第2話 女騎士団長のクセ強アピールのせいで「素振」出来ない

//SE 方々で剣を振る音


「おい、貴様。なんだ、その剣の振りは。もっと腰を入れろ、腰を」


//SE ぶんと言う素振りの音


「ん? なんで貴様の後ろに回って手を持っているのか、だと? ふふふ、こっちの方が都合がいいからだ。相も変わらず、くっつきたくなるような男らしい背中をしおって、ふふふ、許せんな」


//遠くでいくつもの素振りの音


「ほら、そんな事は良いから、剣を振れ。練習用の木剣とはいえ、ちゃんと振れば、剣は応えてくれる。なに? 私が気になって集中できないだと。馬鹿者。戦闘中に誰かを背負いながら戦うことだってあるかもしれんだろう。知らんが」


//SE ぶんという素振りの音


「それに、私の人生も背負うつもりでなければ困るしな。ふふふ」


//SE ぶんという素振りの音


「いや、だが、安心しろ。私の家はもう私に頭があがらんからな」


「例え、家の者が平民上がりと貴様をののしろうが黙らせる。そして、金ならあるぞ」


//SE ぶんという素振りの音


「貴様も知っているかもしれんが、団長というのは驚くほど報酬を頂けるのだ。それに、私は、旦那様を不自由させることないように結婚生活の為の金はたんまり貯めてあるのだ、ふふふ」


「好物件だぞ、私は」


//SE 一際大きいぶんという素振りの音


「そういえば、貴様。この前、私の部屋に来なかったな。折角貴様も懇意にしている魔法道具屋から睡眠薬を……こほん、いや、なんでもない。なんでもないのだ、別に、寝込みを襲い、先に事実を作っておこうとかそういうのではない。断じてない」


「そ、それより素振りに戻るぞ。ふふふ、貴様の背中、うなじ、じゅるり、おっと。ん? なーに、大丈夫だ。皆、疲れ果て私達の方を見る余裕などないさ。仮に見られてもまた、鬼の団長に厳しく指導されていると思われる程度だ。この前もそうだったのだろう」


「え? 何故、知っているのか? そ、それは……違うぞ! 何も、魔導具で貴様の生活を覗いているわけでは……え、ええい、いいから剣を振れ……!」


//SE ぶんという素振りの音


「違う。貴様の素振りは本当に素人のそれだな。ぶんではない。シュッだ」


「乱暴に振るな。しっかり腰に力を入れて、集中して、シュッ……そう、いいじゃないか。上手だぞ、貴様。もっと早く振ってみろ。ほら、シュツ、シュツ、シュツ……ふぅ、うまいぞ」


//SE シュッという鋭い素振りの音3回


「しかし、私が後ろから貴様の手を取って振っているからだという事を忘れるな。私がいるからだ。私が居なければ、こんな風には……」


「ん? 私の、剣は、綺麗? ば、ばばばばばばか……いきなり何を言うんだ」


「だが、そ、そうだろう? 私の剣技は王国でも五本の指には入る腕前だ。ということは……」


//SE ふぅという吐息


「私は、この前討伐しに行った首無し騎士デュラハンよりも剣の扱いに優れている」


//SE シュッという素振りの音


「デュラハンよりも剣の扱いに優れ、デュラハンよりも強く、それに何よりデュラハンよりも貴様のことを想っているんだぞ、私は」


//SE シュッという素振りの音


「デュラハンには首がないが私にはあるぞ。友人にも『見惚れる程爽やかな色気を感じさせる首筋だ』と評判なんだ。この首筋が貴様のものになるのだぞ」


//SE シュツという素振りの音


「首筋だけではない。全て貴様のものだ。私の全ては……貴様のものだ」


//SE ぶんという素振りの音


「む? また、音が鈍くなったぞ。剣に乱れが、というか、どうした? 前かがみになって……なんだ? 『雑念が』? なに? 『団長の胸が剣を振る度に形を変えて』……『意識してしまう』……だと? 『それで』……ん、何がどうなっているというのだ?」


//SE 服同士が擦れ、団長が肩越しに前を見てくる


「はぎゃ……! ばばばばばか! 訓練中にそんな、それをそんなにするなんて……破廉恥な男だ……! だが、その……私に背中から張り付かれ、私の身体を感じ、興奮したのか?」


「ふ、ふふふ……私もちゃんと女として見られてるんだ……。く、くくく……そうか、そうか。そうだぞ、私は女だ。メスオークよりもハーピーよりもサキュバスよりも女だぞ」


「今日はもう剣はふれまい。その辺で休んでおくがいい。そして、」


「貴様、今夜こそ、私の部屋に来るのだぞ」


//SE 近づく足音


「(すれちがいざま)すきっ……!」


//SE 遠ざかる足音

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