第3話 お金より大切な宝くじ
次の日
(二人で商店街を歩いている)
海人「結局、貯金することにしたのか」
由樹「うん。いまは使い道、わかんないし。これから先、使うことがあるかもしれないし」
海人「そっか……。ま、いいんじゃねえの。いま決める必要ないからな」
由樹「カイトは琴菜ちゃんの聖誕祭CDセット、よかったの……?」
海人「いいよ。ゆっきーにウソついたの、俺が完全に悪かったし。正直、CDセットに目がくらんでたからな……。ごめん、ゆっきー」
由樹「うん……。ならいいけど……」
海人「それにそうまでしてCD買っても、琴菜ちゃんが悲しむと思うし」
由樹「ほんとカイトは琴菜ちゃんばっかりなんだから……。あっ、あれ」
海人「お、あれか」
由樹「ついに来た……宝くじ売り場……!」
海人「ヤバい、俺まで緊張してきた……」
由樹「売り場の人、どんな反応するかな……?」
海人「どうだろ……。ギョッとするんじゃねえの? ほら早く、くじ見せて」
由樹「う、うん。(売り場の人に)すいません、あのこれ、換金しにきたんですけど。当選してると思うんですけど……」
(宝くじ売り場の窓口が確認する)
由樹「――えっ、番号が違う?」
海人「いや、そんなはずは……俺いまスマホで番号みてるけど、合ってるし――」
由樹「えっ、それは、関東の当選番号……? これ東京の宝くじですけど、東京って、関東ですよね? ――『実りの秋宝くじ』は、東京と、それ以外の関東で別? 東京には、東京の当選番号がある……?」
海人「じゃあ、この宝くじって――はずれ!?」
由樹「そ、そんなぁ……」(へたりこむ)
(間)
近くの公園にて。
海人「――ちょっとそこのベンチで休むか」
由樹「うん……」
海人「元気出せよ、ゆっきー」
由樹「うん……」
海人「落ちこんで当然だよな。一千万円が当たると思ってたのに」
由樹「うん……」
海人「俺だって落ちこむよ。すっごく損した気分になるし」
由樹「――違うの」
海人「え?」
由樹「正直私、一千万円なんて大金手にするの、怖かったの。だからいま、ホッとしてるっていうか、そんな感じ」
海人「ゆっきー……」
由樹「それにね。このはずれくじのおかげで、私とカイトがもっと仲良くなれた気がして。それってお金なんかよりずっと私がほしかったものだから――だから私、損したなんて全然思ってないよ。私にとっては、大切な当たりくじ」
海人「――そっか。そうだな」(感慨深そうにうつむく)
海人「ってかいまのゆっきーさ。『ゆきぼう』っぽかったぞ」
由樹「いまのカイトは全然『Takio』っぽくないけどね」
海人「言ったな~! コホン。あー。『(Takioのマネで)いまのゆっきー、とてもかわいかったよ』」
由樹「キュンッ! で、でも、顔がカイトだからだめ!」
海人「なんだよそれ……」
由樹「ってか私、まだTakioさんがカイトだって信じてないから! Takioさんはイケボで、包容力があって、私の話を優しく聴いてくれる人なんだから!」
海人「あのなあ。いいかげん現実を――あ、やば、カフェのイベント、もうすぐじゃなかったっけ?」
由樹「リスペクターのコラボカフェ? あっ、もう二時半!? 急がなきゃ!」
海人「いくぞ、ゆっきー!」
由樹「あ、待ってカイト。はぐれたらヤだから、手、つないで……」
海人「(手をつないで)ほらっ、いくぞ」
由樹「うん!」
END
宝くじ当たった! 七村 圭(Kei Nanamura) @kestnel
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