俺はAV女優、鏡シュラが好きだ 〜決戦〜

 計画はこうだ。


・満月の日を選び、作戦を決行する。

・前日三日は自家発電を我慢し、ボルテージを夢に温存すると共に性夢を誘発する。

・「明晰夢を見るには」のハウトゥーを忠実に実施する。

・枕元、枕の下には鏡シュラの写真やDVDを用意し、手にも鏡シュラの写真を持って眠る。


 満月の日を選んだのは、その日が最も男の中の狼を昂らせそうに思えたからだ。

 前日三日から禁呪期間としたのはそれより早ければどこかで不随意に禁呪が暴発するかも知れず、それより遅ければMPの積み立てが不十分に思えたから。

 枕元や枕の下、手に握り締める鏡シュラグッズはおまじない以上の意味を持たないかも知れないが、できることは全部やるのだ。それが長年俺を支えてくれた彼女への、俺の矜持だ。それを彼女が受け取ることは勿論のこと金輪際認識することさえないわけだが。


 ニュースによれば、今月末、8月31日は満月でなおかつ満月の中でも今年見られる中では最大に見える「スーパームーン」だそうだ。

 スーパームーン。

 これ以上に俺が俺の中の怪物にお仕置きするのに相応しい日があるだろうか。いや、ない。

 日付は決まった。

キャスターは当日の空模様を気にするコメントをしていたが、俺の心は既に晴れやかだった。


***


 「明晰夢を見るには」のハウトゥーによれば、まずは眠る時にリラックスしていることがとりあえずの前提らしい。


 ネットで調べた明晰夢を見やすくしレム睡眠を利用する「WBTBテクニック」の手順とは以下のようなものだ。


1. 目覚ましを通常の時間より2時間程早くセットする

2. アラームで目が覚めたらベッドから出る

3. 30分~1時間脳に刺激を与えすぎない活動をする

4. 再度ベッドに入り、夢を考えながら眠る


 要するに、わざと二度寝の状況を作り、浅く眠って考えていることを夢として見る、というコンセプトらしい。


 実は俺は、かなり鮮明にリアルな夢を見るタイプだ。


 中学生の時、カレーを食べる夢を見ながら親に起こされて、手の中の金属のスプーンが軽くなり空中に解けて消えてゆく感覚を味わったことがある。

 あの鮮明さで鏡シュラと触れ合えるなら、例えそれが一夜の夢だったとしても、俺も俺の中の怪物も必ず満足して、握手して肩組んで声を合わせてGreeeenのキセキを歌うだろう。


 俺は立ち上がった。不確かな希望だったが、ないよりもずっとマシだった。ケアレスミスも減り、食欲も前より増した。夢の中のこととは言え、鏡シュラに相対するなら最高のコンディションで望みたい。

 彼女のことを思えば、三日の禁呪期間も苦ではなかった。

 いつものサイクルより早めに床屋に行き、深爪ギリギリまで爪を切る。シーツも枕カバーも洗濯し布団も天日に干す。ジャージも綺麗にして、シャツとパンツは新品を用意した。


 そしてついに、その日が来た。


 俺は体を入念に洗い、いつもより4分長く歯磨きをして、髪を乾かして整え、髭を剃り、軽くストレッチをして床に着いた。

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