第6話 女騎士団長のクセ強アピールのせいで「逃亡」出来ない

//SE 遠くの戦場の音


「はあ……はあ……君、もういい。もう私を背負って逃げなくていい。置いていけ」


「団長を置いていくわけにいかない? ははは、君もボロボロなのに、副団長の鑑だな、君は」


「げほげほ……すまんな、腹に穴が空いて力も入らなければ、声も出ない……!」


「しかし、まあ、対人格闘技も役に立つもの、だな……まさか、あそこから手負いとはいえ魔人の懐に潜り込んで君が首を絞めるとは思いもしなかったよ」


「だが、やはり、魔人は強い……まさか、あそこまでとは。後続の部隊で倒してくれればいいが……。回復薬も全て出し惜しみせず使い、この私が捨て身の一撃でなんとか削ったんだ。無駄にして欲しくはないが……げほげほ!」


「回復術師のところまでワタシに体力がもつかも分からん。なに? 自分が回復魔法を使えれば……? ああ、そうだったな、昔の君なら……いや、そんな話はよそう。それより、もういい、置いていけ。これ以上、君を巻き込みたくない……置いていってくれ……」


「いやだ? ふふ、強情だな、君も……あの時もそうだった……」


「君は覚えていないかもしれないが、4年前の魔法師団の入団試験、そう、君は『平民でありながら全属性持ちの天才』と呼ばれ鳴り物入りで入団したあの試験。私も受けていたんだ。私は、ギリギリ合格だった」


「私の家は、元々魔法の方が得意な者が多かったから。魔法師団を受けるように言われて嫌々受けたんだ。私に魔法の才はないと私は分かっていたからいやいやね」


「魔力はあれど、強化魔法しか使えない。そんな私は、見込みなしということでいつクビになってもおかしくなかった」


「そんな時、『君は君だ』と言ってくれて熱心にしつこく私の指導をしてくれた男が居てな。それが……君だ」


「その時は眼鏡をかけていたし、今よりもおどおどびくびくしていたし、髪もぐしゃぐしゃで君は覚えていないかもしれないけれど、魔法師団の訓練では本当に君に助けられた」


「強化魔法しか使えない私が一年、あの過酷な環境で耐え続けられたのは君のお陰だ」


「私には、君が誰よりも輝いて見えたよ。強情で人に優しくて諦めが悪くてずっと気弱な私を励まし続ける君が輝いて見えて、そして……恋をしたんだ。生まれて初めて、人を好きになれた……!」


「クビになった時、絶望したよ。もう会えないんだと……でも、私は、どうしても諦めきれなくて……その、君に近づきたくて、騎士団の試験を受けたんだ」


「君が教えてくれた強化魔法の応用を剣術に使ってみたら思った以上に自分に合っていたようで、騎士団には一発合格、そして、どんどんと名を挙げていった。そして、騎士団に入団して2年、最速で最年少で騎士団長の一人となれた」


「君の活躍も耳に入っていたよ。うれしかった。だけど……一年前に、君が魔人の呪いにより魔法がほとんど使えなくなったと聞いてな、胸が張り裂けそうだったし、絶望に打ちひしがれた。なのに……君が騎士団の入団試験を受けようとしていることを知って、震えたよ」


「君は、まだ誰かを救おうとしているんだって。君はやっぱり君なんだって」


「私をあの時、救ってくれたように。私に、戦う勇気を与えてくれたように」


「だから、私も救いたいんだ。君を……だから、私を置いて。逃げてくれ。頼む」


「……なんで、なんで君は……! 伏せろ……!」


//SE 土に倒れ込む音と炎が通り過ぎる音


「まさか、私達を追って……? 随分高く買われたものだな……おい、君……分かったろ。私を捨てて逃げろ」


「なんで……」


「なんで、君は分かってくれないの? わたしは、君の為なら死んでもいいのに……!」


「あの魔人の詠唱は……極大呪文!? おねがい、おねがいだから……逃げて……!」


//SE 邪悪な魔法が襲い掛かる音と、それに抗うような小さな光魔法の音。


「無茶だ……げほげほ……そんな君の呪いを受けて弱化した魔法じゃあ、すぐにかき消されてしまう。いいから、私を置いて逃げろ……! は!? 最後に伝えたいことがっ……そんなこと今はっ……!? え……?」


「私の事を……君が……あのときから……ずっと……」


「ふぐっ……君はズルいな。こんな状況でも私は嬉しくて嬉しくて仕方がないよ」


「そうか、なら、最後まで死ぬまで一緒にいよう。私も好きだよ。君のこと。あの時からずっと」


「君は私のものだ。そして、私は君のものだ。死が二人を別れさせようとしても……絶対に絶対に離れてやるものか」


//SE 頬にキスの音


「ふふ、まさか、こんな状況ですることになるとはもっと、ロマン、チックな……なにこの、光、は……」


//SE 光の魔力が溢れ輝く音


「え? なんだ、この力は? もしかして、君の? いや、これは私の魔法が君の僅かな魔力を強化して……!」


「ふ、ふふふ……やはりな、私は誰よりも君を想っている。メスオークよりもゴブリンよりもデュラハンよりもオーガよりもドラゴンよりも魔人よりも……だから、誰よりも君を強く想い、強く思っている」


「君が誰よりも輝いて見えるんだ。私には……!」


「すきっ……!」


//SE 光が溢れる音、遠くで化け物の断末魔のような声

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