第31話 統合失調症当事者手記・闘病記リスト

 2034年新春の話題にふさわしいかどうかは分かりませんが、出版されている統合失調者当事者・家族手記についての研究が見つかったので、紹介させていただきます。


1.「統合失調症の闘病記のリスト : ナラティブ教材の可能性を展望する」小平 朋江,・いとう たけひこ著 心理科学 33 ( 2) , 64-77, 2012. https://doi.org/10.20789/jraps.33.2_64  


 1940年代から2010年にいたる70年間に日本で出版された単行本217冊のリストをすべて網羅した力作です。

 1941年の『智恵子抄』から始まり、群像新人賞として発表された小林美代子『髪の花』(1971)のような筆者にとっては思い出深い小説作品や、この連載でも取り上げた松本昭夫氏のもの、若くして自死した漫画家山田花子の『自殺直前日記』(1998)のような異色作まで含まれています。

 『わが家の母はビョーキです』(中村ユキ、2009)を始めとしたマンガ単行本も入っています。

 発行点数の推移もグラフ化されていますが、1980年代まではポチポチという感じだったのが、1990年代に一気に30点近くに達し、2000年代に入ってからは140点と、急速に出版が増えているのが目を引きます。

 リスト化は2010年までとなっていて、その後はウェブ上の出版、手記発表が急速に増加してるので、それについての研究をする必要があるということです。

 といっても筆者のようなアナログ世代にとっては、単行本で読むことの安心感はかけがえがなく、ボチボチ暇を見つけて読んでいきたいと思っています。

 なお、上記のhttps://doi.‥‥表記は、これをコピーしてググればたちどころに当の論文がダウンロードできるサイトに行き当たる便利な標記で、doiといって国際的に用いられています。

 この論文の欠点は、リストアップされた本の内容については殆ど何も言っていないこと。その点、下記の文献2,3が参考になります。


2.「統合失調症患者の手記を対象とした発症前生活エピソードに関する研究」宮島 直子著 日本精神保健看護学会誌, 19 ( 1), 116-127, 2010

https://doi.org/10.20719/japmhn.KJ00007493134

 

 取り上げられている手記は、

・『犬吠埼の見える海』(岡田英明)素人社、1989

・『春遠からじを信じて』(茅坂草一)一灯園灯影社、1990

・『雨花そして僕』(大場隆史)文芸社、1999

・『障害者からのメッセージ4』(香野英勇)やどかりブックレット、1999

・『こんな自分にまけへんで』(森本真由)文芸社、2001

・『ガラスの壁』(澤光邦)晩聲社、2001

・『紙の城』(柏樹弘二)杉並けやき出版社、2003

・『ぼくは統合失調症』(川村実)雲母書房、2006


 それぞれの手記について、著者の専門とする精神科看護学の立場から、発病にいたる経緯の詳しい分析がされていて、大変参考になります。

 『ガラスの壁』は図書館にあったので早速一読しましたが、文学としても通常の現代小説の及ばない境地に達していると感じました。


3.『手記から学ぶ統合失調症:精神医学の原点に還る』八木剛平著、金原出版、2009

 読み始めたばかりで、十分な紹介はできませんが、現役のベテラン精神科医が、出版された十数冊の当事者手記を紹介し、精神医学の視点を加えて解説してゆく形式をとっていて、非常に深みのある内容になっています。


             2024年1月1日 記

 

 

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