第八話 …なぁんでだよぉ!!

時刻はちょうど16時という事もあり、部活を終わらせた生徒達が次々帰って行こうとしていた。


「部長さん、まだいるかな?」


「あぁ、必ず1番最後に帰る人だからな。今頃おそらく部室で精神統一をしている。」


「なんか人間的にもすごそうな人だな。雛は知ってんのか?」


「知ってるも何も生徒会長の桃山君でしょ?うちの生徒で知らない人はいないよ。」


秀才で有名な特進高校の生徒会長とは、どうやら本当に大物らしい。


…ガチャ


「失礼します。…部長おられますか?」


「やぁ犬飼君じゃないか。今日は通院で部活は休みじゃなかったのかい?」


そこには一枚の畳の上に道着姿で座っている坊主頭の好青年の姿があった。


「はい、その通院の件も含めてお話をしようと思って学校まで来ました。ちょうど部長しかおられないので部外者も含めてお話しても良いですか?」


「おやおや、他の学校の子まで来てるんだね。その面持ちからして、何やらただ事じゃなさそうだね。」


そうは言うものの桃山は落ち着いている様子だった。


「俺は鋏屋柿太郎!田舎高校の3年だ!よろしくな!」


「こんにちは鋏屋君。僕はここの生徒会長と剣道部部長をしてる桃山と言います。白鳥君もこんにちは。」


「えっ、こ、こんにちは。僕のこと知ってるんですか?」


雛乃進が意外そうに尋ねた。


「もちろん!2年生にして学校一の秀才と言われている君を知らない訳がないさ。どうだい、生徒会に入らないかい?」


「そ、それは遠慮しときます。」


「ハハハ、まぁ気が向いたら頼むよ。それで本題といこうか。」


八助が今日あった事の顛末を話し始めた。黄昏時という事もあり俺は1人グラウンドを眺めていた。多くの生徒がすでに帰っており、夕焼けに照らされただだっ広いグラウンドは少し寂しく感じた。


「なるほど。トレイター協会でそんな動きがあったのか。阿倍野派のおじさん達もそこまで動き出してるなんてね。」


「何か知ってんのか?!」


「まぁ知ってると言えば知ってるよ。でも全てを教えるのはこちらもリスクが大きすぎるなぁ。」


そう言って渋ってくる。こいつの事好きじゃないかも。


「まぁせっかく来てくれたんだし、少しくらいはいいか。」


やっぱ好きだ。どんどん話してくれ。


「あれは1ヶ月前のことだった。犬飼君もご存知の通り鬼ヶ島の奴らはここ特進高校付近に出没するようになった。」


「金をたかったり、女の子をナンパしたりと、ろくでもない報告ばかり受けていたので生徒会役員である我々が止めに入った次第だ。」


「すると根に持ったのか、僕が特進高校の生徒会長と分かるや否や高校まで親玉を引き連れて出向いて来た訳だよ。」


俺は親玉という言葉に反応した。


「その親玉ってのは鬼怒ってやつか?!」


「ううん、違うようだね。僕らと相まみえたのは白鬼〈しらき〉というやつだった。彼はトレイター発現してて、たった1人で僕ら十数名を追い込んだ。先生がトレイター管理委員を呼んでくれなければ死人が出てもおかしくなかった。」


なんて事だ。鬼怒以外にも鬼ヶ島高校にはそんな実力者がいるのか。


「ここまでは犬飼君も聞いたことがある内容だと思う。そして、ここから先の話を聞くからには君達には仲間になってもらいたい。もちろん多くの約束事を守ってもらう必要があるがね。」


「おう!元より俺はあんたと鬼ヶ島高校を成敗してぇと思って来たんだ!男と男の約束なら絶対守るぞ!」


「覚悟の上です。」


「まぁある程度の制約がないと締まらないしねぇ。」


3人同意見で桃山に宣言した。


「ほう、なら鉄の掟3箇条を伝えよう。なーに、君達には難しい事じゃないさ。」


"一つ、友を助け、友を守り、一致団結して鬼の牙城を打ち崩せ。


一つ、いついかなる時も油断大敵。違和感を感じたら即報告せよ。


一つ、異性交遊の全面禁止。弱みを握られるべからず。"


「以上だ。どうだい?守れそうかい?」


「守れるも何も思ったほど難しくなくて楽勝って感じ?」


雛乃進は余裕しゃくしゃくだ。


「そうだな、部長の事なんでもっと激しい制約があるかと思いました。なぁ柿太郎?」


そう八助も俺に問いかけて来た。かくいう俺は、


「むむむむむむむむむむ。」


「彼、いかにも死にそうな顔してるよ?」


「「なんでぇ!!?」」


2人からの総ツッコミを頂いた俺だがどうしても納得できない点があった。


「も、桃山さんよぉ。物は相談なんだが。」


「ん?なんだい??」


「異性交遊ってのは不純じゃなけりゃ良いんじゃねぇか?」


「ダメだね。」


「…なぁんでだよぉ!!」


「ハニートラップって言葉もあるしね。そういう事をしたいなら全部終わった後だよ。」


「だってだぜ?鬼ヶ島高校でだぜ?俺がちぎっては投げの大活躍してだぜ?周りの女の子達から黄色い歓声を浴びちゃったらだぜ?…異性交遊しちゃうじゃないの!桃山さぁーん!」


「柿太郎は普段からこうなのか?」


「そうだよ?根本的に頭は良くないね。」


さらっと幼馴染に酷い事を言われたが今はそんなことより異性交遊だ。


「俺のウハウハハーレム生活がぁ…。」


「鋏屋君はさ、鬼怒っていう人に女の子を取られたのがショックなんだよね?ならさ、全員倒しとかないとまた別の奴が柿太郎君と良い感じになった女の子を取りに来るかもしれないよ?」


「それはイヤだ!」


「だから徹底的に倒すまでは禁止にしてるんだよ。うちの近所の銀河峰女子高校の子達も多くのナンパ被害に遭っていると聞くよ。だからまずは鬼ヶ島完全討伐をしよう!討伐後は銀女の子達からモテモテになっちゃうかもしれないよ?」


「…わかった。なら今から行くか!討伐!」


「はーい柿太郎、納得できたところでそろそろ落ち着こうね。」


柿太郎が俺の頭をバシッと叩いて止めに入って来た。


「ふふ、柿太郎の即行動する姿勢は賞賛に値するよ。でもね、今は時期じゃないんだ。君達も掟に納得してくれたから正式に仲間として話を始めようか。」


そういって桃山はすくりと立ち上がりこちらを向き直した。


「まずは、我らが鬼ヶ島討伐隊へようこそ。僕が隊長の桃山宗純ももやまそうじゅんだ!」

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