第4話 

 アッシュグレーの巻き髪に派手なエクステ、ネイルはキラキラで瞳にはカラーコンタクト、俺の目の前にいるギャルは長い脚を組んでスマホをいじっている。

 しきりに足を組みかえるから気になって仕方ない。パンチるかパンチラないか絶妙な切り返しだ。


 次に呼び出した生徒は、カリスマギャルモデルの伊南カレンだ。彼女は魔王軍の団長を名乗っていた一人である。


「とりあえず名前を聞こうか」


「えー、なにこれケーサツの取り調べみたいでウケる。てか、せんせー知ってるんでしょ? あーしの前世の名前、だって戦ったことあるもんね。覚えてるよ、せんせーに貫かれたところがたまに疼くだよね」


 足を組みかえた彼女が自分の右胸を揉んだ。もみもみと柔らかそうなスライムがプルプルとスライム。


「ぐッ!?」


 俺は思わず目を逸らす。

 前世の彼女は身の毛がよだつ禍々しい姿だった。だったが今はどうだ! どエロな身体をしたギャルにしか見えないというかザ・ギャルだ(意味不明)。


「足をしきりに組み替えるのはやめるんだ。下着が見えそうだぞ鎧殻機動団長ザルガルルーデルファルク……」


「えー、いいじゃん別に。せんせーが見たかったら覗いてもいいんだよ?」と彼女はスカートの裾を摘んでみせた。


「……」


 がぁ゙ぁ゙ぁ゙、くっそ覗きたい!! カリスマギャルのパンチラが見たい! ん? てか覗くだけなら条例に抵触しなくね? いやいや、ダメだアウトだろ! そんなことをしたら教師として終わりだぞ!


「キ、キミは俺に好意を寄せてくれていたと思っていたが、これまでの思わせぶりな態度も積極的なアプローチもすべて演技だったとはな……、恐れ入ったよ」


 彼女だけじゃない。他の子たちもだ。今までモテまくったのも、あれらのラッキースケベもすべて偶然じゃなかったのだ。地味にショックすぎて死ねる!!

 悲しい。うう、涙が……。


「うーん、他のみんなは知らないけどさ、あーしはせんせーのこと好きだよ」


 スマホから視線を離した彼女は机に頬杖を付いた。


「え?」


「勇者がどうこうじゃなくて、初めて先生を見たとき『あ、いいかも』って感じたし」


「そ、そうなんだ」


 大きく開いた胸元に眼が吸い込まれてしまう。すごい引力だ。チラチラ見てしまう自分がマジで情けない。


「そう、だからけっこう本気でアピールしてたんだよね。せんせーも素直になればいいのに、あーしとえっちな事したくないの? あんなことやこんなことできるよ、先生のどんな変態な要求にも応えるよ? 気持ちいいこといっぱいしよ? ね?」


 再び椅子の背もたれにもたれかかった彼女が足を組みかえた。瑞々しい太ももに思わずごくりと喉が鳴る。


「前世のことは一端置いておこう。と、とにかく今の俺は教師でキミは生徒なんだ。そんな破廉恥なことできる訳がないだろう」


「じゃあ、したくない訳じゃないんだ?」


「うう……」


「クビになったっていいじゃん、あーしが養ってあげるよ、せんせー」


「え、マジで?」


 思わず妄想してしまう。


 狭いアパートで暮らす俺は夕方までゲームをして過ごす。そこに制服を着た彼女が学校から帰ってくる。彼女はそのまま夕飯を作りはじめ、俺は後ろからちょっかいを出してイチャイチャする。お腹がいっぱいになったら一緒にお風呂だ。彼女が俺の体を隅々まで洗ってくれる。そして体まで拭いてもらってベッドイン。休日は朝から晩まで彼女と部屋でダラダラして過ごし、週一でモデルの仕事に出掛ける彼女を玄関まで見送った俺はベッドで精気を養い彼女の帰りを待つのだ(早口)。


 カリスマギャルモデルに養ってもらう生活、アリナシで言えばアリ寄りのアリアリだ。


 バチン――、弾けた音が進路指導室に木霊した。

 誘惑に負けそうになりそうになった俺は自分の頬に思いきりビンタを喰らわせた。


 危ない……、油断も隙もあったもんじゃないぜぇ。自然な流れで俺を社会的に殺しにきやがった。なんて恐ろしい奴だ、さすがは元魔王軍の大幹部。


「っ……そういえば、どうして俺がこの学校で働いていることが分かった?」


「あーしは知らなかったよ」


「え?」


「あーしはアンリに言われてこの学校を受験しただけだから」


「そかー、それじゃ安土沢に聞くしかないなぁ」


「それより聞いてよせんせー、この前の撮影現場で超気持ち悪いハゲオヤジがいてね――」


 その後、俺たちは普通に雑談で盛り上がった。

 魔王軍うんぬんを抜かせば彼女は普通に良い子なのである。それは一年生のときから彼女を見ていたので知っている。

 伊南カリンとの面談を終えて、次の生徒を呼びに行ってもらう。




「し、しつれいします……あっ!」と少女がドアを開けて進路指導室に足を踏み入れた瞬間、つまずいて転んでパンツが丸見えになった。


 今日はピンクかぁ……。


 いつもラッキースケベを提供してくれる純情で天然っぽい彼女の名前は、近衛ミヤビ。素直で可愛らしいキャラクターもただの演技に過ぎなかったのだろう。しかし、あれが演技だったのならトラ〇ル並みのクオリティーである。


 彼女が椅子に座ったところで俺は質問をはじめる。


「さて、もう一度自己紹介してくれないか?」

「こ、近衛ミヤビ、十六歳です」


「今の気分は?」

「少し、緊張しています」


「昨日は眠れた?」

「え? は、はい」


「好きな食べ物は?」

「えっと……、メロンパンです」


「身長は?」

「151センチです」


「好きな体位は?」

「へ? 体位?」


 質問した直後、俺は自分の額を机に叩きつけた。


「なんでもないんですこのことは忘れてくださいお願いします聞かなかったことにしてください!!」


 はぁはぁ……いつからだ、一体いつから俺はこれがインタビューだと錯覚していた!? 凄まじい開幕雷撃だぜ。まさかのっけから仕掛けてくるとはさすが魔王軍の大幹部、恐ろしい奴!



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