シャッコウスズメが征く
空き巣薔薇 亮司(あきすばら りょうじ)
プロローグ:嚆矢
——しばらく先のこと
この椅子に座るといつも血の匂いがする。
「慣れたな……それも」
俺の声。
こうして機体の中に座ると独りになれる。
これは1人乗りの機械。
ある意味で飛行機とも言えるし、ただ、これには翼が生えていない。
代わりに腕と足、頭が生えている。
そんな五体満足な機械、『
鋼鉄の巨人とも呼ばれるそれが、かつての大戦で猛威を振るったのも昔の話。
全ては老人の語り草。
「さて……」
1つ念じてみればこの『
心臓にして脳味噌とも言える『
正面。頭部よりもたらされたこの機械の視覚情報がモニターに、音は頭蓋に響く様に聞こえた。
まるで人間の延長の様。
武器や道具とは人間の機能を拡張、効率化する必要の産物だが、これはその究極系だ。
人間が収まり席に着き、筒状の接続ユニットに両手両足を挿し入れることで思考に伴い駆動する。
つまりは操縦桿で操作するより早く神経速度に伴い動くため、この機械の操縦は操縦ではなく『
そして、『
視界が空へと昇り始める。
遠く遠くへ視界が開け、力の方向を浮力から前へ飛ぶ推進力へ比重を変えた瞬間、『
空気の壁を突き破り、その圧力は『真核』より形成された力場が外へと押し流す。
この力場の形成により『鋼骨塊』は形状と機能に遥かな自由と汎用性を手に入れた。
高速で飛ぶため必要とされる形状を逸脱し、人の形状を手にしたのだ。
そして、
「居た」
未だ遠く、距離にして2キロ以上離れ、ほぼ複数の宙に浮かぶ点の集まりとのみ認識できる『鋼骨塊』の群れ。
程よく散開し掃射による被害を抑える陣。
加えて集団が一つの生き物と化し効率よく飛ぶため速やかな変化を取り、隊長機が先頭、その背後で末広がりの八の字に構える隊列へと変貌。
「気づかれた……」
たった一機、真っ向から飛び込む俺のこの真っ白な機体を不可解と思いつつ敵と見做し排除するため数に任せ包囲する挙動か。
——笑う
そうでなくては、と思う。
口元が歪む。
そうでなくてはやり甲斐がない。
滅ぼし甲斐がない。
根絶やしにしたところでその甲斐はないだろう。
そうだ、お前達はそういう奴らでないと。
その思考の元、ちょうど『
その重さ。
特殊合金の刀身に刃へ纏う熱。
鍔のないスラリと長い長刀を振りかざし——
◆◆◆◆
——かつて天下統一を掲げた大国あり
その名は『大ヤマト帝国』。
古きその地の名を冠した帝国。
国主『
かつて、それがどう呼ばれ、どう運用されたか不明。
おそらく、その国が大陸から離れ、小さな島国だったとされる頃の、太古の遺産。
発掘されたそれらが後に『
両手両足、さらに頭の五体を備える鋼鉄の巨人たる機械群は、人を胸部に乗せ、脳と直結する様に思考に伴う動作、そして理論上ではいつまでも動き続ける無尽の動力源を持つ。
加えて人同様の規格を持つ汎用性の高さ故に、わずかに生産可能となった航空戦力が切り札で、次々産み落とされる銃器、それらを配備した歩兵が軸となる戦場におき、卑劣なまでの優位性を誇った。
大方の兵器は空を舞う鋼骨塊に手は出せず、戦闘機では追いつけない。
そもそも貴重な燃料を食う戦闘機はそう簡単には使えない。
そうして彼の国は数々の民族を滅ぼし、各地を併合、その地図と国境を次々塗り変えた。
が、その侵攻に歯止めをかけたのもまた、大ヤマト帝国自身。
かつて野望を掲げた二階堂光圀公が、次期国主を指名せず、この世を去ったのだ。
それを皮切りに有力者同士の権力争いが勃発。
醜いまでの内紛は既に消耗され尽くした諸外国、および民族浄化の名の下、滅ぼされた民族達に好機を与えた。
『大ヤマト帝国』憎しの旗の元敢行された数々の反撃。
内紛でその対処が追いつかず、かくして彼の国は、その支配の版図を著しく減らし、大陸東部に影響を残す名ばかりの帝国へ衰退した。
そうして残された『大ヤマト帝国』元権力下空白地帯だが、意外にも諸外国の支配を受けることはなく、それだけいかなる国も疲弊しきっていたということで、複数の都市連合、自治都市群が勃興。
かつて帝国領と呼ばれた領土は細かく分断、統治されることとなった。
これらが40年以上前の話。
各都市国家群の独立に伴う戦争は絶えず、未だ闘争を繰り返す地域もある中、需要に伴い大ヤマト帝国脱走兵を発端としたフリーランスの傭兵達。
かつては大ヤマト帝国崩壊の
そして領土を取り戻す名目の元、
彼らはこの戦後の時代に傷跡として、確かな存在を刻む。
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