第46話 喫茶店での四人(隼人視点→真香視点)

(隼人視点)


「拓也から連絡があったよ。真香が会いたがってる」


「うん、良かったね」


「ちさきは、真香が来ても大丈夫? その色々と嘘つかれてたわけだけども……」


「わたしだって、ウソをついたよ。本当に馬鹿なウソを……、おかげで本当に大切な人を失うところだった」


「それは……」


「言い訳はしないよ。全てを思い出した。結局、わたしは逃げてたんだよ。真香ちゃんだけが悪いわけじゃない。わたしがもっと疑っていれば……、いや、そもそも兄妹でも、誰にも渡したく無いと思っていればこんな事は起きなかったんだよ」


 ちさきの手が震えていた。真香をこうしたのは自分のせいだ、と思ってる。俺はちさきの手の上に自分の手を置いた。


「ちさきが責任を感じなくていいんだよ。ちさきは優しかっただけなんだ」


「わたしもそんな優しくなんてないよ」


 俺はゆっくりと首を振る。ちさきが優しくなかったら、こんな事にはならなかったんだよ。


「ほら、真香が来たみたいだよ」


 ウエイトレスのいらっしゃいませ、と言う声と共に拓也が真香を連れて店に入って来た。そのまま俺の前にやって来る。


「座っていいかな?」


 拓也の声に俺は頷く。目の前の真香は泣いていなかった。そうか、俺たちに向き合う決心がついたんだな。


「ごめんなさい、なんて言えたもんじゃ無い事は分かってる。許してください、とも言いません。許されないことをした事は分かってます。ただ、拓也に会って、全ての事実を話すためにここに来ました」


 真香はそう言って拓也の方を見た。


「真香、大丈夫だよ。俺は真香の友達を辞めない」


 拓也は真香に優しく呟く。本当に拓也は優しいイケメンだ。俺はそこまで優しくなんてなれない。だから、ちさきと色々と話しあった。俺にはまだ、真香を許せない俺がいる。


「すみませんでした。ちさきちゃんと隼人が兄妹と言ったことも、お母さんが見たというのも嘘です」


「そうか……、真香はちさきの気持ちを利用したんだね」


 俺はわざと厳しい口調でそう言った。簡単に許せるわけがない。交通事故は不慮だったとしても、半年間もの間、真香は俺を騙し続けたのだ。


「はい、隼人に嫌われたくなかった」


「そのせいで、もっと嫌われるとしても、バレないと思ってたの? 嘘に胸が苦しめられる事はなかったの」


 どうしても厳しい口調になる。俺がどれだけ苦しんだと思うんだよ。ちさきは拓也のことが好きと聞いて絶望した。真相が分かると兄妹と言う越えられない壁を感じた。


「俺たちはさ、みんな……、真香を信じてたんだよ。それを真香は裏切ったんだ」


「隼人、それはわたしも悪いの!」


 隣に座るちさきが俺の強い口調に慌ててそう言った。ちさきは優しいね。でも……。


「ちさきは黙ってて、これは俺のケジメんだよ」


 俺は真香をじっと見た。今までとは違う真香の強い気持ちを感じた。真香はもう泣いてすがる事はしなかった。


「……ごめん、俺は君を許す事はできない!」


 俺はそれだけ言うとちさきの分と自分のお金を置いた。


「ちさき行くよ。話は終わったんだ」


「……うっ、うん。真香ちゃんごめんね」


 ちさきは不安そうな顔をしながら、席を立つ。


 店を出る時に拓也の隼人ごめんな、と言う声が聞こえた。





――――――――


(真香視点)


「ごめんな。俺が甘かったかもしれない」


 拓也はわたしに謝ってくれた。


「そんな事ない。そんな事無いんだよ。隼人はちゃんと聞いてくれた。それだけでいいんだよ」


 隼人がした事は当然のことだ。わたしはそれ以上のことをしてしまった。半年間、贖罪する機会なんていくらでもあった。分かっていたのに言わなかったのだ。


「なあ、真香……どうしたら許されるかな……」


「ごめんね……拓也……拓也もわたしの前からいなくなってもいいんだよ。わたしはそれだけのことをしたのだからね」


「そんな事はできないよ。真香だって傷ついてるの分かるからさ。それに俺が言った通りに謝ってくれた。真香は逃げなかった」


「でも、わたしのせいで拓也と隼人の関係までおかしくなってしまうのは嫌だよ」


「大丈夫だよ。隼人はそんなやつじゃない」


 そうかもしれない。でも、隼人の性格からわたしを許す事ができないことも理解できた。わたしは隼人の心を弄んでしまった。


「わたし、帰るよ。もうひとり謝らないとならない人がいる」


「父親だよな……、なぜ真香はそこまでしたんだよ」


「狂ってたよね……本当にどうしたら取り戻せるかしか考えてなかったよ」


「俺も一緒に行こうか?」


「うううん。ごめんね。これはわたしの問題なんだ。わたしがひとりで謝らないといけない」


 そうだ。これはわたしのケジメだ。わたしは父親の信頼さえ失ってしまった。


「なあ、俺はどんなことがあっても友達だからな」


「ありがとう……、じゃあ行くね」


 わたしは拓也にそう言うと喫茶店を出た。


 店を出る瞬間、拓也から、また連絡するからな、と言う声が聞こえた。


「もう、夜か……」


 高校を卒業したら、あの家を出よう。もう今のわたしに医者になる資格なんてない。




――――――




どうなんでしょうね。


さあて……。

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