5)老齢退役兵の証言

 だから嫌だって言ったんだ。


 いくら元老院の命令だからって。

 いくら報奨金狙いの女房の命令だからって。

 いくら街を守るためだって。


 俺は老齢退役兵だぜ。長い間外地で戦ってきて、ようやくローマの一級市民の権利を貰って、ようやく平和な暮らしができると思っていたのに。

 今年で何歳だと思ってるんだ。鎧に兜に槍。重い、重い、重い。歳取った体には重労働だ。鎧の中は汗まみれだ。ああ、水が飲みたい。

 いいな、お貴族様たちは。ローマ百名家の連中は今頃元老院の建物の中でワインを飲みながら勝利の知らせを待っている。辛い仕事はいつだって俺たち貧乏人だ。兵役をこなして一級市民と言ったってそれだけで金が湧いて出るわけで無し。スズメの涙の軍人年金じゃ、毎日の酒さえ買えやしない。まあ、愚痴ってばかりもいられねえな。周りを見渡せば、似た様な老人ばかりが揃ってらあ。

 まったく。若い連中が他に出払っていなけりゃ俺たちが引っ張りだされるはずも無かったんだが。どこの馬鹿野郎だ。アルプス越えなんかやりやがった連中は。ローマ市から平地を歩いて来るだけでもこんなに疲れるのに、山越えたあ、よっぽど元気が余ってるんだろうな。少しはこっちにも分けて欲しいもんだよ。まったく。

 お陰で予定していた兵団がどこか遠くに行ったままだって?

 まあ、今は誰も兵隊なんかやりたがらないからな。ローマはいつでも兵隊不足だ。ローマ市全部からかき集めても、たったこれだけの軍団しか作れねえ。しかも前にいる連中はともかく、後に並んでいるのは老人に子供ばかりだ。それに、ああ、ありゃ、片手が無いどころか片足が無い連中まで混じっていらあね。

 無茶苦茶だろ、この軍勢。

 ああ、嫌だな。援軍が来るまで、何とかこのまま睨みあいが続いてくれればいいが。

 おっ。何だ、ありゃ。

 騎兵だ!

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