第42話 長い夜(隼人視点)

 俺とちさきは食事と風呂を済ませてベッドに横になった。あそこまで言われたら意識しないわけがない。


「ねえ、起きてる?」


 隣に寝ているちさきの声が聞こえる。俺の心臓が大きく跳ねた。


「あっ、ああ……!!」


「隼人は、わたしのどんなとこが好きかな?」


「そうだな、可愛くて、色んなことに一生懸命で、一本筋が通った性格、そして幼馴染だから、なんでも分かってることかな」


 本当のところ半年前、俺はちさきの気持ちがわからなかった、だが俺たちはそれを乗り越えたんだ。


「わたしは、全部!」


「なんだよ、それ」


 ちさきが俺の指に自分の指を重ねた。そのまま、ぎゅっと握る。


「全部なんだよ。隼人はわたしの人生の全て……、物心ついた時には、隼人がいて、ずっと一緒にいたかった。それが好きと分かったのは少し後だけどね。なんか重いかな?」


「いや、そんなことないよ」


「なら、良かった」


 ちさきは自分の言いたいことが言えたのか、頬を赤らめていたけれど、嬉しそうだった。


「そう言えば優衣さん、いつものように入って来そうだよね。大丈夫かな?」


「大丈夫だよ。お姉ちゃん反省してた。わたし、性格的に雑だから、ごめんね。応援してるからねって!」


 おいおい、無茶苦茶、焚き付けられてないか……。


「だから、今日は大丈夫だよ」


 俺は唾を飲み込む。ゴクリという音が鳴った。


「あはははっ、緊張してるよね」


「そりゃな、……意識してしまうよな」


 ちさきが俺の身体に抱きついてきた。柔らかい匂いが鼻をくすぐる。いつも思うけど、同じ石鹸を使って、シャンプーをしてるはずなのに、なぜこんなにいい匂いがするんだろう。


「大丈夫、ゆっくり、……ゆっくりで良いよ。今日は誰も来ないから……」


 そうだ。きっと学校が始まれば、ふたりで寝る機会なんて、あるわけがない。友達から恋人への一線が関係を持つことだとすれば、やはりきちんとしておきたい。


「もしかしたら、ちさきにとっては痛いかもしれないよ」


「うん、覚悟はできてる……、あのさ……もし痛い顔してもやめないで」


「えっ!?」


「わたしは隼人と違って、旅行前から兄妹じゃないと知ってたでしょう。だからね、隼人が一緒に来てくれると聞いた時、覚悟した」


 部屋は暗いが小さい電球がついているので、ちさきがどんな顔をしてるのかは、分かる。だからこそ、ちさきの真剣さは分かった。でも、俺は……。


 男女の営みをすれば当然のように結果をもたらす。俺たちは、まだその生命を育てることができない。いや、正確には不可能ではないけど、それは両親に大きな迷惑をかけてしまう。


「俺さ、この状況で大変申し訳ないんだけどさ。その、用意してないんだよね」


 このタイミングで、言うことは恥ずかしいことだ。でも、行為を始めたら止めることはできなくなる。今しか言えなかった。


「分かってるよ。大丈夫、これのことだよね」


「えっ!? なんで持ってるの?」


「隼人くん、気づいてなかった。お姉ちゃんが散々言ってたよね」


 そう言えば、お守りがとうとか言ってたな。


「あっ!? コンビニに行ってたって……」


「うん、わたしもそこまで頭が回ってなかったよ。さすがにわたし一人で買えと言われても無理だよ」


 流石だなあ、全てお膳立てされてたんじゃないか。まあ、俺が勢いから、ちさきを抱いてしまって、命を宿してしまったら、それは不幸なことだ。本来なら子供は喜ばれて誕生すべきだ。


 生まれて欲しくないとは、絶対思いたくない。それは、きっとちさきも同じだろう。本当に好き同士で誕生した生命いのちなんだ。


 嫌がる理由なんて何もない。でも生まれたら、きっと困ってしまう。それが分かってるからこそ、渡されたものなんだ。


「あはははっ、本当に優衣さんには敵わないや」


「だよね。お姉ちゃんがわたしを本当に大事に思ってくれてると言うのは本当だよ。だから、こそ色々言ってくれてた。まあ、言いすぎたこともある。これは本人が一番反省してるけどね」


「だよなあ、でも、本当にいいお姉ちゃんだね」


「今日からは、わたしだけじゃなくて、隼人のお姉ちゃんにもなって欲しいな。もちろん、結婚するのは随分先のことだろうけどね」


「うん、確かに優衣さんは俺にとってもお姉さんだよ」


 俺はそのまま、ちさきの唇に近づいた。そのまま、そっと唇に軽く触れるキス。


 ちさきの青い瞳が光に揺れている。俺はそのまま、唇を重ねた。


「うっ、うんっ……」


 舌と舌を合わせる。そのまま俺の舌とちさきの舌がもつれあう。きっとこれが大人のキスなんだね。


 唇を離すとスーッと唾液が糸のように伸びて切れた。


「ちさき、……触るよ」


 俺はちさきのパジャマに手を入れた。そのまま、小高い丘をゆっくりと上がっていく。ちさきはブラジャーのホックを外して、丘の頂きの誘う。俺はその尖った部分を摘んだ。


「いやっ、あっ……」


 別に嫌じゃないことは分かってる。ちさきの顔を見ると頬を赤らめて、こちらをじっと見ていた。


 そのまま、身体を重ねる。時折聞こえる喘ぎ声が俺の下腹部を刺激した。


「もう大丈夫だよ……その……」


「うん、分かった」


 俺はその日、大人の階段を駆けのぼった。




――――――――




「おっはよーっ、うわっ」


 優衣さんが入って来て驚いた声を出す。そう言えば昨日、行為の後、ちさきにこのまま抱きあっていたいと言われてちさきと裸で抱き合ったまま寝たのだ。


「ちょっとお姉ちゃん、入ってくる時はノックしてって!」


 ちさきが顔を真っ赤にして慌てて布団を被った。


「おめでとう」


「うっ、うん……ありがとう」


「服着たら、シーツ貸してよ、さすがに家族全員に知られたくないでしょ」


 少し焦った声で優衣さんが俺たちに言う。なんでと思ってシーツを見たら、血がべっとりとついていた。


 確かにこれは色々とまずい。この時ばかりは優衣さんが来てくれてよかった、と正直思った。


 その時、俺のスマホが鳴った。俺は慌ててスマホを手に取りロックを解除する。


「嘘だろ、おい!!」


(真香ちゃんっていい娘ね。隼人が出かけてる間に、ご挨拶に来たんだけど、わたしびっくりしたわよ。将来を誓い合った仲とか……。しかも驚いたわよ。お父さん、東京病院の院長だって、隼人、玉の輿じゃないの!!)


 声なんて聞かなくてもLINEから、いかに母親が興奮してるかがよく分かった。





――――――




 多分このくらいがカクヨム様の限界と思われます。よろしくお願いします。


 真香ちゃん、本当に食えませんね。


 さてどうなることやら。



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