第十話 私とは嫌?

集会解散後、俺たちも修練とやらに参加する事にした。


他の皆がどれだけ動けるのか見ておきたかったからだ。


「いかにもガリ勉君みたいなやつも交じってるけど、あいつらも戦うのか?」


「彼らは伝達係だね。さっき言ったように純粋な力や物量じゃ鬼ヶ島高校には勝てない。隊毎にインカムを装備させて連携をとりつつ戦っていくのが僕らのスタイルだ。」


「特に僕ら隊長はその指揮役として戦場に立つことになる。君たちがベストなパフォーマンスを出せるよう尽力させてもらうよ。」


「いやなー。あんたの事は認めてるんだけど、俺はどうもあの豚野郎が気に食わねぇんだ。」


「あぁ野々山君ね。確かにすこし個性的ではあるけど悪い人じゃないよ?例の女の子が攫われちゃったって泣きながらうちの学校に助けを求めに来たのは彼だし。」


「悪い奴じゃないのはわかってんだがな。どうも合わねぇんだ。」


そういえば、あの阿婆擦れ女が自分からホイホイついていっちまった事は野々山に言ってやった方が良いんだろうか?


「そうだ、君達には一緒に戦う事になるであろうトレイターを紹介しておこう。そこで皆に指示を出しているガタイの良い男が栗田、特高組はご存知の通り我が校の副会長だ。」


そう言われると大柄な男はこちらを振り向いた。


「やぁ犬飼君達もトレイター発現したんだね。力を貸してくれて感謝するよ。鋏屋君もよろしく、僕は栗田鉄心〈くりたてっしん〉だ。」


「おう、よろしく!近くで見るとやっぱデケェなぁ、確かに1人で1隊くらい潰せそうだ。」


「副会長は陸上部の部長でもあるからな。トレイターだから大会出場することはできないが砲丸投げをやっている。」


犬飼が補足を入れてくれる。なるほど、俺達は身体能力が飛躍しちまってるから一般的なスポーツにはもう参加出来ないってことか。


「では桃山さん、新しい参加者について詳しく聞かせてもらいましょうか。」


後ろから女生徒が2人歩いてきた。声をかけてきたのは先程の銀河峰女子の生徒会長、漆野だ。


「やぁ漆野さん。報告できなくてすまない。数時間前に決まったばかりだったんだ。」


桃山が手短に俺達の説明をしてくれた。俺はその話よりも後ろにいるショートカットの女の子に目がいってしまっていた。


「そういう事だったのね。全くトレイター協会もどうかしてるわ。さて、じゃあトレイター同士仲良くしてもらいたいし、うちのトレイターも紹介しておくわね。」


そう言って後ろのショートカットの子が前に出てきた。


「あ、こんにちはー。えーっと、中野…枝里花です!一応トレイターやってまーす!」


すらっとしたスタイルに半袖Tシャツにホットパンツ姿で飾り気はないが顔は綺麗にまとまっておりボブヘアが非常に似合っている。


「お、おう。…よろしく。」


「柿太郎ってこういう時すごくわかりやすいなー。ピヨ吉もそう思うよね。」


「ぴよ!」


「お前なぁ!」


「はいはい、じゃあ隊長とトレイターの皆さんが集まった所でちょっぴり首脳会議しとこうか。」


雛乃進は後で殴るとして、俺達はトレイターと各隊長達の会議に入る事にした。


「ようやく戦力が整ってきたので、早速だがおおよその隊分けをしておこうと思う。」


桃山が話を始める。


「さっき修練で様子を見た後判断するって言ってなかったか?」


「それは一般の隊員に向けての発言だよ。僕ら隊長とトレイターの皆はすでに役割が決まってるからね。」


「まず1番隊は隊長でありトレイターである栗田を筆頭にある程度前線を張ってくれる隊員を集めるつもりだ。栗田まで辿り着けない限り絶えず飛んでくる砲丸の恐怖を味わってもらうよ。」


聞いてるだけでいきなりえげつねぇなぁ。


「ただし、指揮を取りつつメイン戦力というのはいささか荷が重いのは承知している。ここに犬飼君と白鳥君を参加させて、より守りを固めたい。」


なるほど、犬飼は前線を張りつつ得意の嗅覚で不安要素を嗅ぎ分ける。それを伝達された雛乃進が栗田のサポートをするという戦法か。


「絶対に一つ風穴を開けたいからね。1番隊は最強部隊として君臨してもらうよ。」


「続いて2番隊は僕、桃山が指揮を取らせてもらう。所属トレイターはなし。隊員は全体の4割を想定している。いわゆる守りの鉄壁部隊だ。」


実質的総司令の桃山が自ら鉄壁部隊を率いるようだ。ただでさえ化け物なトレイターを一般人だけで抑えようと言うのだ。精神的支柱は必要だろう。


「そして同じく鉄壁部隊の3番隊。隊長は漆野さん。戦力としてはあまり期待できないが3人目のトレイターをここに配属したい。隊員数は2番隊と同じく全体の4割だ。」


漆野さんも女の子だからな。補助役でトレイターを付けるのだろう。


ん?ということは残った隊長は…


「最後に4番隊、攻めの突破部隊だ。隊長は門限があるから帰っちゃった野々山君。所属トレイターは中野さんと鋏屋君だ。」


「おぉぉぉぉぉぉぉぉい!!なんでだよ!!」


俺の雄叫びが轟いた。


「んー?そんなに私とは嫌??」


中野さんが問いかけてくるので全否定する。


「違う!中野さんは居ていいというか、むしろ居て欲しいというか…とにかく野々山だよ!」


「鋏屋君には言われるとは思ったけどここを覆すつもりはないし、ちゃんと理由もあるんだ。」


桃山が諭すように説明を始める。


「鉄壁部隊は言わば囮部隊だ。隊員もトレイター相手に死に物狂いで戦線を維持するわけだから隊長の存在が士気に関わってくる。信頼に足る隊長を配備しないといけないのはわかって貰えるかな?」


「それに鉄壁部隊と違って突破部隊はトレイター中心の部隊だ。一般人が参加できる状況じゃないと思うし、君達は栗田みたいにサポートが必要なスタイルではないから実質的には連携を取るのは中野さんだけだよ。」


そう言われてしまっては俺も返す余地がない。桃山曰く、俺の能力との相性も考えた結果、個々の邪魔をしない中野さんがベストという結論に至ったらしい。


「では各隊のメンバーが決まった所で修練に移っていきたいと思う。2,3番隊は合同で一般隊員の自衛力強化。1,4番隊はそれぞれトレイター能力や連携力を鍛えて欲しい。」


こうして俺たち4番隊の活動が始まった。

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