第六話 阿倍野派と猿藤派
「ここ1年でにおいに敏感になってきて、おかしいと思い耳鼻科にも行ったんです。それでもストレスとしか診断してもらえませんでした。」
「とうとう目を瞑ってもにおいで自宅の方向がわかるレベルになってきたので、親に相談したらトレイター診断を受けてみるように言われました。するとこのような結果に…。」
どうやら八助は極度の嗅覚過敏らしい。
「なるほど。では2つほど質問させて貰ってもいいかしら?犬飼君は何か得意な事はある?」
「得意な事ですか。平凡な事しかしてませんが毎日してる事と言ったら人並みの勉学と剣道、あとは犬の散歩くらいですかね。」
「ふむふむ。ではトレイターと思われる人と最近接触した記憶はある?」
「それがありません。基本的にはクラスメイト、部活の仲間、塾の生徒、それから両親と愛犬に会う毎日ですが身近な人にトレイターと思われる人はいないです。」
「そこなのよねー。結論から言うとあなたはなぜ能力が発現したのかわからない状況よ。嗅覚に関してはおそらく愛犬ね。犬の散歩を毎日してるみたいだし大事にしてるようだから第一条件としてはクリアしてると思う。」
獅子尾さんがうーんと頭を悩ませる。
「ただし、こちらの調べでもあなたの周囲にトレイター判定されている人はいないわ。国としては全トレイターの管理を徹底している分、知らないトレイターが存在しているとなっては問題なのよね。」
やはり、トレイター管理は国家の最重要任務の一つらしい。目をつけられないようにしないとな。
「トレイターとの接触が発現条件の1つとわかっている以上、これじゃ上に報告できないわね。…よし先に柿太郎君の話を聞こうか!」
思考を諦めてこちらに逃げてきた。ずるい大人である。
「俺の能力は剪定バサミを出現させる能力。毎日やってる事はじいちゃんの庭師業の手伝いだ。5歳の頃から剪定もやってる。トレイターとの接触は鬼ヶ島高校のトレイターに喧嘩で負けた。以上だ。」
「あら、もうだいたいわかってるのね…。」
獅子尾さんが納得している横で八助は驚いてた。
「な、何を驚く事があるんだよ?」
「柿太郎、キミは鬼ヶ島高校の連中と喧嘩をしたのかい?」
八助が恐る恐るたずねてきた。
「あぁ下っぱどもは全員倒せるんだけどな。1人デカくてつえー奴がいて、そいつにやられちまった。次は絶対勝ちたいから診断して自分の能力としっかり向き合って強くなろうと思ったんだ。」
「そ、そんな事が。実は僕も先月、鬼ヶ島高校のやつらがうちの校区にやってきてて気に食わない奴には喧嘩をふっかけたりしてたんだ。俺も危うく喧嘩を売られる所だったんだけど先生達が助けに来てくれて事なきを得たよ。」
「じゃあそん中に鬼怒がいたのかもしんねーな。アイツはトレイターだし、チンピラの親玉みてぇなもんだしよ。」
俺たちの話を聞きつつ落ち着いて頭を整理した獅子尾さんがノートパソコンを叩きながらようやく口を開き出した。
「鬼ヶ島高校の鬼怒君?と言ったわね。その子はトレイター未登録となっているわ。検診までの1年間はトレイターの能力を悪用しようとしているのかもしれない。2人の原因がこの子であるなら、今後トレイターが大量増加してしまう可能性もあるので国としては彼を抑えなければいけません。」
「そうだと思ったよ。なんでこんなあぶねー奴が野放しになってんのか疑問だったぜ。」
俺がそう言うと獅子尾さんは
「でも一つ問題があってね。鬼ヶ島高校には既にトレイター発現している子がいるの。我々としては未成年のトレイターがいる場合、その子の監査役をつける為に学校に駐在させるんだけど。その監査役が鬼ヶ島高校校長である鬼ヶ島勲本人なのよ。」
「校長が監査役やってんのにトレイター増えちゃってんのか。無能なジジイだな。」
「それにはいろいろ言われてるけど、問題点が2つあるわ。1つは鬼ヶ島高校最強のトレイターが校長の子供である事。もう一つは
いわゆる大人の事情ってやつらしい。ホントこんな大人にはなりたくねぇ。
「以上の点から鬼ヶ島高校対策は非常に難しいわ。一応鬼ヶ島校長に鬼怒君の件は連絡を入れるけどあまり期待はしないでね。あなた達も被害者である以上どうにかしてあげたいけど現状はそういった被害の声が大きくなるのを待つしかないわ。」
「お国は問題が山積みですなぁ。まぁ次になんかあったら俺が直接ぶっ潰してやるから枕を高くして寝てていいぜ!」
「柿太郎は一度その鬼怒って人に負けたんだろ?」
「うっせぇな!2回目…じゃなかった3回目はもしかしたら勝てるかもしんないだろ!」
「ふふっ、既に2回負けてるのね。柿太郎君は説得不能そうだから置いといて、犬飼君はこの件に関しては不要に関わらないと納得してくれるかしら?」
「まぁ納得というか、大人がそう決めたなら僕らは従うしかないですよね。もちろん鬼ヶ島の人達が校区をほっつき歩くのはやめて欲しいけど。」
「では抗いたいと?」
獅子尾さんがやけに突っ込んで聞いてくる。俺達が鬼ヶ島に対して反乱を起こさないように釘を打ってるのか?
まぁ八助もどちらかと言うと雛乃進に近い性格だろうからここで争う判断はしねぇだろ。
「はい、抗いたいです。」
前言撤回、なかなか根性があるようだ。
「2人とも抗う意志はあるのね。じゃあここからは私個人とお話をしましょう。」
獅子尾さんの雰囲気がガラッと変わった。
「トレイター協会には派閥があるの。まずは最大勢力であり、トレイターを出来る限り抑制していきたい阿倍野派閥、全体の45%。皆ご存知の総理大臣ね。」
今日一の驚き。なんと内閣総理大臣がトレイター協会のトップのようだ。
「それからトレイター推進派の猿藤派、全体の35%。こちらは人類の発展の為にトレイター能力はもっと使うべきだと主張しているわ。」
「そして最後に鬼ヶ島派、全体の15%。先程の2派閥と比べると人員は少ないけど、鬼ヶ島がどちらかに肩入れすれば一気にそちらの派閥が力を持つようになる。」
「おぉ、どちらが味方につけても過半数狙えるんだな。」
「だから誰も何も言えないのよ。抑制派、推進派共に鬼ヶ島派を仲間に取り入れたいから少々問題を起こしても目を瞑っている。」
「だけど、今回そこを打破するための一手を打とうとしているのがトレイター推進派である猿藤派なの。彼らは凶悪なトレイターを討つ事で"自分達は善良なトレイターである"と主張し、降参した鬼ヶ島派を取り込んで最大派閥になる事を目指しているの。」
「なるほど、目的はあれだが鬼ヶ島の連中を潰すにはそいつらの力が必要だな。なんてったって鬼怒より上がいるって事だろ?」
「そうなの。それであなた達に聞いておこうと思ったの。一緒に戦うかどうかを!」
「あぁ!俺は鬼野郎共を倒す事には協力してやるぞ!」
「ほんと?!あー良かった!」
「…待て。何かがおかしい。」
八助が急に戸惑いだした。
「猿派をさっさと見つける事ができて、ほんとに良かった!」
そう言うと俺達は背後から何者かに殴られた。
意識が遠のいていく最中、獅子尾がこちらを見て嘲笑っていた。
阿倍野派幹部、
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