(5)囚われ
***
眩暈がし、ふと我に返り気づく。
夏の匂いなんて季節外れだしそんなのあり得るわけがない。鼻で笑い自嘲する。
心の中では分かっている。こんなのは幻想だと。過去に囚われているだけの背中しか見せられない人間。もう過去なんて文字通り過ぎ去ったもの。なら、思い出すだけ無駄だ。もう戻らないのだから。
だけど脳は正直だ。毎回あの夏と華恋が頭の中を駆け巡る。望んでなどいないというのに。
ため息を吐きふと眦を上げる。
もう青空ではなく夕焼けの空に変わっていた。周りはどんどん茜色に染まっていく。
どこか近くで場違いな音がする。耳よりも近い場所で――
――夕焼けの中でひぐらしが鳴いていた。
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