第三話 これが…俺の能力だ!!

「すまねぇ!遅くなった!!」


田中さん家での庭作業を終わらせた俺は急いで待ち合わせ場所へ向かった。


そこでは既に雛乃進がケータイをいじりながら待っていた。


「お疲れー。わ、ほんとに腕治ってるね!」


「あたぼうよ!俺を誰だと思ってんだよ!」


雛乃進は半信半疑だったようでびっくりしている。


「昨日あの後トレイターについていろいろ調べてみたんだけど、人によって発現する能力は違うみたいだね。腕力が強くなったり、嗅覚が敏感になったり、全く特殊な能力だったり。」


「なるほどな。昨日のアイツは脚力強化ってとこか。なら俺は腕力強化だな!昨日あれだけの攻撃を防いで腕が赤く光ったんだ。間違いねぇ!」


「あんなにコテンパンにやられた後でそれだけ自信持てるのがすごいよ。僕なら間違いなく逃げ出してるな。」


「なんてったって今日は今日だからな。昨日負けた相手に今日も負けるとは限らねぇ。じいちゃんもああ言ってたしな。」


そんな話をしてるとあっという間に昨日のゲーセンにたどり着いた。休日なので人も多く賑わっている。


「あれー?柿太郎くんじゃん!」


「ま、まままままま真希ちゃん!こんなとこで何してんの?!」


つい声がうわずってしまったが彼女こそ俺の意中の相手、隣のクラスの真希ちゃんだ。雰囲気が大人びていて何より胸がでかい。


「可奈と遊んでて一緒にプリ撮ろーってゲーセンに入ったんだよ。柿太郎くんは今日も雛くんと?」


「そ、そそ!いやー、雛がどうしてもゲーセンに行きたいって言うからなー!なっ!なっ!」


「あーうん。そうだねー。」


雛乃進が白々しい目でこちらを見てくる。


「あ、そうだ。この後可奈とツタバで休憩しよって話してんだけど一緒に行かない?」


「えー!行く行く!ウルトラチョコレートクリームマシマシフラペチーノ奢っちゃう!」


「やったー!じゃあ15時にツタバに集合ね!じゃーね!」


憧れの真希ちゃんとカフェに行く約束をしてしまった。


「雛、一大事件だ…。」


「そうだねー。」(棒読み)


「今日の俺ってそんなにイケてるか?!」


「そうだねー。」(棒読み)


昨日のヤツといい、やっぱトレイターっていうやつは体からにじみ出るオーラが隠せないらしい。


こりゃ修行のしがいがあるってもんだ。


「じゃあ雛、俺達もひと修行しに行くか!」


「…柿太郎、ちょっと嫌な予感がするよ?」


ん?雛乃進が何やら怯えている。


その先に目をやると、昨日の鬼ヶ島高校の奴らが大勢いた。


ヒャハハハハ!


「お前ら、昨日の今日でよく来たな!バカなのか?!」


大勢のチンピラ共が俺達に罵声を浴びせてきた。


どうやら昨日俺がやられてから、このゲーセンはこいつらのテリトリーになってしまったみたいだ。


だがこんな雑魚達に負ける俺ではない。


「お前らじゃ俺の相手になんねぇよ!昨日のデカブツはいねぇのか?」



…ヒャハハハハ!


チンピラ共の爆笑が辺りを渦巻く。


「こいつ昨日蹴られすぎて記憶障害になっちまったみたいだぜ!」


「鬼怒さん!呼ばれてますよ!!」


「…ふふ、威勢の良いことは悪い事じゃねぇ。」


奥のベンチからすくっと立ち上がり、大柄な男が現れる。


鬼怒きどだ。


「だが、実力が伴ってねぇなら、ただの命知らずだ!」


「それはどうかな!今日はハナっから本気だぜぇ!」


「え?!柿太郎、ゲームしに来たんじゃないの?!やめときなよ!」


雛乃進が何やら言っているが頭に血が上っている俺には関係ない。


トレイターの力を手に入れた俺は全力パンチを鬼怒にお見舞いする。


ボコッ!


決まった。


「あぁ、これは普通のパンチだな。で、本気はどうなるんだ?」


てない。全然決まってない。あれ、どうゆうこと?


「…来ないならこっちからいくぞ。」


ドゴォーン!


昨日に引き続き強力なドロップキックが俺を襲う。


なんとか腕をクロスして受けきった。が、


「なんでなんでなんでなんで!俺のスーパー腕力開花してねぇじゃん!」


「もしかしてだけど柿太郎の能力って腕力じゃないんじゃないの?!」


雛乃進から的確なアドバイスが飛んでくる。


「なるほどな!ナイスだぜ、相棒!そうか脚力を得意とする相手と戦って開花した能力、つまり俺も蹴りが強くなったって訳だな!!」


鬼怒に渾身のローキックをお見舞いする。


ぺしっ…!


「んな訳ないよな!足なんか使った事ないもんな!わかってるぜ!俺の能力は石頭!」


ゴツッ!


「いーっ、これもちがうか!あとはなんだ!そうだ、目からビィーム!」



「…あれか、お前は俺に憧れてトレイターの真似事をしたかったって事か。」


めちゃくちゃ恥ずかしいことを言われてしまった。チンピラだけじゃなく一般の人までクスクス笑ってる。


「なら俺も本気でトレイターの力を見せてやろう。」


鬼怒の連続の蹴りが俺を襲う。


ドドドドドドドドドドドド!


意識が飛びそうなのを必死に堪えながら蹴りを受ける。


「なんで、何も起こんねぇんだよぉ…」


悲痛の面して自分の腕を見ると、赤く光っている事に気がついた。


「これは…」


「なに?!まさか本当に戦いの最中に目覚めたと言うのか?!」


鬼怒の焦りが見える。やっぱりこれはトレイターの力に違いない。


ただ、どうやって能力を発現するかだ。腕力でもない。脚力でもない。ならあるとしたら…?


「…物を出現させる能力??」


「させるかぁぁぁぁ!!!」



キュイィィィィィィィィィィン!!



まばゆい光に照らされて、俺の能力は発現した。


「待たせたな!これが…俺の能力だ!」


真っ赤に燃える俺の右手から出てきた物。


研ぎ澄まされ、洗練された美しいこのボディこそ…!


シュゥゥゥゥゥン。


“剪定バサミ"


「うそぉーん。」


「ひゃーはっはっは!ちっちぇえハサミ!!そんなおもちゃで何をするんだよ!」


したっぱ達は大笑いしている。


俺は絶望と脱力感で笑うことすらできなかった。


「…ま、まじかよ?」


「運がなかったな、小僧。」


ドゴォーン!!


…俺はたった2日間で生まれて二度目の大敗を喫した。


よりによってなんで開花した能力が“そっち"なんだよ。


これじゃ戦いに使えねぇじゃねぇかよ。


俺は俯いてその場に倒れ込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る