保留って言ったじゃん(言ってない)
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「あっ、これってタバコ休憩だった。皆のとこに戻らないと」
やばいやばい。「クリエイトフード」のインパクトが強すぎて、何をしているのか見失うところだった。
俺たちのクラン、デュナミスが異世界で具体的にどう動くか、これについては、まだちゃんとした結論が決まってなかった。
そして、現実世界で異世界について説明するかどうかも。
「……保留とはいったけど、いつかバレるよな」
異世界に行ったプレイヤーは、きっと俺たちだけじゃない。
平日昼間とはいえ、数百人は行ったヤツがいるんじゃないか?
俺たちが黙っていても、異世界の存在はきっとバレる。
そうなれば――
えっと……
うーんと……
えっとねー……
どうなるんだろ?
クッ……俺はそんなに頭いいわけじゃないからなぁ……。
異世界と現実世界がつながったらどうなるかなんて、ちょっと想像つかないぞ。
「こりゃ俺が一人で悩むより、みんなや、ママに聞いたほうが良いか」
クランリーダーとはいえ、俺は学者でも政治家でもなんでも無い。仕事してないただのニートで、NRでゲームしてるだけのダメ人間だ。
きっと、クランの皆のほうが、ちゃんとした考察を出してくれるだろう。俺はリーダーとして自信ありげに頷いて「その通り!」って言う。カンペキでは? うん、このプランで行こう!!
俺は皆が待っている異世界に戻ることにした。ゲーム機の前に座り、俺がインプラントしているNR機器とリンクするように操作して、神経を再接続する。
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(っと……また目まいがするな……)
最初に来たときよりはマシだが、異世界に来るとちょっと頭がぐるぐるする。
クロス・ワールドに接続すること自体では、そんなコト無いんだけどな……。
(なんだろうな、乗り物酔いみたいに「異世界酔い」みたいなのがあるのかな?)
ま、そのうちなれるだろ。
俺はとくに気にしないようにして、周りを見回す。
ここはさっき皆でガチョウの丸焼きを食べた丘の上だ。
本当に行き来できるんだな。
休憩から戻った俺はクランの皆に、ただいまのあいさつをした。
「ただま~!」
「おかまうー!」
「おかえり、ユウ。早速だけど、お前がいない間に問題が起きちゃったんだ」
「えぇ……早くない?」
異世界に残っていたママによると、さっそく何か起きたらしい。
トラブル起きるの早くない?
「えー、なんで? 何があったの?」
「それが……『エネルケイア』の連中が異世界に来たってことを配信して、それが外の世界で大騒ぎになってるらしくて、まとめサイトでもまとめられて、大炎上中」
「…………アホなん!? 保留っていったじゃん?!」
「まぁアイツらとは全然話を通してなかったし、しょうがないよ……」
「まうまう、ママ~、エネルケイアって何~?」
「マウマウは知らなかったか、うんと……ワールド
「わかんにゃい!」
「ワールドファースト勢っていうのは、新しい高難易度コンテンツが実装されたときに全世界で最初に踏破するのを狙うチームのことで、ようはガチ勢ってことだな」
「そう、それそれ。」
ママは俺の言葉に同意する。
「異世界のことを暴露したエネルケイアの連中はガチ勢でね。なんでも世界一を狙う連中で、スキルとか装備も一切遊びナシ。効率を最優先にして遊んでる連中だよ」
そう言うママに、マウマウは決して言ってはならない一言をぶちかました。
「それもう仕事じゃん、なにが楽しいの~まう!」
「マウマウ、それを言ったら戦争だぜ」
俺がマウマウにそういうと、彼女は目を丸くして「まう?!」と慌てふためいた。
ゲーマーに対して、「何が楽しいの」それだけは言ってはならんのだ。
人には触れてはならん弱みがある。
そこに触れてしまったら、あとはもう、命のやり取りしか残らんのだ。
「オホン、あー、それで……エネルケイアの連中は、今なにしてんの?」
「野原や村や町、そこらをひっくり返して、アイテムとボスを探してるみたい」
「ねぇ、クッソ迷惑なんだけど?」
「俺もユウに凄まじく同意。俺たちエンジョイ勢とあいつらガチ勢が違う事を知ってもらわないと、大変なことになるかもしれないよ」
「イヤー!!!!! めんどくせえええええ!!!!」
「まうー!!!!」
「まぁ……異世界の住人と衝突する危険は元々あるのに、エネルケイアの奴らは向こうから当たりにいってるからなぁ……」
「えー、なんでそんな事するかなぁ!!!!!」
「ゲームの遊び過ぎで、異世界といえども、別の現実だっていう見分けがついてないんじゃないかな……」
「ママ!! 俺たちどうすれば良い、なんかアドバイスくれ!! お願い!!」
「落ち着いてユウ、うーんとね……まず、ユウが言ったように、ここはクロス・ワールドと違う文化や法律、価値観が当然あるだろ?」
「うん」
「だから、ここらへんのエライ人に会いに行ったら良いんじゃないかな……?」
「えー、なんで?」
「エネルケイアがトラブルを起こして、エラい人が困ってるかもしれないでしょ? もしそうだったら、取り入るチャンスだし、見た感じこの世界って中世ヨーロッパっぽい、いっちゃなんだけど、俺たちの世界より昔の時代じゃない?」
「そうっすね」
「中世ヨーロッパだと、本とか知識ってエラい人のものなんだ。だからエラい人はこの世界の法律や創造魔法に関係する本や知識を持っている可能性が高い」
「おぉ~! さすがママ!!」
「まうー!! ママの方がリーダーっぽいまう!!」
「……それに関しては、ワリと何もいえねぇ。」
「俺はリーダーなんてガラじゃないよ。ユウの方が向いてるよ」
「ユウみたいにガサツな方が向いてるまう?」
「マウマウさん????」
「まぁそれもあるけど……ユウはよく人に聞くからね」
「ちょっと照れくさいけど、まぁ褒め言葉として受け取っとくぜ」
「うん、それでいいんじゃないかな」
「よし、じゃあ方針決定だ。ひとまず近くの村に行って、この辺で顔が利くエラい人を探す、これでいいな?」
「それで問題ないと思うよ」
「よし……みんな聞いてくれ」
俺はこれからすることを、クランのメンバーに説明することにした。
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