並走

みにぱぷる

並走

私がここに越してきて一ヶ月が経とうとしている。ここはとても平穏で、落ち着いた美しい町だ。

 私はとある学校で教鞭も取りつつ作家も務めている。浦島太郎という私のペンネームはまあ知られることはないのだろうが。

 私がこの町に越してきたのはとある友人の誘いがあったからだ。


 月が明るく、月の光が私の全身をキラキラと照らしていたある晩、私は高校での現代国語の授業を終え、帰路についていた。家から十分程度の位置にある最寄りの駅を出て、家までゆっくり歩いて帰っていた。

 この日は新しく買ったばかりの靴を履いていたため、ややサイズが合わず、それが気になって仕方なかったのだが、それを気にしながら歩いていると不意に真横に人影を感じた。

 私は職業柄芸術的感性に関するこだわりが強く、自分の感性を育むべく上を向いて歩いていることが多い。上を向いて歩くと、天から何かアイデアが降ってくるような心地がするのだ。

 目線だけを移動させて横を見ると浮浪者風の男が私と同じペースで私の横を歩いている。私は見窄らしい見た目の男と並走するのに妙な忌避感を覚えて、スピードを上げた。

 すると、その男は私に合わせてスピードをあげてきた。結局また、男に真横に並ばれる。

 成程、この男は私を抜かそうと必死なのか。たまにこういう大人を見かけることがある。普段は張り合わずに譲って上げるのだが、なんとなく癪に触り、私はまたスピードを上げる。すると、男はまたスピードを上げる。

 私はまたスピードを上げる。男はまたスピードを上げる。私はまたスピードを上げる。男はまたスピードを上げる。私はまた...。

 こうして私と男は彼此一時間ぐらい直進していた。二人とも最早早歩きを通り越して走ってしまっている。そうして、私はやっと気が付いたのだ。一時間も早歩きで直進するという普通の町中ではありえないような怪奇に。

 そして、私が今いる場所はどこなのだろう、という疑問に。

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並走 みにぱぷる @mistery-ramune

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