第43話 帰宅(隼人視点)

「すみません。駅まで送ってくれて」


「1日早く帰るって聞いて驚いたよ」


「もう一人の幼馴染が暴走して、ちょっと心配だから早く帰ります」


「わたしもLINE見たけどあり得ないよね。頑張ってね、彼氏さん」


 LINEを見た俺は、すぐ優衣さんに車を出してもらうように頼んだ。優衣さんもLINEの内容を見てかなり驚いていた。今の世の中、親が決めても従わないといけない理由はない。それでも、真香が何をするか不安だった。


「じゃあ、ちさき行こうか」


 俺はちさきの肩にそっと手を触れた。松葉杖のちさきの負担にならないように……。


「ここだよ、ちさき」


「ありがとう」


 窓側の席にちさきを座らせた。ちさきは俺の方を見てニッコリと笑う。ちさきの足の具合は随分と良くなってきていた。歩かなければ、数分立つことができるくらいには……。


「わたしもびっくりしたよ。まさか、そこまで追い込まれていたなんて……」


「何故、ここまでしてくるのか俺には理解ができないんだ。俺と拓也で話し合って分かったと思ってた。これで幼馴染の関係に戻れると思ってたんだ」


「わたしね、今思ったんだけど、真香のお母さんが病院で、私たちを見たと言う話も嘘なんじゃないかな?」


「えっ!?」


「だってさ。誰も真香ちゃんのお母さんから、話を聞いてないよね」


 そう言えばそうだ。


「東京医大はわたしと隼人が生まれた病院だよね。当時のカルテを確かめるくらいは出来たと思う」


 確かにそうだ。今まで気づかなかったけれど、真香の父親は俺とちさきの生まれた病院の院長だ。それなら、確かめる方法はあったはずだ。


「確かにそうだね。そうであれば、真香は初めから騙していたってことか」


「言い方は悪いけど、そう思った方がいいかも。真香ちゃんも、きっとここまで上手くいくとは思わなかったのじゃないかな」


 確かに計画は穴だらけだ。ちさきは幼馴染の真香を疑わなかった。拓也でさえ、母親が言ったと信じていたのだ。だから奇跡的に成功した。


「俺、酷いことをしてしまうかもしれない。でも、もう真香を許すことができないよ」


「暴力とかはダメだよ。絶対にね」


「うん、分かってる。とりあえず俺、母さんと話をするよ。ちさきも来てくれるよね」


「もちろん、わたしが隼人の婚約者……、だよ」


「確かにそうだな」


 婚約者と言う言葉にドキッとした。彼女ではなくて婚約者なのだ。


 ちさきと昨日、契りを交わした。ちさきにとっては、関係を持つと言うことは、結婚を約束するのと同義なのだ。


「婚約指輪とかは、まだ渡せてないけど、絶対、幸せにするからさ」


「うん、婚約指輪とかどうだっていい。そんなものなくても信じられる」


「うん、ありがとう」


 俺は新幹線の中で気ばかり焦っていた。今回は、最終的に真香と対峙しなくてはならない。


「焦らないで……、大丈夫だからね」


 ちさきが俺の手に自分の手を重ねる。俺がちさきを見るとゆっくりと頷いた。


「大丈夫だから、ふたりの気持ちが変わらない限り、真香ちゃんは何もできない」


 その言葉を聞くとホッとした気持ちになる。もちろん、今の日本で親が勝手に結婚相手を決めることはできない。


 新幹線は広島から大阪、京都を越えて東京駅に着いた。


 ちさきの身体に負担がかからないように東京駅を降りてから、タクシーに乗り込み、家に向かう。


 俺は自宅の玄関扉を開けると、ちさきを呼んだ。


「おいで……」


「うん!」


 俺たちが家に入ると母親がびっくりした顔で飛び出してくる。


「あら、早かったね。友達の家に明日まで泊まる、と聞いてたから驚いたよ。あら、ちさきちゃんも来てたんだ。いらっしゃい」


 そう、ちさきと広島に行くと伝えてない。止められるのが怖くて、俺は母親に嘘をついたんだ。


「実は俺、母さんに話があるんだ」


「どうしたの? もしかして許嫁の真香ちゃんのこと?」


「はあ!?」


「いや、だってあなたたち付き合ってるんでしょ。真香ちゃんのお父様と真香ちゃんが昨日一緒にやって来て、将来病院を継いで欲しいとお父さんに話してたわよ。まあ、許嫁みたいなもんだよね」


 真香はどこまで俺を追いつめようとするつもりなんだ。


「母さん、悪いけど、真香とは別れたんだ」


「えっ、なんで? あなた昨日まで真香ちゃんのこと大好きだったんでしょ。だから、てっきり……将来の約束とかしているのかと思ってね」


「いや、それは嘘なんだ。実は俺、ちさきの実家に行って来た」


「どう言うこと。立ち話もなんだし、とりあえず座って話そうか?」


 母親はちさきが松葉杖なのに気がついて、慌てて居間に案内された。


「ちさきちゃんもコーヒーだよね」


「はい、ありがとうございます」


「それにしても、久しぶりだよね。ちさきちゃんが部屋に来るの」


 半年も寝たきりだったんだ。そりゃ久しぶりにもなるさ。俺とちさきの前にコーヒーを置いて母親は俺の前に座った。


「で、どう言うことなの? 真香ちゃんと別れたって……」


 人によっては簡単に付き合ったり別れたりするカップルもいる。それは俺には当てはまらない。それを知っていたから、母親は許嫁の話を持ってきた真香の父親の話を信じたのだろう。


「実はさ……」


 俺は一息つくと、事の真相を話し始めた。



――――――




さあ、戻ってきましたよ



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