第十四話 女のケツを追うのが好きな奴だな!
「お前、猿山の大将みたいな面してた割にはNo.2らしいな。大した事ねぇじゃねぇか!」
「フン、そのNo.2に勝てなかったザコはどこのどいつだ?」
ヒュッ…ドン!
鬼怒が俺に向かって素早く蹴りをかまして来る。が左手で軽く受け止める。
「何十年前の話してんだよ。現に今、お前の蹴り効いてねぇぞ?」
「ほう片手で止めるか。なかなか鍛えたみたいだな。」
そういうと鬼怒の背後からもう1発蹴りが飛んできた。
「はじめまして、雑魚野郎!この前はうちの鬼怒ちゃんが世話してやったようだな!」
「お前が黒鬼か…」
かかと落としを右手で受けて2人の強敵と向き直る。
「いかにも、黒鬼隊隊長の黒鬼芳樹〈くろき よしき〉だ。まぁ隊長と言っても鬼怒ちゃんとコンビ組んでる2人組だけどな。」
「あぁ、ザコい下っ端なんざいらねぇ。俺達は2人で戦うのが1番強え!!」
そう言って見事なコンビネーションで俺に蹴りを連続でかましてくる。
だが俺の仕事はこの攻撃をしっかり受けきる事だ。そうすれば…
ズバッ!
「ガアッ!なんだ??腹を斬られた?!」
黒鬼が片膝をつく。
「あら、痛かった?あんまりよそ見してるから鈍感なのかと思ったわ。」
枝里花の爪が黒鬼の横腹を襲ったようだ。瞬発力強化と爪力強化のおかげで、枝里花は攻撃範囲外から瞬時に近づき攻撃を入れる事が出来る。
「お前の相方は女か。つくづく女のケツを追うのが好きな奴だな!」
鬼怒が挑発を入れて来る。
「悪いが女の質が違うんだ。一緒にしねぇでくれるか?」
「はぁ、よく言うぜ!真希の体はなかなかのもんだったぜぇ?!」
鬼怒は蹴りを繰り返しつつ、どんどん饒舌になっていった。
鬼怒の発言が過激になっていくにつれて、後方で荒い鼻息がどんどん大きくなってくる。
「ん?真希とは。もしかして我が校の真希ちゃんの事かい?」
気がつけば野々山が真顔で突っ立って鬼怒に質問をしていた。
「ばかっ!こんな前に出て来るんじゃねぇ!!」
「誰だ?お前みたいなキモオタ知らねぇぞ?」
「僕は野々山だ。君が言ってた真希っていう子は我が校の真希ちゃんのことかい?」
「あぁそうだよ。胸がでけぇお前らの学校のアイドル真希の事だよ。まぁもう食っちまったがな。」
ブチッ!
野々山の中で何かが弾けたらしく鬼怒に向かって突撃していった。
ドゴォッ!
だが虚しくも鬼怒の蹴りが炸裂。遥か後方にブッ飛ばされてしまった。
「あのバカ!だから出てくんなっつったのに!」
土埃の中から死にそうな顔の野々山が立ち上がって来る。
「ほう。俺の蹴りを受けて立ち上がった一般人はお前で2人目だ。」
「そんな事はどうでもいい!真希ちゃんを返せ!」
もう一度野々山が突進していくが、再度鬼怒が蹴りの構えに入る。
ガッ!
俺は急遽2人の間に体を潜り込ませ、鬼怒の蹴りをガードした。
「豚野郎!おめぇじゃ勝てねぇから下がってろ!」
「うるさい!僕は真希ちゃんを取り戻しに来たんだ!死ぬまで突進してやるさ!」
絶対に退かないという男の強い信念が見えた。
俺は鬼怒の蹴りを弾き返して野々山に言った。
「…そんなに大事なら自分の手で取り返してこい!ただ攻めだと俺はフォローできねぇぞ!」
「百も承知!」
野々山は全身全霊の力で鬼怒に向かって行った。体重が乗った良い突進だ。これなら鬼怒にもダメージを…
ドゴォッ!!
与えられるはずもなく、横腹にローキックをかまされていた。
「…ま、まだ。」
生まれたての子鹿、いや子豚のようにプルプルしながら頑張って立っている。
「真希、真希とうっせぇ奴だな。真希ならもう俺の子を孕んでる。何を言ったって無駄だ。」
「えぇぇぇぇぇぇぇ…?!」
そう言って野々山はその場に崩れ落ちた。
いや、それ先に教えてあげてよ。蹴られ損じゃない。
「よくわからない奴だったが、これで正真正銘2対2だな。」
「野々山、お前の死は無駄には…。すまん、やっぱ無駄だ。」
黒鬼に攻撃を仕掛けていた枝里花が戻って来る。
「遊んでる場合じゃないでしょ?早くこいつら倒すよ!」
「そうだった!とんだ邪魔(野々山)が入ったがもう手加減しねぇぜ!」
そう言って俺はハサミを握りしめてガードの態勢に入った。枝里花は俺の後ろに身を潜める。
「結局守りしか出来ねぇのか貴様は!つまらん奴だ!」
「鬼怒ちゃん、ちょっとどいてくんない?」
…ゾオッ!
鬼怒の背後から禍々しい気を感じる。これは黒鬼の気だろうか?
「…黒鬼、もしかして血が足りねぇのか?」
鬼怒が何やら驚いている。
「そうだね。血がね。」
そうポツリと言うと急に黒鬼が笑い出した。
「血が!血が!血がガガガガガガがががガガガガガガ!!!」
そう言うと同時に枝里花と同等の速さで俺に突っ込んで来た。
ドゴォッ!!!!
先程とは比べ物にならない程の強さだ。耐える事は出来たが手がビリビリしてやがる。
「一体なんだってんだ?!」
「ふふ、教えてやる。黒鬼は力はあるが心が弱い臆病者なんだ。血が流れたり自分が死に近づく程に強くなるんだよ、こいつは。」
「がががガガガガガガがガガガがががががが!」
連続の蹴りが俺を襲って来る。
「枝里花まずい。こいつは先にやっちまった方がいいかもしんねぇ!」
「そうだね!背後をとって奇襲を仕掛けてみる!」
そういって飛び出るが黒鬼の首が180度後ろに回る。
「…ミエテル。」
「うそっ!まずい!」
間一髪、反転して俺の後ろに戻ってきた枝里花が青ざめていた。
「今の攻撃、受けてたら死んでたかも…。」
「あぁ、ありゃなかなかまずいな。俺も腕以外では受けたくねぇ!」
「ハハハ!やっぱり女の力がないとお前じゃ攻撃はできないようだな!このまま黒鬼に潰されてしまえ!」
鬼怒が高笑いする。
次の瞬間、強烈な一発が飛んできて俺達は後方へ吹き飛ばされた。
ドゴォーン!
「くっ、枝里花。大丈夫か?」
「柿太郎が守ってくれたから私は大丈夫!それより…」
「あぁ次は吹き飛ばされねぇ!ちゃんと受けきってやる!」
「そうじゃなくってね、柿太郎さっき…」
枝里花が耳元で囁く。
「え?!そんなことあるか?」
「わかんないけど本当ならチャンスになるかも。私が陽動に出るから試してみて?」
「お、おい!ちょっと待てよ!まだわかんねぇのに!」
俺を置いて枝里花は鬼怒に斬りかかりに行った。
「あめぇなぁ!嬢ちゃん!俺は視力も良いんだ!そんな攻撃にはあたらねぇよ!」
「そうかもね!でも!」
「ががががガガガ!」
背後から黒鬼が枝里花に襲いかかる。
「待て黒鬼!こっちじゃねぇ!ちぃっ!」
鬼怒の言う事を聞かない黒鬼が枝里花に突撃をかましにいく。鬼怒も頭にきているようだ。
「柿太郎いくよ!」
敵に挟まれた枝里花が急に切り返して俺の方に突進して来る。
それを追うようにして2人の鬼が俺達の方へと飛び蹴りをかましてくる。
「死ねぇっ!!」
間一髪、枝里花が俺の後ろに潜り込み、俺が腕で2人分の蹴りをガードする。
パアァァァァァァァァァ!
俺の腕が真っ赤に燃えた。
と同時にとんでもねぇモノが俺の目の前に現れた。
「な、なんだぁ?!!」
長さ約3m。朱色のボディ。スタイリッシュさの中に力強さを兼ね備えた…巨大バサミだ。
「待たせたな!これが俺の…真の力だ!!」
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