第49話 試験と映画館(隼人視点)
真香が帰ってきた。本当に良かった。ちさきは嬉し泣きをしてたし、拓也も爽やかな顔をしていた。これで全ての問題が解決した。
真香には父親と話し合ったことなどを伝えた。頑張りたいと言うので俺は真香の家庭教師をすることに決まった。もちろん、ちさきも拓也も一緒だ。
「ちさき、おはよう」
「おはよう。来てくれたんだ」
「もちろんだよ。ちゃんと送り届けないとね」
「わたしは大丈夫だよ。ほら足だって、ここまで歩けるしさ」
ちさきは普通に歩くことができるまでに回復していた。一応、松葉杖は添えているが、なくてもなんとか歩ける。
「足、大丈夫か?」
「うん、ありがとう。もともと足に異常があるわけじゃないからね。ずっと寝ていたから、筋肉量が足りなかっただけだよ」
ちさきは嬉しそうに小さくジャンプした。
「危ないって、もう」
俺はジャンプしたちさきを支える。
「大丈夫だってば」
「だーめ、そんなことしてると本当に歩けなくなるよ」
「それは困る!」
「だろ! でも、ここまで歩けるようになって、本当に良かった」
俺はちさきの腕に手を回した。
「ちょっと、歩きにくいよ」
ちさきは不満の声を漏らすが本心からじゃないことは表情からよく分かる。
「なあ、テストが終わったらデートしようか」
そう言えば、これまでバタバタしていて、デートなど全くして来なかった。
「どこに連れてってくれるのかな?」
ちさきが嬉しそうな表情で俺に視線を投げかける。凄く期待してるのが分かる。
「そうだなあ、映画でも見に行く?」
「本能寺の変の真実?」
「それは……、もうやってない」
「ええっ、それじゃあ『非日常な彼女』かな」
「ちさきにしては珍しいな、恋愛もの選ぶなんてさ」
「えーっ、わたしだって見るよ。本だって持ってるんだからね」
「それは知ってるよ」
「でしょう」
真香に振り回された半年だった。やっと普通の日常が帰って来た。真香は拓也と何かあったのだろうか。帰ってきた真香は拓也を見ると顔を赤らめていた。どうやら拓也は真香が好きみたいだ。
「じゃあ、テスト頑張ってくるね」
先生が正門まで迎えに来てくれていた。
「隼人送ってくれてありがとう。ちさき、よく来たな。さあ、行こうか」
「先生、よろしくお願いします」
いつもはだらけた教師だが、今日はせっかくの休みの中、ちさきのために出て来てくれた。本当にありがたい。俺はちさきから離れると手を振った。
「じゃあ、後で来るからな」
「うん、よろしくね」
ちさきは四科目分のテストになる。本来は全科目となるところだが、理系のちさきに合わせて英語、国語、数学、物理の四科目になった。
俺は一旦家に帰り、少し自習をしてから、もう一度学校に向かう。正門に着くと、もうちさきが来ていた。
「早かったな」
「うん、少し早く終わったから出てきちゃった」
「大丈夫なんか?」
「全く問題ないよ。ありがとう、隼人の授業のおかげで進級できるよ」
ちさきは俺に抱きついた。
「ちょっと、ここじゃ……そのさ」
「ごめんね」
ゆっくりとちさきは離れる。俺はちさきの腕に手を回した。
「歩きずらいか?」
「大丈夫だよ。もう、松葉杖も形だけになってるからね」
「ここからだと映画館は、駅前が近いかな」
「だねえ。どんな映画か楽しみだよ」
「でも、原作読んだだろ?」
「それと、これとは違うよ」
非日常な彼女の本は、入院中にちさきのベッドにずっと置かれていた。何度も繰り返し読んでいたのだろう。まあ、綺麗好きなちさきだから、いつ行っても本はカバーがかかって綺麗なままだったが……。
――――――
「ねえ、ポップコーンでいいかな」
「俺が買ってくるよ。待ってて……」
「駄目だよ。わたし奢ってもらってばかり!」
「病人は細かいことは気にしない」
「気にするよ。それにわたし……病人じゃない!」
実は真香の家庭教師をやると決まった時に、家庭教師をするのに、前金をもらっていた。断ったのだが、真香がここまで熱心に勉強するのは初めてだ、是非にと渡されたのだ。
「大丈夫、お金なら結構あるからね」
「分かってるけども……」
なんか、ちさきは不服そうだった。
俺がポップコーンとコーヒーをふたり分買って、ちさきと映画館に入る。やはり恋愛映画だからか男女のカップルが多かった。
「みんなこんな風にしてるね」
ちさきが俺の肩にもたれてかかってくる。
「大好きだよ……隼人……」
「俺もだよ……ちさき」
俺とちさきは指と指を絡め合う。暗い映画館では周りから俺たちの姿は見えない。まあ、みんな同じようなものだから恥ずかしくはないのだが……。
映画は言われていた通り、悲恋ものだった。突然、知り合った彼女。好きだと言われてつき合い出す。自由奔放な彼女に振り回される毎日。
「なんか、真香ちゃんみたいだね」
本当に似てるな、と思ってしまう。ただ、彼女には秘密があった。彼女はこの世界の人間ではなくて、別の次元から来ていたのだ。彼女の世界はここの世界より少し時間の流れが遅く、どんどんと会える時間が減っていく。
いつかふたりの時間の限界点が来て、彼女は突然消えてしまう。
「悲しいね、私たちがこんな悲しい運命じゃなくて本当に良かったよ」
ちさきは俺の手をギュッと握った。
「大丈夫だよね。いなくなったりしないよね」
俺はちさきの髪を撫でる。女の子は髪の毛が崩れるからと嫌がるそうだが、ちさきは素直に喜んでくれてるようだった。
「隼人に会えて本当に良かった」
ちさきは俺にぎゅっと抱きついてきて、キスをした。
「それはちょっとヤバいんじゃないかな」
後ろから女性の咳払いが聞こえた。
「本当に今の高校生ったら、恥じらいもないのかしら」
後ろを振り返るとアラフォーの女性がいた。隣に男性がいないことから恐らく一人なのだろう。俺とちさきは目を合わせて苦笑いを浮かべた。
――――――――
ちさきと映画館です。
少し遅くなり申し訳ありません。
応援よろしくお願いします。
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