第47話 ちさきと勉強(隼人視点)

「ちさき、おいで」


「……、うん」


「一緒に勉強しようか。明日からテストだよね」


「ありがとうね。多分大丈夫だけれども……」


 これまで色々とありすぎるほどにあった。ちさきは拓也の恋人になったと思い絶望した。真香に告白され、付き合った。ちさきが交通事故に遭って、本当に苦しんだ。実は、ちさきと拓也は恋人でないと告白された。ちさきは兄妹かもしれない。そのためにちさきが俺を諦めたと聞いた。少し救われた。そして、全てが嘘だと知った。


「ここが分からないんだけれども……」


「……うん、そこはね」


 真香と別れてから、ちさきは俺の部屋に来てテスト勉強をしていた。俺はちさきの指先をゆっくりと移動させて、説明していく。


「やはり、隼人にはかなわないや」


「そんなことないよ。今のところ、ほぼ満点に近い点数を叩き出してるし、すごいと思うよ」


 俺は真香との関係をどうしたいのだろうか。


「どうしたの?」


 ちさきは俺が悩んでるのに気づいたようで、じっと見た。


「真香のこと、……どうすればいいかな」


 とても許せるものではない。それは分かってる。厳しいことを言ってしまった。だけれども……。


「隼人はどうしたいの? わたしは隼人の考えた結末なら、どっちでもいいと思う」


 ちさきは俺の判断に委ねようとしてる。恐らく拓也もそうだろう。


「真香は許せない。けれども、四人の関係を壊したくない……」


 きっと俺とちさきは今後も変わる事はない。でも、拓也はどうだろうか。俺から離れていくことも無いとは言えない。拓也の真香への気持ちは俺とは少し異なるとは思う。そして恐らくちさきも……、そうだ。


「真香を許す事はできない。でも、四人の関係がバラバラになってしまう事は嫌だよ」


「わたしも、同じ気持ちだよ」


 嘘ばかりついて来た真香が本当に変わるかなんて分かるはずはない。今はそんなことよりも、俺たち四人のこれからのことだ。


 その時、俺のスマホが鳴った。


「拓也、どうした?」


「真香がお父さんから、もう話したくないと言われたそうだ。このままじゃ、真香は大学にさえ行くことはできない」


「……そうか」


 厳格な父親のことだ。きっとそうなると思った。だが、まだ高校生だ。


「こんなこと頼めた義理ではないかもしれない。すまない。お前から、真香のお父さんと話し合ってくれないか?」


「……分かった。ちさきと一度話し合って決める」


「……ありがとう」


 拓也らしいな。俺は目の前のちさきに目を向けた。ちさきは俺の決定に全てを委ねると言ってくれた。そうであるならば……。


「ちさき……、真香がお父さんから絶縁宣言をされた。ちさきなら、どうしたい?」


「わたしが決めていいの?」


 俺の気持ちを伺うちさきの視線。大丈夫だよ、ちさきはきっと真香を見捨てない。


「うん、ちさきが決めてくれていい」


「隼人と違う意見であれば、意見してくれていいんだよ。わたしは……、真香ちゃんを助けてあげたい」


「……分かった」


 俺はスマホを取り出して真香の父親の連絡先に電話した。数回の発信音の後に真香の父親の声がした。


「もしもし、隼人くんかね。さっきはお見苦しい所を見せたね」


「いえ、大丈夫です。それで、真香さんがそちらに話しに行ったと思いますが、どうなりましたか?」


「うん、うちの家から出たいとあいつは言って来た。わたしはそれでもいいと思って、分かったとだけ答えた」


「そうですか? では、もし真香さんが進学したいと言ったら進学させてくれますか? 医大に行きたいと言ったら継ぐことも考慮に入れてくれますか?」


「えっ、でも隼人くん、それじゃあ真香のためには……」


「俺も高校生で複雑なことは分かりません。ただ、真香さんはまだ高校生です。確かに未だに俺は真香さんのことを許せませんし、ついた嘘は重大だと思います」


「なら、どうしてそんなことを言うのだ」


「俺たちは10年来の幼馴染です。この関係は壊れて欲しくないし、真香さんだけに辛い思いをさせるのは間違ってると思うんです。俺も、ちさきも拓也も少しづつ間違っていた。そう思えるんです」


「真香を救いたいと言うのかね」


「それを決めるのは今後の真香さん次第だと思います。今の成績では医大には進めません。私立の形ばかりの医大を目指すわけじゃありません。真香がもし、国立の医大に合格できるのであれば、の話です」


 少し沈黙の時間があった。電話の向こうで、悩んでいるのがはっきりと分かる。


「分かった。隼人くんがそう言うのであれば、真香を一度だけ許すことにしよう」


「いいのですか?」


「ああ、隼人くんやちさきさんを傷つけることになったためにケジメとも思ったが、わたし自身もそれでいいのか悩んでいた」


「ありがとうございます」


 これで父親の了解を取り付けた。後は真香に言ってやるだけだ。俺はスマホを切って、ちさきを見た。


「大丈夫だよ。真香を救うことができる」


「……良かった」


 俺はすぐにそのことを伝えてあげようと思ったが、俺から電話するのもおかしい。


「ちさき、電話してくれるな」


「うん、分かったよ」


 このことはちさきに委ねた方がいい。ちさきはスマホを取り出すと真香に連絡をした。


「あれ、おかしいな……」


 真香のスマホに何回も電話をかけたが、発信音も鳴らずに切れてしまう。どうやらスマホの電源が切られているようだった。


 ちさきは慌ててLINEを送るが既読にならない。


「どうしよう。繋がらないよ!」


 ちさきの慌てた声が部屋に響き渡った。

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