第十五話 頭の出来が違うんだよ。

場所は西門。銀河峰女子の生徒会長、漆野が率いる約20名の3番隊が到着した。


「相手が黒鬼じゃないと良いけど…」


漆野がつぶやくや否や門の前に1人の男が現れた。


「ありゃ、もしかして銀女の会長さん?これは当たりだ。」


青い髪にスタイルの良い美少年が現れた。


「あなた、青鬼ね。私たちが相手だからってあまり甘く見ないことね。」


「いかにも。俺は青鬼正也〈あおきまさや〉だ。だが決してお前達を甘く見て当たりと言ったわけではない。」


「じゃあ何が当たりだと言うの?!」


「顔がサイコーに好みだ。」


ポッ。


「隊長!ポッじゃないっすよ!なんで敵に好意を向けられて喜んでんすか!」


「そ、そうね!危なかった!いくわよ!全軍突撃!」


ワァーーーーーッ!


青鬼の爪対策でガードを身体中に巻きつけた戦闘員達が次々に突っ込んでいく。


「おやおや、嘘じゃないのにねぇ。残念だ。」


シャキン!


青鬼は爪を光らせて隊員達を切り付けて回る。が、


「中野さんに協力してもらって爪対策はバッチリしてるぜ!」


木のガードを腕にくくりつけているのでちょっとやそっとの力ではダメージを与える事は出来ない。


「そんなせこい事してくんのか。ちゃんと狙わなきゃなー。」


そういうと隊員達の間をするすると抜けていった。


うわあぁぁぁぁ!


「何が起こったの?!」


「あぁ、ガード邪魔だったから隙間を狙って切らせてもらったよ。」


枝里花程の強力な爪力ではなさそうだが、彼の方がテクニックは上なのだろう。弱点をしっかり見極めて攻撃をして来る厄介な敵だ。


「まだよ!続いて第二陣!銀女隊!」


第一陣の男子達がやられてしまったので第二陣の女子が出ることになった。


「男の子達あんなにあっさりやられちゃったのに私たちで大丈夫かな?」


「負ける気でいっちゃダメよ!頑張らないと!」


そう意気込んだ矢先、青鬼がため息をついた。


「おいおい、勘弁してくれよ。俺は女の子は切れねぇんだ。」


意外にも紳士な奴だった。これはチャンスだと思った漆野はすぐに指揮を取った。


「第三陣の男子はすぐに北門の2番隊と合流しに行って!同数の女子と入れ替わってきて欲しい!」


「了解です!」


そういうと残りの男子は北門の方向へ走り出した。


「そうきたか。だがそれも駄策だねぇ。」


青鬼は何やら企んでいるようだった。



「桃山隊長!伝言です!」


「ん?君達は3番隊の?どうしたんだい?」


理由を話すと桃山はすぐに補佐部隊の女の子5名を呼んだ。


「ここは良いから3番隊の手伝いに行ってあげてほしい。どうやら青鬼は女の子には手を出せないようだ。今来た男子達はこのまま2番隊の戦線に入って欲しい!」


「了解です!」


2番隊は桃山が天塩にかけて育てた剣道部隊だ。全員が木刀を所持している。


一般隊員同士の戦いでは2番隊が少し有利に動いているように見える。


だが桃山の顔は引きつっていた。


「さぁ、いつ仕掛けて来るんだ。赤鬼さん。」


鬼ヶ島部隊の1番後ろには赤髪の小さな女の子が金棒を持って仁王立ちしている。


彼女こそ鬼ヶ島紅蓮。敵の総大将だ。背は低いが発しているオーラは人のそれではない。まさに鬼だ。


「あの子に金棒を一振りでもされると終わりそうだね。」


桃山も剣道の達人で木刀を持っているが、やはりトレイター相手では分が悪い。


「フン、つまらん。ザコしかおらん場所で力を使う気にもならんわ。」


幸い、紅蓮にとってはかなり低レベルな戦いをしているようで興味を持たれていない。


「このまま興味を持つ前にどこかが突破してくれたら嬉しいけど、多分そうもいかないよな。」


時間稼ぎという点では1番仕事が出来ているようだが、それも時間の問題といったところか。



一方ここは南門。


北門とは違い戦況が動いていた。


「くっ、速いな。全く見えない。」


「ふっ、君が遅すぎるんだよ。」


八助が手こずっている相手こそ南門の大本命、白鬼透〈しらきとおる〉だ。光のような速さで動いている為、誰も捉えることができない。


「あの速さでは砲丸は当てられんぞ!」


「あぁザコを減らしてくれ!俺は白鬼に集中したい!」


白鬼が戦線に参戦した事で八助がタイマン状態に入ってしまった。


これで全然は一般兵2人になってしまったので形勢が押され気味となってしまっている。


「八助君も頑張ってるけど、相手が速すぎるね。一方的に攻撃されてるよ…。栗田さん、投げるスピードを上げて欲しい!」


雛乃進が分析しながら戦況判断をしている。


「そんな事言ったってこれがMAXスピードだぞ!」


栗田も全力で投てきを繰り返している。一般兵2人で抑えられているのは間違いなくこの投てきのおかげだ。


「現状を切り開くキーマンは、やっぱり八助君か…。」


「くっ、噛みつけさえすればこんな奴一撃なんだが…。」


苦戦する八助に、戦場を見ながら砲丸を次々準備する雛乃進。


広く戦場を見渡すと雛乃進はある事に気がついた。


「栗田さん、校門右側の銅像の足元に向かって砲丸を投げて欲しい!ただタイミングは僕が言うから少し待ってて!」


「あの校長の銅像だな!承知した!」


「八助君、聞こえる?そこから3m右側に寄った所で戦って欲しいんだ。」


「了解!」


八助が右側にそれていく。


「栗田さんいくよ?…せーのっ!今だ!」


雛乃進の号令と同時に栗田の全力投球した砲丸が校長の銅像にクリーンヒットする。


そのまま八助の方にゆっくりと倒れていった銅像は音を立てて崩れ落ちた。


ガラガラガラガラ!


「あーっ!犬飼君に当ててしまったんじゃないのか?!」


「いや、大丈夫!」


土煙が上がると苦痛の顔をした白鬼がそこに立っていた。


「てめぇ、何しやがる!」


白鬼の肩に銅像をぶつける事が出来た。が、それと同時に白鬼の標的が栗田に変わった。


「まずい、こっちに来られると投てきができなくなるぞ!」


白鬼が栗田に狙いを変えることを悟った雛乃進は身を挺して栗田の前に立つ。


「投げさせたのは僕だ。さぁ好きなだけ攻撃すると良い。」


「…命はないと思え。」


白鬼が雛乃進に飛びついた。首をガッチリと抑えつけてもう抵抗出来そうにない。


「死ねえぇぇぇぇ!」


「助かった、雛乃進。これでこいつを倒せる。」


「??!」


雛乃進に飛びついた白鬼だったが、それにより動きを止めてしまった為、八助に捕捉されてしまったのだ。


首元にガブリと噛みついた八助は白鬼の意識が飛ぶまで離すのをやめなかった。


「…てめぇらとは頭の出来が違うんだよ。」


白鬼が落ちた南門に強敵と呼べる者はもういなかった。

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