俺はAV女優、鏡シュラが好きだ 〜覚醒〜
一回目の入眠は、意外にもスムーズだった。
睡眠グッズも着衣も全て清潔で心地よいのもあるが、正直前日よく眠れていなかった睡眠不足がその主な立役者だろう。
今回の作戦の一番の懸念事項は、二度寝の二度目の入眠が上手く行くかどうかだ。
これから鏡シュラを(夢で)抱く、というタイミングで、俺は眠れるのか──?
だが、今回はできるかどうかではない。
やるか、やらないか、なのだ。
目の前で輝いた希望が掴めないかもしれないからと言って、最初か手すら伸ばさない男など、彼女は嫌いなはずだからな。(知らんけど)
枕の下には、セブンイレブンでネットプリントした鏡シュラのグラビア。枕元にはぐるりと6本のDVDと1本のブルーレイ。手には同じくネットプリントした彼女の写真。
事情を知らない他人が見れば異常者そのものの状況の中、俺は微笑みながら深い眠りに落ちていった。
***
シャントントラシャンシャントンシャントン
聞き慣れないアラームで俺は目を覚ました。
午前4時。初めて使う時間帯のアラームは初めて聞く鈴のような音階のブリッジだった。
定められた手順では、ここで30分〜1時間、脳を刺激し過ぎてない活動をすることになる。
参照したWEB記事にはそれがどんな活動かは具体的な記載がなかったが、下手に身体を動かしたりして目が完全に覚めてしまっては全てが水の泡だ。
俺はテレビの横の時計を見て、30分横になったまま鏡シュラと俺の逢瀬のイメージトレーニングをすると決めていた。
30分して、そのまま入眠すれば、素人の俺にもそのままめくるめく目的の夢を見ることが出来そうだと思えた。
あと20分。
今この瞬間、鏡シュラはどうすごしているだろうか。
撮影の仕事中だろうか。
一人で眠っているのだろうか。
それとも、俺の知らない本物の恋人と愛を確かめ合ったりしているのだろうか。
あと20分。
時計を確認した俺の目が、PS4の上にポン置きされたDVDケースを捉えた。
タイトル台紙の入ってない黒いケースは、赤い幅広のテープでぐるぐる巻きにされている。
なんだっけ。あのDVD。あんなDVD持ってたっけ?
あと15分。
記憶を辿るうち、サークルの先輩が俺の鏡シュラ好きを知り、先輩セレクションの鏡シュラ名シーンを編集して焼いてくれたスペシャルディスクを作ってくれたことを思い出した。
あと12分。
だからタイトルも宣材写真もなく、真っ黒なケースに俺自身が赤の布テープで封印を施したのだった。このDVDは──抜けてしまい過ぎるが故に。
あと10分。
何を考えている? 俺よ。
考え直せ。
あと10分だぞ。今「そんなこと」をすれば全て元の木阿弥だ。何のために今日まで準備してきた?お前の鏡シュラへの思いはそんなものか?
あと9分。
よせ。膨らむな。確かに三日も禁呪したのは久しぶりだ。だからって……お前、こんなにも残響散歌なのか⁉︎ 相手は写真すらない、無地にテープのただのDVDケース……
あと8分30秒。
むくり。
いや、あれはただのDVDケースなんかじゃない。
あれこそ俺の「夢」じゃないか?
色々な鏡シュラの痴態だけが次々に再生される。開けたら最後ユーキャントストップ。やめられない止まらない。サイレントナイト(wow wow)ホーリーナイト(wow wow)──それこそが俺を支える柱であり、俺のリビドーそのもの、すなわち俺そのものじゃないのか?
布団を出た俺は、テレビに近づき屈み込むとそのケースを手に取り、封印のテープを引きちぎった。暗闇にテレビのHDMI 画面が光を放つ。俺の体は俺の統御を離れ、夢遊病患者のように勝手にDVDを挿入し、それを再生した。
午前4時23分の真っ暗な部屋が鏡シュラで満たされた。
俺は下半身の装甲を強制パージするとオーバーゲージがレッドゾーンに達するまでアサルトブーストを全開にした──。
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