第37話 おじいちゃんの家(隼人視点)

「ちさき、よく来たな。本当に元気になってよかった。おじいちゃん、本当に本当に心配で心配で……」


 ちさきの祖父の家に着いた時に、おじいちゃんが、扉を開けてちさきを見た。喜びと同時に湧き起こる涙にまるで、テレビドラマでも見ているような気になった。


「おじいちゃん、心配かけてごめんなさい!」


「本当に、本当に良かった」


 長い間、眠りから醒めなかったちさき。おじいちゃんは何度となく、広島からお見舞いに来ていた。俺は少し挨拶をするくらいだったが、本当に辛そうだった。あの時のおじいちゃんはちさきを何も言わず、じっと見ているだけだった。


「ちさき、もう目を覚まさないと思った。本当に、良かったな」


「はい……ありがとう」


 ちさきの広島の実家への訪問は、おじいちゃんと孫との感動の再会から始まった。見てるだけで、泣きたくなる。そうだ、半年間とても長かった……、俺もちさきがこんなに元気になるなんて夢にも思えなかった。


「ほらほら、おじいちゃん、感動の再会はいいけど、玄関でやられたらみんな入れないって……」


「おお、そうじゃった。ちさきの彼氏もいるからな。ほら、入って入って……」


「えと、彼氏じゃ……」


「いや、ちさきの彼氏でいいんだよ」


 俺はちさきの手を握った。もう、中途半端な関係じゃ駄目だ。確かにまだ、戸籍を見ていない。もしかしたら、兄妹という可能性もあるにはある。それでも……。俺は一歩前にでる。そう、優衣さんの言うとおりだ。俺がしっかりしない駄目だ。


「病院で何度かお会いしましたが、挨拶もほとんどできませんでした。俺はこちらのちさきさんとお付き合いしている佐伯隼人と言います」


「そうじゃ、隼人くんだ。ちさきの幼馴染のな」


「みなさん知っておられるんですか?」


「そりゃねえ」


 優衣さんが悪戯ぼく笑った。


「お姉ちゃん、それ以上言ったら怒るよ!」


「ええええっ、いいじゃん。彼氏なんだろ。彼氏にも、全部知ってもらった方がいいって」


「恥ずかしいよ。それに、わたし馬鹿みたいだよ」


「そんなことないって、ちさきは可愛い」


「そんなこと言われても恥ずかしいものは、恥ずかしいです」


「まあ、立ち話もなんだから、入って入って……」


 俺は居間に通された。ちさきのおじいちゃん、おばあちゃん、ちさきのお母さんの妹に、その旦那さん。従姉妹のお姉さんに、東京から一緒に来たおばあちゃん、そして俺とちさきの八人だ。


「ほらほら、座って座って……」


 俺たちは椅子に座って、コーヒーを飲んだ。ちさきのコーヒー好きは俺のせいというわけでもないらしい。


「隼人くんもコーヒー好きなんだよね」


「はい、大好きですね」


「やっぱり、ちさきと同じでブラック派かな?」


「そうですね。甘いのは苦手なので……」


「じゃあ、相性抜群だね」


 ちさきのおばさんは手をパチンと叩いて喜んだ。


「で、どっちから告白したんじゃ?」


「えっ……いえ……」


 まだ告白してないなんて言える雰囲気じゃない。すでに完全に彼氏認定されてた。でも、嘘は言えない。


「まだ、……です」


「はい!? お付き合いしてるんじゃろ?」


「いえ、その少し前まで別の女性と交際してました。数日前にお互いの気持ちを確かめ合ったというか……」


「はあ!? 別の女性と交際とは、それは聞き捨てならんの」


 おじいちゃんは本当に怒ってるようだった。ちさきのここでの会話ってどうなってるの?


「あっ、違うの。隼人くんは騙されてただけなんだよ」


 ここまで来ると兄妹と思ってたと言ってしまった方がいいのかもしれない。


 ここまで周りが彼氏認定してるのに、実の兄妹ということはないだろう。


 流石に他の女の子と付き合ってたと言ったままでは、周りの俺に対する評価が悪過ぎる。俺は事の次第をややこしくならないように簡潔に伝えた。


「ほお、ちさきと隼人くんは実の兄妹なんか」


「ちさきの友達の母親が病院で見たそうです」


「知らなかったのう」


「そうだねえ、初耳だよ。なんで言ってくれなかったんだろう」


 真剣にそこにいるみんなが、確かに同じ日に生まれるなんて不思議だよな、と真剣に悩み始めた。


 いや、本当に何も知らないの? ちさきの母親が両親にまで秘密にしておくわけないよね。


「でも、その可能性は高いかもな」


 おじいちゃんが腕を組んで、うんうんと一人納得していた。


「隼人は心配?」


 優衣さんが、悪戯ぽい笑顔でニヤリと笑う。


「明日、役所に連れて行ってあげるよ。戸籍取れば分かるよね」


「はい、お願いします!」


 おじいちゃんも、それがいい、と言ったきり、話を変えてしまった。


 えっ、どういうことなんだ? もしかして本当に知らないの?


「ちさき、ここの人たち本当に知らないの?」


「さあ、わかんない……、アバウトな家族だからね」


「アバウトすぎだろ!」


「あはは、でもさ。恋には障害があった方がいいって」


 優衣さんが、俺に追い打ちをかけてくる。


「大丈夫だよ。もし、兄妹だったら責任をもって、隼人くんもらってあげるからね。うん、遠距離恋愛になるから、先にやることやっとこうか。さっそく今日にでも……」


「駄目!!」


 ちさきが涙目になりながら、俺との間に割って入る。


「冗談だって、ちさきの気持ちは毎年聞いてるから、分かってるって」


「えっ、気持ちって……」


「いいのいいの、隼人くんは何も知らなくてもいいの!」


 ちさきが手を左右に振って、必死に聞かないでと涙目で言ってくる。ちさきは、来るたびに何を言ってるんだろう。知りたいような、それでいて、ちさきのため、気にしない方がいいような。


「それにしても、ちさきも大きくなったねえ」


 優衣さんがちさきの後ろから抱きついて胸を鷲掴みにする。


「ちょっとお姉ちゃん!」


「大丈夫だって、隼人くんだっておっぱい大きい娘がいいよね」


「いや、その……まあ」


「ほら、揉んだら大きくなるから、ほら」


「ちょっと、恥ずかしいから、やめて!」


 なんか凄い家族だなあ、と俺は圧倒されてしまっていた。




――――――――




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