第2話
「ふぅ。ふぅ。ふぅ。ふぅ」
エフが暑い日差しが照りつける中で坂道を登っている。
そこは昔の昔。ずーっと昔に周辺の人々によって魔の坂と呼ばれていた場所だ。しかし今では呼ぶものはいない。そこをエフが息を切らせながら登っているのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
大きく乱れる呼吸。肩も大きく揺れている。坂道を登り終えたところでエフは大きく息を吐きだして叫んだ。
「あー、しんどーい!」
そして大きな登山用のリュックを放り投げて、その場で大の字でひっくり返った。
「なんなのよ。もう! 何でこんな坂道があんのよ!」
エフが盛大に不満を口にして、しばらく仰向けで寝転がった。地面は熱いがそんなことには構うこと無く空を見つめた。鳥が優雅に飛んでいるのが見える。
「あー空が青いなぁ。このまま吸い込まれていきそう……」
そう呟きつつ右の掌を空へと突き出した。太陽はちょうど真上にあって、日差しが容赦なくエフを照りつけている。
「お昼にするかぁ」
エフが放り投げたリュックを手繰り寄せて、昼食を摂り始めた。
「保存食、飽きたぁ」
水は幸いにも、そこら中に自販機があるのでそれを失敬している。しかし食べ物で無事なのはあまりないので、保存食ばかりになってしまっている。
そのことに思い至って、やはり盛大に溜息。
「何処かに料理上手な人いないかなぁ」
そんな欲望ダダ漏れな事を呟いていると、目の前を猫が横切っていく。エフは、そんな猫に話しかけた。
「やぁ猫さん。こんにちは」
「…………」
猫は振り向いたが、しかし当然のように警戒の視線を投げかけるだけで返事はしない。しばらく見つめ合うエフと猫。
「返事してよぉ。寂しいんだよぉ。話し相手になってよぉ」
口を尖らせて、やはり口から出るのは不平不満。そんなエフを無視するかのように猫は駆けていってしまった。
「あー。行っちゃったよ。何だよぉ。ここは私とお友達になる場面でしょお」
よほど暇な様子のエフ。というか実際、暇なのだ。
「あぁ、人探し、飽きたぁ……」
どれだけ探しても見つからない。最初に目覚めた建物を中心にして円状に歩いてもみた。ひと月という時間を掛けて探してみたが人は見つからなかった。
今にも崩れそうな建物にだって入ったし、民家にだって入ってみた。
そのあちこちで足元が崩れて死にかけたし、瓦礫に押しつぶされそうにもなった。それでも建物の中は出来る限り調べて回った。何処かに隠れ住んでいる人が居るかも知れないと思ったからだ。しかしそのどれもが不発で終わった。
そこでエフは、何処か一つの方向を目指して歩いてみようと考えた。そこで問題になったのは、何処を目指して歩くかだ。
考えに考えて出した結論。それは……
「神様。神様。どうか私めをお導きください」
そうして頼るのは一本の鉄の棒。それが倒れる方向に進むことにしたのだ。ただの運頼み。昔の昔。大昔から人間の間に伝わる道に迷ったときに神に頼む方法。それをエフは試して見ようと思った。
居るのか居ないのかわからない存在を探そうというのだ。神に頼る他ないという結論だった。
もっとも。その神だって居るんだか居ないんだか分からないのだが……
こうしてエフは、崩壊した道と呼んで良いのかよく分からない道を進む。
「私が歩いたところが道なのだ!」
戯言をほざきながら。
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