エラい人探し
★★★
「このあたりで顔の聞く人、ですか……?」
「うん、誰か知らないかな」
俺たちはクランのメンバーを連れて、メイム村のリリカのもとに向かった。
ここらで一番近い村だし、名前と顔が一致する知り合いといえば、彼女とメイム村の村長のゼペットさんしか思いつかなかったからだ。
「わかりました、ゼペットさんを呼んできますね!」
「あ、いや、そうではなくって……」
「はい?」
「うーん、ユウ、もうちょっと具体的に聞いたほうが良いかも?」
「わっ、ラ、ライカンが喋った!?」
「ライカン?」
「えっと……ヒトとは違う、そういう種族がいるんです」
「へぇ……こっちにもそういう種族がいるのか」
ママが使うアバターに似た種族がこの世界にもいるらしいな。
でも「喋った」か、なんか様子が違うらしいな。
「えっと、彼はウルバン。俺たちはママって呼んでる。それくらい世話焼きなんだ」
「そ、そうなんですか……私はてっきり、ライカンをユウさんの魔法で使役しているのかと思いました」
「いやいや、彼は仲間で友達だ。そんなことしてないよ」
「で、でも……怒って噛んだりしません?」
「まっさか~」
「別のところでも言われたね……こっちの世界じゃ、僕やマウマウみたいな、狼や猫の顔を持ったヒトは喋らないのかな?」
「は、はいっ……唸ったりするだけです」
「ふぅん、そうなのかい? ……ライカンは村や集落を作ってたりするかい?」
「は、はい! ここから遠く、山の麓にあると聞いたことがあります」
「ふむふむ……なるほど、ありがとうリリカさん」
「い、いえ! ママさんは優しいライカンさんなんですね!」
彼はそう言われると、困ったような笑ったような、なんだか複雑な表情をリリカに返していた。なにか思うところがありそうだ。
「ママ、それが何か気になったのか?」
「うん、村や集落を作っているなら、互いにケンカするのを避けるために、声や身振りを使ってコミュニケーションをとっているはずだよね」
「それもそうか……ん、もしかしたら――」
「うん。人間と同じようにこの世界に生きているなら、言葉や道具は似たものを持っていてもおかしくない。きっと彼らにも彼らなりの『創造魔法』があるんじゃないかと思ってさ」
「なるほど、確かにそれはありそうだな。」
「おっと、話が
なるほど、流石ママだ。この辺で一番エラい人なら、村から税を集めてとっているはず。そこから当たっていけば良いのか。
「ノトスの町です。その街に住む代官さまに収めています」
「おっ、そのノトスの町っていうのは、どうやって行けば良いんだ?」
「は、はい、ここから真っ直ぐ丘を降りると川があるので、そこをずっと降りていくと、ノトスの町につくはずです」
「ふむふむ……何日くらいかかる?」
「えーっと、今から行っても日が沈まないうちにつけると思います」
「ふーむ? とりあえず言ってみるか。ありがとうリリカ」
「はい!」
・
・
・
俺たちはメイムの村を出て、そのままノトスの町へと向かった。しかし、エミリンは歯車をカタカタと鳴らして機械の頭をかしげると、何かを気にしているようだ。
「どうした、エミリン?」
「リリカさんの言い方は、なんとも曖昧でありますね」
「うん? 彼女はちゃんと俺たちに説明してくれてたと思うけど?」
「説明はきちんとしていたであります。ですが……単語が足らない、そうはかんじませんでしたか?」
「単語が? うーん……あっそうか!」
言われてみれば確かに、リリカの言い方はどこかぼんやりしていた。
なぜそれが起きているのか、その原因に俺は気づいたのだ。
「そういえばリリカは、『方角』と『時間』については、いっさい北とか南とか、時間についての何時何分とか、そういった単語で語ってなかったな。」
「ズバリ、その通りであります!」
「そういえば、大学の授業で聞いた覚えがあるな……中世ヨーロッパでは、大まかな時間の概念しか無く、方角の概念もあいまいだったそうだよ」
「へ~さすがママ……例えばどんな感じに?」
「たとえば、時間は昼と夜をさらに何分割かする、大まかな分け方しかない。時間にきびしい人にとっては、悪夢みたいな時代だね」
「なるほど。だからリリカは『日が暮れるまでにはつく』って言ったのか」
「方角もそうだね。僕らの世界のいわゆる中世の時代では、地図に描かれた方位は、宗教的な聖地や有名な都市を中心にしたものだった。だから、地図の上が北とは限らなかったんだ」
「絶対迷うやんそれ」
「でも、中世ヨーロッパの人たちって、戦争で兵隊になるでもしない限り、自分たちが住んでいる村や町の外に出て移動することって、ほとんどなかったんだ」
「そもそも使う必要がなかったってこと?」
「まぁ、そういうことになるかな?」
「色々大変そうだなぁ。そうだ! 俺達の世界から時間とか方角、地図の作り方の知識なんかを持ってきたらどうだろ?」
「あっ……ユウ、それは良いアイデアかもしれないぞ。正確な
「おっマジ?」
「マジマジ。もし、エネルケイアの連中がゲーム脳丸出しで暴れていたなら、この知識の伝達をするっていうのはちょっとしたアドバンテージになるかもね」
「そっか。こっちはあいつらとは違う、ちゃんとした連中だってことを、この世界のエラい人に理解してもらえるな」
「そういうこ――うわぁ……」
「どうしたマ、マァ………うへぇ……」
俺と話していたママが、突然ため息をして肩を落とした。何事かと思って彼が見つめる方向を見た俺は、まったくママと同じ反応をしてしまった。
川の先にある白い城壁に囲まれた小さな町。
そのノトスの町から、無数の黒煙が上がっていたのだ。
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