第二話 ばっかもーん!
怒声が鳴り響くのは俺の自宅。声の主は俺のじいちゃんだ。
「ええ歳こいて喧嘩じゃー?両腕複雑骨折じゃー?なーにをやっとるんじゃバカ孫ー!!」
「ま、まぁまぁおじいさん!柿太郎は僕を助けようとしてこうなったんだし。」
雛乃進がサポートに入ってくれる。
俺がぶっ倒れた後、両親が経営している病院に連れていって応急処置をしてくれた後、家まで送ってくれた。
「あぁん??そんな事は当たり前じゃ!雛くんを守らんような男なら家にすら入れとらんわ!!」
少しムカついたので俺も反論してみる。
「じゃあどうしろってんだよ!あんなん勝てっこねぇだろ!」
「じゃから根性が足らんのじゃ!不動の心でしっかり受けきらんかい!お前は心で負けとったんじゃ!だから骨も折れる、バカタレが!」
この老人、俺の祖父なだけあって頭のネジが4,5本外れている。
「じいちゃんがあの場に立ってねぇからわかんねぇんだよ!あんなん見たら絶対ちびるぞ!」
「そうそう、迫力あったよねー。柿太郎も実際にちびってたし!」
「おい!言うんじゃねぇ!」
あっさり恥ずかしいカミングアウトをされてしまう。
じいちゃんも落ち着いたのか、椅子に座り一服しながら聞いてくる。
「で、調子はどうなんだ?」
「あぁん?だから複雑骨折だって言ってんだろ。」
「ばかもん、お前の腕の心配なんかするか!…本物のトレイターと戦ったんだろ?なにか異変はないかと聞いとるんじゃ。」
「???」
異変なんて思い当たる節しかない。腕は痛いし、お腹も痛い。頭もグラグラ揺れてるし、なんなら全身痛い上に少し熱っぽい。
どれを異変と言えば良いかわからないが、何を答えてもじいちゃんに怒られそうだ。
「あ、そういえば柿太郎。あのデカい人の蹴りを受け続けた後、腕が赤く光ってたよ??」
「え、まじ??」
「それじゃ!!」
じいちゃんが大声を上げる。
「柿太郎、お前体が熱っぽくはないか?」
「それはバトった後からずっと熱っぽいけど…」
「はよ言わんかーい!!」
カーン!
じいちゃんにキッチンバサミの持ち手部分で殴られた。なるほど、言わずとも怒鳴られるやつか。
「結論から言おう。お前はもうそのデカブツには負けん。」
訂正させて欲しい。外れている頭のネジは4,5本じゃなくて40,50本だ。
「じいちゃん、俺と一緒に通院するか?頭の。」
「最後まで聞けい!もちろん、今回みたいに心で負けているようじゃ次も勝てんわい!」
ゴホン!
一つ大きな咳払いをしてじいちゃんは淡々と話しだした。
「お前は今回の戦いでおそらくトレイター発現しておる。」
どうやらトレイターってのはこっちの世界じゃ共通認識らしい。じいちゃんも知ってるんだな。
「トレイターの発現条件は様々あるが、その一つにトレイターとの対決がある。もちろんただ戦っただけではダメじゃ。それまでにしっかりと経験値を積んだ状態でトレイターと極限状態の対決をすることが重要じゃ。まぁ一般人がトレイターと戦うことなんて滅多にないがな。」
「経験値に関しては諸説あるが一つの事をとことん突き詰めて鍛錬する事が重要なようじゃ。あれもこれもと手をつけるのではなく一つの事に極限まで集中する事が肝じゃ。まぁこの点についてはクリアしとるじゃろうがの。」
一つの事に集中。なるほど思い当たる節は確かにある。
俺の場合はあのゲームだ。確かに防御重視のあのキャラ以外一切使わず、とことんやりこんで全国ランキングにも名を馳せている。まさかこんなとこで役に立つとは。
「そりゃそうよ!何の為に毎日やってるかってそりゃこの日の為に決まってらぁ!」
「図に乗るんじゃない!トレイター発現後も地道な修練次第で能力がどんどん上がっていくんじゃ。今後も怠らんことじゃな。」
「へいへい!まぁこのままどんどん強くなれば隣のクラスの真希ちゃんにも振り向いて貰えるかもしんないしな!」
「うわー。柿太郎、ゲスだなぁ。」
地道な修練なんて言うが俺からすれば楽しんでやってる分天国だ。今に見てろあのデカブツ鬼野郎め。
俺はお前をケチョンケチョンにして真希ちゃんとウハウハラブラブ生活を送るんだ。
「女子のケツばっかり追ってるとロクな目にあわんぞ。まぁいい、今日は早いとこ休め。本当にトレイター発現してるならば寝る事で超回復が起こるはずじゃ。明日は田中さん家の庭の手入れじゃぞ。」
「はぁ?こんな腕なのに明日も仕事かよ!折れてんだぞ!」
「いいから寝んか。寝ればわかる。」
そんな事言われるもんだから寝る事にした。雛乃進は泊まらず帰ると言う事だったので礼を言っておいた。うまかろうもん(お菓子)しか出してやれなかったし、今度なんか奢ってやろう。
何はともあれ、やる事はわかった。明日はさっさと仕事を終わらせて午後からはゲーセンへ行って修行だ。
…
…ZZZ
シューーーー…
朝起きたらそりゃもう驚いた。完治どころか力がみなぎってくるんだもんよ。これが超回復ってやつか。
じいちゃんに伝えると何とも意味深な顔をしながら「やっぱりな」とだけ言って身支度に入っていった。
俺も自分の剪定バサミを用意して田中さん家に向かう事にした。
「よし、じゃあさっさとやっちゃいますか!」
約束は午後、雛乃進との合流が楽しみだ。
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