第十二話 …おったまげた。
「え、猿藤ってあの猿藤だよな…?」
「そうだよ、お父さんの名前は猿藤藤吉郎。国立トレイター研究所総所長にしてトレイター協会"猿藤派"のトップだよ。」
「…おったまげた。まさか枝里花が猿藤派からの派遣員だったとは。」
「正確に言うと派遣員は私じゃないんだけどね。3番目のトレイターの槍梨さんが派遣員だよ。」
また新しい名前が出てきた。名前、秘密なんじゃなかったのか?
「…はうあ!これ言っちゃいけないやつだった!」
枝里花が捕虜になったら、こっちの情報全部ばら撒かれてしまいそうだ。全力で守らねぇと。
「まぁ聞かなかった事にしとくよ。俺は枝里花としか呼ばないしな。でもなんで派遣員じゃないのに猿藤の娘が討伐隊に入ってるんだ?」
「それはほんと偶然なんだけど、うちの高校にも鬼ヶ島の連中が来てて、私は元々トレイター発現してるから追い返してやろうと思ったの。そしたら姫っちがまだ時じゃないからって止めてくれて、聞いてみると丁度討伐隊を結成し始めるって話が上がってきたみたいだったから参加させて貰ったの。猿藤派が話を持ちかけてきたのはその後の話。」
姫っちとは生徒会長の漆野姫子〈うるしのひめこ〉のことらしい。
「枝里花が討伐隊に入るって話が父ちゃんの耳に入ったんじゃねぇの?そりゃ娘を危険な目には合わせたくねぇだろ。」
「どうだろうね。あの人が私の心配なんてするとは思えない…。」
うーん、なんか訳ありっぽいな。ここはあまり触れない方が良さそうだ。
「まぁ猿藤とか関係ねぇよ!俺達はとにかくちゃんと勝って生き残らなきゃな!一般隊員の編成もどうやら進んでるみたいだし、俺たちもメキメキ力を伸ばしてる。殴り込みまであと少しだもんな!」
「そうだね…。元々野々山君は当てに出来ないし、私は1人で4番隊を任されてた。元々捨て駒同然なんだから、なにかイレギュラーがあった時は構わず私を置いて柿太郎だけでも突破してね!」
「なぁに言ってやがる!お前を守る為に俺は4番隊に入れられたんだろうがよ!ちゃんと守られてやがれ!」
枝里花は少し驚いた顔をしたが、すぐに明るい笑顔に変わった。
「じゃあたまには守られちゃおうかな?」
「あたぼうよ!悪いが俺は枝里花みたいな瞬発力も八助みたいな攻撃力もねぇ!人一倍あるのはへこたれねぇ精神力と鉄壁の守りよ!どーんと俺の後ろに隠れてやがれ!」
俺はこの修練の最中で気がつくことができた。ハサミを出現させる事しかできない俺は1人ではトレイターを倒す事はできない。
そのかわりハサミを出現させた腕は強靭な防御力を持つ。鬼怒との戦いで1回目は粉砕骨折したのに、2回目はヒビ一つ入らなかったのがその理由だ。
修練の際に枝里花が勢い余って木を切り倒しちまった事がある。俺たちの方に倒れてきてしまい、危うく大怪我を負う所だったが俺の腕で受け切ることができた。
やはり俺の手が赤く光っていたと枝里花が言うので腕力強化で間違いないと思ったのだが、いくらその倒木を投げようと思っても重くて持ち上がらない。
試しに枝里花におもいっきりぶん殴って貰ったが、腕で受けさえすればそんなに痛くない。つまり俺は腕力強化(防御特化)が付いているようだ。
「俺が守って、枝里花が攻める。このコンビネーションさえあれば俺たちは負けねぇ。なんてったって最強の矛と盾が揃っちまってんだ。」
「ふふっ、柿太郎にそう言われるとなんだか自信が湧いてくるね。」
PPP…
ふと枝里花のスマホがなる。
「あ、姫っち。今日?別にいいけど…柿太郎にも聞いてみるね。」
どうやら漆野さんからの電話らしい。
「今日の夜、急だけど集会してもいいか?って。」
「あー俺は全然かまわねぇよ。もう夕方だし飯でも食ってくか。」
俺たちは少し早めの晩飯を食って集会所へ向かった。
…
「やぁ皆お疲れ。急にすまないね。」
現地では桃山が既に到着していた。
「大丈夫だ。今日はなんかあったのか?」
「うん、実は討伐日を早めようと思ってね。」
思ったより急な話だった。
「詳しくは皆が来てから話そうと思うけど、4番隊は修練も順調そうだし心配なさそうだね。」
「あたぼうよ!強くはなっちゃいねぇが役割分担って言葉を覚えたからな!」
桃山は手を叩いた。
「それはすごい進歩じゃないか。あの脳筋だった鋏屋君が1ヶ月でここまで変わるなんて。中野さんの教え方が上手かったのかな?」
ん?これは褒められてるのか?貶されてるのか?
モヤモヤしていると他の隊員達も集まってきて集会の開始となった。雛乃進と八助も来たので一緒に座る事にした。
「柿太郎久しぶりだね!1ヶ月も会わないのは旅行に行く夏休みの時くらいだったもんね。」
雛乃進が声をかけてきた。確かに何をする時もいつも一緒だったから1ヶ月も離れてると長く会ってなかった気分になる。
一緒に八助も話しかけてくる。
「中野さんと2人っきりで山籠りしてたらしいじゃないか。ちょっとはいい感じになったのか?」
「ばっ!別にそんなんじゃねぇよ!」
枝里花がひょっこり顔を覗かせて来る。
「えー、なんだ。そんなんじゃないんだー。」
枝里花が意味深げにニヤリと笑ってくる。
八助達も「やっぱりな」とニヤニヤして、俺が戸惑っていると栗田が声を上げてくれた。
「じゃあそろそろ始めようか!第5回鬼ヶ島討伐隊集会!」
「やぁ皆集まってくれてありがとう。今回は急な連絡があるから僕から手短に話をさせてもらうね。」
桃山が真剣な顔つきだ。何かあったのか。
「結論から言う。非常に急で申し訳ないんだけど、鬼ヶ島討伐日を予定より早めて来週実施させてもらう。」
えええええええええええ?!
集会所で驚嘆する声や怒声が鳴り響く。が栗田の一声ですぐ静かになる。
「静粛にぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「驚かせてすまない。実はちゃんと理由があるんだ。」
そう言って桃山は1枚の紙切れを出した。
「鬼ヶ島からの宣戦布告状だ。こちらが討伐隊を組んでいる事に気がついて先手を打とうとしているようだ。内容としてはこうだ。」
"鬼ヶ島討伐隊の諸君、無駄な抵抗御苦労である。我々は複数トレイターを所有しており毎日体づくりをしている。強靭な肉体を持った戦士も多い。こちらに攻め入って来るのは諦めた方が良いだろう。今からでも解散すると言うのであればこちらも事を穏便にしてやらんでもない。ただし今後も継続する意思が見えた場合、1週間後に各校に刺客を送り込み、お前達の大事な物を根こそぎ奪ってやる。覚悟しておけ。 鬼ヶ島中学 鬼ヶ島紅蓮"
「とまぁ、赤鬼さんから直接ラブレターを頂いちゃった訳なんだよね。」
「いくら女の子でも、そんな強烈すぎるラブレターは貰いたくねぇな。」
俺はポツリと言った。
「で、このまま放っておいちゃうと来週には僕達の学校が大変な事になっちゃいそうだから急いで返信しといたよ。」
"そんな出向いてもらわなくても、ちょうど次の土曜日にそちらに討伐に行く予定だったからおうちで待っててくれると嬉しいな。 桃山"
「ってな訳で日時は来週の土曜日。場所は鬼ヶ島高校。予定より早いけど、鬼ヶ島討伐隊総員で討伐にかかる!!」
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