第3話 女騎士団長のクセ強アピールのせいで「組手」出来ない

//SE パシパシという掴みかかる手を弾く音。突如、止まり、二人の身体が地面につく


「はぁ……はぁああ、ふぅう~……くくく、捕まえたぞ」


「くくく、どうだ。この技は身動きがとれなくなるだろう。ん? どうした? 何故、お前が私と組手をしているかだと? 訓練だからに決まっている。あとは、私がお前とくっつきたかったからだ」


//SE くんくんと嗅ぐ音


「なんだ、この首筋に流れる汗は、蜜の様ではないか。じゅるり。ん、くぅ……! 暴れるな、ふふふ……はあっ……それにしても、お前の顔は、目、鼻、口元、どれを見ても、私の心を揺さぶってくるな」


「なんだ? 訓練なのに強化魔法で身体強化をするのはどうなのか、だと?」


//SE 小さく魔法が発動しているぶぅぅぅんという震動のような音


「気付いていたか……流石だな。そう、私の強さの秘密は、この強化魔法にある。他の魔法は一切使えないが、これだけは極めているのだ。ある人の助言でな……」


「……まあ、それはともかく。獅子は鼠にも全力を尽くす。そして、私はお雨を全力で、強化魔法を使ってでも捕まえて逃げられないようにする。同じ話だ。絶対に逃がさない。私が君の匂いを堪能するまでな」


「ん? 他の団員がどう思うか、だと? 心配するな、皆、相変わらず、鬼の団長に厳しくされている男程度にしか考えておらんよ。もし仮に、いやらしい目で羨ましそうに見ていたらソイツの目を潰してやろう」


//SE キュゥと締まる音


「まあ、心配するな。私の身体はただ強化魔法で身体強化されているだけでなく、強化魔法で作った魔法障壁で包まれていてな。魔法の薄い膜が身体中についてあり、よほどの実力者でなければ破る事さえもできない。もし、触られたとしてもそれは魔法障壁だ。数に入らん」


「私の身体はお前の物だ」


「だから、安心しろ。今は、手と足以外は、つけてないぞ」


「ん、んんん! ご、強引に外そうとするとは、大胆な男め……くくく、どうだ。お前が素振りの時に、あれをあんなにした私の胸は、メスオーク並みの大きな胸は、スライム並みにやわらかいだろう? そういえば、結局、素振りの時も私の部屋に来なかったな……」


//SE キュゥと締まる音


「何が不満なのだ? 金もある、顔も身体も申し分ないと友人も言ってくれたほど、それに何よりミノタウロスよりも強い。なんなら、ゴブリンよりもせいよ……」


//SE ガバッと抵抗する音


「おっと、逃さんよ。くくく、心配するな。私がメスゴブリンになるのは、お前だけだ。あれから私も猛勉強をした。女としてお前を喜ばせるために。準備は万端だぞ。友人と変装して街中のそういった書物を買いあさって学んだからな。……ああ、そういえば」


//SE キュゥと締まる音


「この前、お前が街で一緒にいた黒髪の女は誰だ?」


//SE キュゥと締まる音


「随分親しげだったなあ……城の人間ではないようだったな。お前の城での交友関係は全部洗い出し……げふんげふん、とにかく城の人間ではなかったようだった。となると、街で知り合った女となるわけだが……今後は街に出る余裕がないほど厳しく躾ける必要があるかもなあ」


//SE キュゥと締まる音


「私がお前のものであるように、お前は私のものだ」


「絶対に誰にも渡さない」


「騎士団長は皆の命を預かる身、であれば、お前は私のものといっても過言ではない。だから、あの女にも、魔法師団の友人でも姫様でも絶対に渡さん」


//SE 小さくパンパンと叩く音


「気絶しそうだから降参? 心配するな、気絶などさせないさ。気絶したらアピールが出来ないからな。それに、もし、気絶したらキスをしてやろう。キスで目覚めるのは物語の定番だからな。あんなものは嘘? う、嘘なわけがあるか! キスは、すごい魔法なんだ。私はそう思っている……! だから、大切にお前の為にとっておいてあるのに、そんなこと言うなあぁあああ……!」


「ん? それはいいから? 少し緩めてくれ、話が出来ない、だと……なんの話を……」


「え? 妹? この前の女は……なんだ、そうか……妹だったか、よかったぁあ~……」


「く、くくく、そうか、であれば、後の私の義妹となるわけか。今度は私も呼ぶがいい。私があの子になんでも買ってやろう、王都一の食事を用意してやろう」


「お前にも、『あ~ん』をしてやろう」


「ん? それよりもう一つ言いたいことが? なんだ? 『あ~ん』は絶対だぞ」


「対人格闘技、関節を極める技が何の役に立つと思えないだと? 魔物に人型は少ないのに? だから、言ってるだろう。私がお前にくっつきたかっただけだ」


//SE 衣擦れの音


「どうだ? 私のこの柔軟性と手足の長さ。クラーケンにも負けんぞ。そして、私はクラーケンより強い。それに」


「クラーケンよりもお前の事を想っている」


「ああ、それに人型はいるにはいるだろう。魔人は人型だ……魔神は強力な魔法を使うだろう。だが、奴らも人型であることに変わりはない。関節や首は有効かもしれないぞ。……それに……」


「いや、なんでもない」


「お前も大分鍛錬をつんできたようだな。身体が大きくなってきた。ここに来た頃とは見違えるようだ。手は素振りで出来た血マメでゴツゴツ、腕の筋肉は太くなり幹のようだ。足も太ももがパンパンではないか……背中も大きくて硬くて、首周りは……じゅるり……くくく恐ろしい男だ。服を着た身体にも関わらず、私を発情させるとはな」


「はあっ……はあっ……ん、んふふふ……これ以上はやめておこう。私はロマンチストでね、流石に人前では憚られる。だから、今夜は私の部屋に来るように」


//SE 近づいてくる足音


「すきっ……」


//SE 遠ざかっていく足音

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