一割の真実
俺たちはエネルケイアから「グラン・グリモア」を取り返して屋敷に戻った。
あとはこれをなんとかするだけだな。
俺たちは屋敷のダイニングに集まり、本を前にしていた。
「ふぅ、ユウのおかげで何とかなったね」
「一生分の脳みそを使った気がするよ……」
「すさまじい口先三寸だったであります!」
「どこまで本当かわかんなかったまう」
「9割のホントに1割のウソ。これが一番効くんだ。ウソだったのは……」
「まう?」
「僕たちが翻訳できるって部分だけだね」
「うん。ママのいうとおりだ」
「いちばん大事なトコであります!!」
「まう!!」
「そのウソを見抜けないように、たくさんのホントを用意したのさ」
「ひどい話であります!」
俺がやったのなんてカワイイものだ。
この1割のウソは、現実世界では大体収まるものが決まっている。
たとえば「絶対儲かります」なんてやつだな。
「さて、問題はこいつの扱いだが……マウマウ、墨をくれ」
「まう?! せっかく取り返したのに、台無しにしちゃうまう!?」
「それは『こいつ』次第だな」
「まう?」
「さて……
俺はグラングリモアを前に話しかける。
「創造魔法は、使用者の意思とは関係なく、自然の摂理やバランスに影響を与える。創造するものが自然に存在しないものや、自然と相反するものであれば、その影響はより深刻になる」
「創造魔法で作り出される物は、創造者の想像力や知識で制限される。創造するものが想像力や知識を超えるものであれば、その結果は不完全で危険なものになる可能性がある」
「だから生命の創造は禁止されたんだ。ただひとつをのぞいて」
「ただのひとつをのぞいて……?」
『そこまでわかっていたか』
「まう?!」
「本が……しゃべったであります?!」
威厳のある声を発したグラングリモアは、テーブルの上で立ち上がった。
厚すぎて縦においても立ちそうだなと思っていたが、本当に立ったよ。
『まさかここまでの者が現れるとはな……』
「まさか、ユウ……創造された生命って――」
「そうだ。このグラン・グリモアだ」
「本が生きてたまう?」
「ママとは何度か話したけど、創造魔法を安定して動かすには『監督者』の存在が必須なんだ。水っていっても、
「クリエイトフードなんかそうだね。ちょっとしたイメージのズレで変なものがでてきてもおかしくない」
「ああ。でも使うのに失敗したって話は聞いたことがないんだよな」
「そうだったね」
「普通に考えたらおかしいよな? それに俺がこの創造魔法を始めて使った時だって、別に何かの料理を思い浮かべたわけじゃなかった」
「……なのに、鳥のローストがでてきた。それは妙だね」
「あぁ。」
『そこで気づいていたのか』
「まぁ、気づいたのは使った直後じゃなくて、もっと後ろのほうだけどな」
『それでも大したものだ』
「それで俺は創造魔法には誰かの意志が関係している。そう目星をつけたわけだ。まさか本だとは思わなかったけど」
「驚きであります!」
「まう!」
『君の推測は正しい。少し昔の話をしても良いか?』
「あぁ。」
『私――グラン・グリモアは、最古の魔道士ヒュレーが創造魔法を作り出すときに作りだした、自我を持つ魔法の生命体だ』
『私が生まれた理由は、ヒュレーが創造魔法の確立に、グラン・グリモアの存在が必要だと思ったからだ』
「それは……俺が推測したような理由か?」
『うむ。君のいうとおりだ。ヒュレーが存命だったら喜んだだろう』
テーブルの上に立った本は、
グラングリモアはいっさい言いよどむことなく、たくさんの言葉をつむぐ。
まるでつい昨日あったことを話すようだ。
『古代の異世界は飢えと乾きがはびこっていた。人々が水や食べ物をもっと簡単に手に入れられるようにと、とある魔術師が創造魔法を作り出そうとした』
『しかし初期の創造魔法は、人々が思い浮かべるイメージをそのまま再現した。そのため食べ物を出そうとしても良くわからない変なものがでてきてしまうことがあったのだ』
『このため、創造魔法のイメージを読み解く存在が必要だと私の主は考えた』
「その主っていうのは……あんたの著者、ヒュレーか?」
『そうだ』
『ヒュレーは弱い自我を持つ魔法の生命体「グラン・グリモア」を生み出し、彼にこの世界の事を教えることにした』
『そしてグラン・グリモアが知り、思い浮かべたものを与えるようにしたのだ』
「なるほど……でも、それはうまく行かなかったようだな」
「ユウ? うまくいってるじゃないか。創造魔法は現に動いて――」
「いや、そうじゃない。創造魔法じゃなくて、それを使う連中のことだよ。それがうまくいったなら、古代人とやらは姿を消してないはずだ」
「あっ、そうか……創造魔法が造られた目的は古代の人たちを助けるため。なのに、古代の神殿は今は遺跡になって創造研究所に使われていた……」
『――そうだ。私は失敗した。そして今も失敗しようとしている』
グラン・グリモアに顔はないので、表情をうかがい知ることは出来ない。
だがその声色は沈んでいた。
『私が創造魔法を弱めたのは……それが理由だ』
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