第26話
勇者を車で轢いたメンバー、輩Aこと
逮捕されたのは一度や二度ではない。懲りずに強盗を繰り返してはその度に不起訴になっている。逮捕されても起訴されない理由は、彼の父親が大手芸能事務所の社長であり、金と人脈に物を言わせて息子を助けているからだ。
遊ぶお金に困ったことがない彼が強盗を繰り返す動機は「刺激がほしいから」だった。
そんな彼は六本木の高級ホテルで駆け出しのアイドルたちと広い浴室でバブルバスを楽しんでいた。
ジャグジー付きの大きなバスタブでアイドルを左右にはべらる一条は、父親の威光を笠に着て好みのアイドルを見つけるとホテルに呼びつけるなど、やりたい放題だった。
酒池肉林の宴の最中に、ひとりの少女が制服を着たまま浴室に入ってきた。観たことがある制服だった。なにより一条は少女の顔を良く知っていた。
現在、グラビアアイドルとして人気が急上昇中の草薙リンだ。
いくら父親や関係者にせがんでも彼女だけはデリバリーしてくれなかった。
ヤリたかった女が目の前にいる。何度も果てた後だというのに男のイチモツは勢いよくそそり立った。
「ひひひっ……なんだよなんだよ、草薙リンのジャーマネを脅したのが功を奏したみたいだな……。最初から俺の言うことを素直に聞いてとっととデリすりゃいーんだよ、どうせ俺様には逆らえりゃしねぇんだからよぅ。まあ、いいか。こうして自分ところのイチオシアイドルを差し出したんだから許してやろうじゃねーな」
舌なめずりする一条の前で草薙リンはニコニコと笑顔を振りまいている。
「どうした? とっとと裸になれよ。……いや、やっぱり一発目は制服のまま犯した方がそそるな。よし、そうするか! たっぷり気持ち良くしてやるぜ! ひゃはははッ!!」
一条は湯船から立ち上がろうとした――、が立ち上がれなかった。体が動かない。浴槽のお湯がチューインガムのように粘度を持って体にまとわりついている。
「な、なんだこりゃ!?」
さらに水が盛り上がり、生き物のように体を昇りはじめた。男を覆うように徐々に肩を呑み込み、顎に迫る。振り払うこともできずに口をふさがれてもがく一条の姿を見て、はべらせていたアイドルたちが悲鳴を上げて浴室から逃げていく。
「ばっ!? がはっ! ぶは!?」
湯船で溺れる一条の必死な姿を眺めながら草薙リンはくすくすと笑う。
「やっぱり人間は溺れている顔が一番可愛よね」
助けてくれと叫ぶことすらできない男の皮膚が溶けてはじめる。皮膚が溶けて筋繊維がむき出しになっていくその姿は、さながら理科室の人体模型だ。
「ああ、このままぜんぶ溶かしちゃうのがもったいないよ、ずっと見ていたいなぁ。だから時間を掛けてゆっくり溶かしてあげるね。溺れながら、まずは皮膚を溶かして、肉を溶かして、一枚一枚めくっていってさ……、臓物が丸見えで溺れる姿を想像するだけで、イっちゃいそう……」
恍惚な笑みを浮かべて下腹部を抑える草薙リンに見守られながら、一条麻葉は声にならない断末魔を上げた。
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