識が飛びそうだがこのハサミなら受けきれると確信した。


「ハァ、ハァ、やるな…。オーラ飛ばすとか漫画の世界じゃねぇか。でも…まだいけるぜ。」


「ほぉ、なかなかやるじゃないか。ならこれはどうだ。」


「撃!」


今度は瞬時に間合いを詰められ金棒での打撃攻撃だ。


バコォォォォォォン!


「クッ!!」


ハサミと金棒がぶつかり合い、赤い火花が飛び散る。


「やっべぇ、これは痺れる!」


これもなんとか堪えたが、連発されると流石の俺も危ない。


一歩引いた紅蓮が一息ついて沈黙した。


「ん?なんだ?俺に怖気ついたのか?!」


ヤバイとはわかっていても挑発をしてみる。2発目が来たらやられてしまう可能性も非常に高い。


「…お主、すごいなぁ!あたいの本気の撃を受け切るなんて!姉さん以来だ!」


…褒められてしまった。


「ほ、本気?姉さん?どういうこと?」


「だから、今の撃があたいの本気だよ!アレが効かないならもう何しても通らない。アタイの負けだ!」


い、潔過ぎじゃありませんか??


「は、はぁ。で姉さんとは?」


「ん?校長室におるぞ。さっきのおなごは姉さんと戦いに行ったんじゃないのか?」


「ん?待て待て待て。校長室にいるのは鬼ヶ島勲じゃないのか?」


「親父は用がある時しか学校には来ん。校長室は姉さんの仮眠室と化している。さっき起こしたが二度寝しとるかもしれん。できればゆっくり起こしてやってくれ。怒らせるとアタイも手がつけられない。」


まずい!!


最強は鬼ヶ島紅蓮ではなかった!その姉がいてそちらが最強という事か!


だとしたら、枝里花が危ない…!


「えっと、俺は勝ったんだよな?じゃあ校長室へ向かっても良いわけ?」


「うむ、案内してやろう!」


なぜか案内してもらえる事になった。と、同時に最上階で爆発音が聞こえた。


ドカァァン!!


パラパラ…


「ありゃー?姉さん怒らせたかぁ?」


紅蓮が頭をかきながら言う。


「こりゃあ急いだ方が良さそうだな!」

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