第九話 鬼ヶ島討伐隊

桃山が改めて挨拶をして来た。


これで俺達も鬼ヶ島討伐隊の一員になった訳だ。俺達は一礼をした。


「さて、事の発端は例の鬼ヶ島高校、白鬼の襲撃事件だが僕達はある組織を作り上げる事にした。それが鬼ヶ島討伐隊だ。」


「隊長とは言ったが討伐隊の長は全員で4人いる。特進高校生徒会副会長の栗田、銀河峰女子生徒会長の漆野、田舎高校生徒会長の野々山、そして僕。計4人が共同トップとして運営している。」


「うちの生徒会長も参加してんのか…。どんなやつか覚えてねぇけど。」


「田舎高校は鬼ヶ島高校から近いし1番被害が大きいからね。被害校の各会長の目を光らせて信頼できる人、強い人を集めている。特に君達のようなトレイターは大歓迎だ。」


「あ、僕はトレイターじゃないですけど。」


雛乃進が手を挙げた。


「もちろん、僕だってトレイターじゃない。トレイター以外も活躍の場はあるから大丈夫だよ。」


「俺たち以外にもトレイターはいるのか?」


「あぁ、3名在籍してもらっているよ。丁度今夜19時に集会を開く予定なんだ。まずは皆に会った方がわかりやすいだろうし都合が良ければ一緒に行こう。」


「あと、誤解のないように言っておくが、僕達は別に猿藤派って訳じゃない。確かに協力関係ではあるが政界派閥的に懸念がある場合は全く気にしなくていい。」


「ありゃ、そうなのか?その割には阿倍野派の姉ちゃん、かなり本気で潰そうとしてきたぞ。」


「正しくいうと猿藤派もいるけど全員じゃないって事だ。猿藤派としては僕達が勝てば勝者として鬼ヶ島派を引き入れたいし、負けた時は関係ないとしらを切りたいみたいだ。その代わりにかなりの数の戦力を貰っている。」


「なかなか向こうが有利な条件じゃねぇか。よく飲んだな。」


「僕らもまず戦力が欲しいからね。各方面の手練れをたくさん戦力として頂けたけど1番大きかったのはトレイターを貰えた事だね。」


「トレイターはそんな貴重なのか。今日だけで2人も入っちまったけど。」


「そうだね。ぶっちゃけ顔には出してないけど心の中ではガッツポーズしてるよ。本来は鉄の掟だけじゃなくて、ちゃんと入隊テストしないといけないんだけどすっ飛ばしちゃうくらいにね。」


顔に出ないタイプらしいがなかなか上機嫌らしい。


「さて、じゃあそろそろ集会へ行こうか。皆がどんな顔するか楽しみだよ。」


とうとう鬼ヶ島討伐隊の仲間達と初対面だ。舐められないように俺達も気合い入れた。


「僕一般人なのにテストなしで潜り込んじゃったけど本当に良かったのかなぁ?」


雛乃進は1人だけ心配してるようだ。




俺達が連れてこられた先は近所の集会所だった。


ぱっと見40〜50人くらいだろうか。結構な人数が集まっている。


「じゃあそろそろ始めようか!第4回鬼ヶ島討伐隊集会!」


司会台にいる3人の中で1番大柄な男が声を上げた。


「あららー。もう始まっちゃってるねー。しばらく後ろで見ていようか。」


桃山は俺達と一緒に最後列で見物を始めた。こいつ隊長なのにこんな適当で大丈夫なのか?


「前回の第3回集会の後、入隊希望者は更に増えてとうとう50名に達する事ができた!皆の協力誠に感謝する!」


「各校の手練れの者達もたくさん集まってくれて嬉しい反面、相手方の強力な陣形も見えて来たので皆に報告しておきたい!では漆野さん、あとは頼みます!」


大柄な男はそう言って隣の女性に話を振った。あの人が銀女の生徒会長か。


「では相手方の戦力詳細、組織図がわかったので私の方から報告させて頂きます。」


「まず、特進高校付近に出没している勢力、白鬼隊。隊長の白鬼を中心に多くの隊員で構成されており、全隊の中で最大の人数を誇っています。」


「次に銀女付近に出没している勢力が白鬼隊ではない事が判明しました。隊名は青鬼隊、隊長の青鬼(あおき)と複数名で組まれた隊のようです。」


「そして鬼ヶ島高校〜田舎高校あたりで勢力を広げているのが黒鬼隊。実力者の黒鬼(くろき)を長としつつ副長の鬼怒も変わらぬ実力を持っており非常に厄介な隊です。」


あの野郎、あの強さでNo.2かよ。黒鬼とやらはとんでもねぇ化け物に違いねぇ。


「最後に紹介するのが鬼ヶ島最強の部隊、赤鬼隊です。隊長は鬼ヶ島勲の愛娘である鬼ヶ島紅蓮。中高一貫である鬼ヶ島中学の1年生ではあるが実力は他の隊長達とは段違いとの事です。」


「以上が大まかな組織図になります。トレイターは現状で白鬼、青鬼、黒鬼、鬼怒、紅蓮の5人が確認できておりますが、それ以上いる可能性も0ではありません。では何か質問がある方はいらっしゃいますか?」


1人男子が手を挙げた。


「現状こちらには3人しかトレイターがいませんが、あちらは5人以上いるとの事。これからこちらの戦力が増える見込みはあるんですか?」


「現状はありません。トレイターは国立トレイター研究所で管理されており、個人ではトレイターである事を隠している人も多い為、仲間にするのは非常に難しいと考えます。故にこちらは作戦、つまり頭で対抗していくのが重要です。」


「作戦って!頭だけでどうにかなる相手じゃないでしょう!!」


男子が声を荒げて抗議する。おっしゃることは最もだ。


「それについては僕から回答させて貰おう!」


と、隣の桃山が急に立ち上がり前に出て行った。こいつ、カッコいい登場の仕方知ってやがる。


「会長、どこ行ってたんですか!遅刻ですよ!」


「いや、最初からいたよ。新参の仲間を連れて来たから一緒に後ろで聞いてたんだ。」


誤魔化し方まで上手い。これは勉強になる。


「桃山だ。さて、作戦や人員についてだが改めて説明させて頂く。」


意気揚々と桃山が話し出す。


「今日から1ヶ月、皆と修練を通じて各々の能力を把握したいと思う。能力の強さと相性でチームを割り振っていきたいと考えているからだ。」


「隊数は鬼ヶ島と同じ4隊。僕ら4人の長がそれぞれ1〜4番隊の隊長を務めさせてもらう。隊の役目としては相手を攻め落とす突破部隊と、相手を足止めする鉄壁部隊、それぞれを2隊ずつ編成する。」


「この突破部隊にトレイターを集中的に配属させることで相手の2隊を確実に討ち、できた穴から校長室にいる鬼ヶ島勲に押しかけるのが狙いだ。」


「故に補助能力の高い者は突破部隊に配属。回避能力や防御能力の高い者は鉄壁部隊で時間を稼ぐ事に専念してもらいたい。」


別の男子が声を上げる。


「でもこちらのトレイターだって3人じゃないですか!片方の部隊には1人しか配属できないし互角の勝負が良い所じゃないでしょうか?」


桃山がクスリと笑った。


「こちらのトレイターは優秀な人材が揃っている。1VS1でも負けないとは思っているが、せっかくなので突破部隊とトレイターの詳細について話しておこう。」


「まずは1人目、特進高校副会長の栗田、彼は肩力強化のトレイターだ。持ち前の大柄な体格と合わせて投てきで凄まじい攻撃力を発揮する。」


「そして2人目、銀河峰女子高校より中田枝里花。彼女は爪力と瞬発力のトレイターであり、俊敏さでは誰も勝つことができない。」


「最後に3人目だが、彼については素性を教える事は出来ない。特殊な役割を果たして貰っており戦闘向きではないのが実状だ。だが、情報収集力に優れており、今回の鬼ヶ島高校の情報も彼から得た情報だ。」


ガタン!


「では実質2人じゃないですか?!頭脳で戦うと言った矢先に結局タイマンで勝たないといけない訳ですよね?」


そこの男子、盛り上げてくれるじゃないか。いいぞ、もっとやれ。


「ふむ、これでも勝てるとは思っているが君達の不安も承知している。なので今日は特別ゲストを呼んでおいた。」


「…会長、僕ら何も聞いてませんが?」


後ろで副会長の栗田も驚いている。


「あぁ、さっき決まったからね。じゃあ君たち3人、前へ出てくてくれ!」


ざわざわ…


ざわめきと皆の視線が集まる中、俺たちは前方へと招かれた。


この感じ、嫌いじゃないね。


「まずは左手より我が特進高校2年生にして学校一の秀才、白鳥雛乃進。頭が良すぎるので3年生の全国模試をやらせてみた結果、全国2位を取ってしまう程の強者だ。」


「雛、お前そんなに頭良かったのか。」


「試しにやってみてって言われたからやっただけだよ。もう言わないで欲しいなぁ。」


一部の特進高校のやつらから大声援が飛ぶ。よっぽど人気者のようだ。


「続いて同じく特進高校3年生の犬飼八助。先日の白鬼襲撃の件で覚醒したと思われる4人目のトレイターだ。嗅覚と咬合力が武器だ。」


特進高校の生徒達のボルテージは最高潮だ。自分たちの高校にこんなにたくさん逸材が眠っているとは思わなかったのだろう。


「そして最後に紹介するのが、田舎高校3年生の鋏屋柿太郎。彼も黒鬼隊との戦闘の末覚醒した、5人目のトレイターだ。」


「ほ、ほげぇっ?!」


…おい、もっと盛り上がるところだろ?豚の鳴き声しか聞こえなかったぞ。


「き、君は鋏屋くんかい??」


「あぁん?あ、よく見たらうちの学校の豚野郎じゃねぇか。」


「豚とは失礼な!生徒会長の野々山豚郎だ!」


なんだ、こいつがうちの生徒会長だったのか。興味がなさ過ぎて知らなかった。


「おやおや、田舎高校からの参加者は君たち2人だけだから仲良くしてね。」


「逆になんでお前だけ参加してんだよ。しかも隊長とやらに任命されてるみてぇだし。」


野々山は偉そうに発言してきた。


「鬼ヶ島討伐隊の発案者は僕だからね。特進高校でも被害が拡大してるようだったから提案しに行ったら協力して貰えたのさ!」


「なにぃ?!事実なのか桃山!」


「まぁ間違ってはないね。僕達が対策を取ろうと考えてた時にタイミングよく話を持ってきたからそれで行こうって話が進んだからね。」


なんか納得いかねぇ。だが、俺は桃山についてきたんだ。こいつの下につく気はねぇ。


「なんて言ったって僕の愛しの真希ちゃんが憎き鬼ヶ島のチンピラに連れていかれちゃったんだ。その時の悔しさったらないよ!」


「…お前、今なんつった??」


「え?僕の愛しの真希ちゃん?」


「お前のじゃねぇだろ!お前が真希ちゃんと話してるとこなんて見たことねぇぞ!」


「な、なんだよ!もしかして君も真希ちゃんの事が好きなのかよ!」


「君もじゃねぇ!お前は所詮、真希ちゃんの巨乳しか見てねぇんだろうがよ!」


「そ、そそそんな訳ないじゃないか!!そういう君こそ、真希ちゃんの胸しか見てないんだろぉ?!」


「ちちち違わい!お前と一緒にすんじゃねぇ!」


「はいはい、女子高生もいる前で胸の話はやめようね。」


気が付けば銀女の生徒達から白々しい目で見られていた。くそ、全部こいつのせいだ。


「少し見苦しい所を見せてしまったけど、彼らが新しい仲間たちだ。戦えるトレイターもこれで4人。どうだい?勝てるビジョンが見えてきたんじゃないかい?」


再び館内で大歓声が沸き起こった。


「じゃあこれから1ヶ月、みんなの能力と力量で隊分けをしていくからよろしくね。僕からは以上だよ。あとは栗田よろしく。」


「漆野さんも特にないですな?では以上にて集会を解散とする!修練をするものは引き続きこの場を使うと良い!以上だ!」


こうして俺の集会初参加は微妙な雰囲気で終わった。


絶対に実力で討伐隊の皆を見返してやる。

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