精神障がいのきょうだいがいます。
アグリッパ・ゆう
第1話 兄の最初の発症から入院
兄の最初の発症は一浪で入ったT大学二年時で,筆者は高校3年だった。
隣近所から苦情が来るといいだし,また「大学へ行くと教室中が自分を非難しているような気がする」と言う。
筆者は当時から島崎敏樹の一般向き著作(島崎,1960,1963)に親しんでいたので,母に「分裂病じゃないの」と言った。
単身赴任中の父が呼び戻されたが,何でもないじゃないかと言って戻っていった。
その後兄は気分転換の旅行と称して父の赴任地に行き,数日後父に伴われて戻ってきた時には全くの病人だった。「Mは入院するよ」という父に病名を訊くと「強い神経症」という答えだった。
県外のC病院への8か月の入院のあと兄は退院したが,入院中に筆者は遠方の大学に進学し,たまに帰省するくらいで関りが薄くなった。入院前の痩せて鋭い感じから退院後の肥満気味で子どもっぽい性格への不可解な人格変化。兄自らが「インシュリン注射のせいで太った」と言ったこと。これら当時の筆者の哲学専攻学生としての知識に照らしても不審に思うことがあったにもかかわらず,二人兄弟の末っ子である筆者に対して真の病名を隠していたとは思わず仕舞いだった。
母から真の病名を告げられたのは6年後のこと。兄は留年を重ねた末に(当時のこととて当然ながら病気を隠して)就職した2年目にして再入院し,その間,筆者は大学院に進学し,帰省した夏のことだった。
【参考文献】
島崎敏樹(1960)『心で見る世界』.岩波書店(岩波新書)
島崎敏樹(1963)『心の風物誌』.岩波書店(岩波新書).
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