第35話 新幹線の中で(隼人視点)

「ちはやおばあちゃん、久しぶり」


「この前見た時は、こんなに小さなお姫様だったのにねえ。いつのまにか本当に可愛らしいお嬢様になったねえ」


「そんなことないですよ、本当……わたしなんか……」


「そんなこと言ったら、殆どの女子から嫉妬されるよ。隼人もそう思うだろ!」


「……えと、はあ」


「なんだよ、その煮え切らない態度はね。何か言いたいことがあるのかね!」


 言いたいことは山ほどあった。キスを邪魔され、場所まで入れ替えさせられたのだ。どうして俺が通路を挟んだ席にボッチで座らされなきゃならんのだ。


「いえ、別にないですよ」


 とは言うもののお年寄りは、大切にだ。


「ちなみに帰りの新幹線はどの線を予約してるのかね?」


 ちょっと待った! 帰りも同じ新幹線で帰るつもりなのか。


「何か言いたいことあるのかい」


「いえ、全然!!」


 俺は慌てて両手を左右に振る。毎年、墓参りに来ないのって、ただのサボリじゃないのか。


「で、ちさきは帰り、どの新幹線に乗るのかい?」


「えと、おばあちゃん。わたしはね……」


 頼む気づいてくれ。帰りも、おばあちゃんと一緒の新幹線に乗りたくない。


「おっ、偶然だねえ。帰りも同じ新幹線か」


 ちさきが手に持っていた帰りの乗車券をヒョイと取って見る。このままじゃ、旅行中ちさきとの関係が全く進展しない可能性だってある。


「おばあちゃんも一緒なんだ。じゃあ、帰りも三人できっと楽しいね」


「そ、そうだな」


「どうしたんだ若いくせにそんな疲れた声出して……」


 わざとなのかおばあちゃんが不思議そうな顔をした。後ろから声がかかるまでは、ちさきとずっとイチャイチャできると思っていた。なのに、こんな形で邪魔されるなんて……。


 はっ、もしかして……、俺たちふたりが兄妹だから、母親はあえて監視役につけたんじゃないか。それなら、全てが納得できる。ちさきにはあくまで親心で送り出して、監視をつけて仲良くならないようにする。十分ある話だ。


「ちょっと、疲れたので寝てます……」


「ええっ、隼人。そんなに疲れてたの、本当にごめん」


「いや、ちさきは関係ないから……」


「そんなことないよ。ごめんね。わたしの話に付き合ってもらって……」


「それは関係ない。大丈夫だよ」


 ちさきとイチャイチャできるなら、徹夜明けでも喜んで話すよ。むしろ、ハイになって別のところが元気になってしまったりしてさ。


「本当に大丈夫? 熱とかないよね」


「だから、なんともないって」


「若いの病は気からと言う。元気だと思えば元気になるし、辛いと思えば辛いんじゃ」


 だから、誰のせいでこうなってると思ってるんだよ。


「でも、隼人は繊細なところあるからね。もし、熱とか出て直らないなら、無理しないで帰ってもいいんだからね」


 ちさきは本当に心配そうな顔をしている。二人きりじゃないから、辛いと本音を言いたい。


 それにしても、おばあちゃんが来た理由は本当に監視役じゃないのか。俺達を何故邪魔したのか、その理由が知りたくて、おばあちゃんをじっと見つめた。


「隼人、ダメじゃぞ。わしを好きになったらな。わしは死んだ爺さん一筋だからのう」


「いやいや、滅相もありません」


 本気で爺さんのところに送ってやろうか。一瞬、脳裏に殺意が浮かんだが、思わず頭を左右に振った。いかんいかん、お年寄り相手に何を嫉妬してるんだよ。


「どうしたの?」


「ちょっと楽になった」


「そう、わたしに気をつかって無理をしちゃだめだよ」


「うん、無理はしてない」


「なら、良かった」


 それにしても、このままでは、ちさきと二人きりになれないんじゃないか。


 せっかくのちさきとの旅行なのに何もないまま家に帰りたくない。どうにか旅行中にふたりきりで過ごす時間を見つけないと。


「どうした隼人? 何か良からぬことを考えてないよな」


「はははっ、滅相もありません」


 おばあちゃんに睨まれたような気がする。簡単にちさきとふたりきりにさせてくれそうにないな。


 やはり、キスの時、故意で邪魔をしたのか。そういや、やけにタイミングが良かった。


 俺は目を瞑り眠ったふりをした。ちさきは俺の気持ちに気づかないのか、ずっとおばあちゃんと楽しそうに話している。


 ちさきも俺とふたりきりじゃない方が良かったのか。真香を振って、これからはちさき一筋と思った矢先だったから、出鼻を挫かれた気がする。


 新幹線は京都に着いた。次は新大阪、この二駅で乗客の大半が入れ替わる。広島までは後1時間半だ。


「ねえ、お弁当食べようか」


 そういや、ちさきの母親が作ってくれた弁当があった。


 ちさきは俺に弁当の一つを取って手渡してくれた。


「ありがとうな。大丈夫か?」


「うん、このくらいなら、松葉杖使わなくても大丈夫よ」


 そうか良かった。ちさきは骨には異常がないので、少しくらいならば歩ける。


「へえ、弁当か……、そういやお腹が減ったのう」


「おばあちゃん、わたしの食べます?」


「いや、わしは隼人からもらうよ」


 えっ、本気で俺嫌われてる? どうして、ちさきじゃなくて俺のを取ろうとするんだよ。


「そんな悪いよ。わたしの食べていいからね」


「いや、ちさきは身体を治さないと駄目だからな。おばあちゃんどれが食べたい?」


 もうやけだ。本当ならば、ちさきとイチャイチャしながら、お互いの弁当を交換して食べたい。もちろん中身は同じだが……。


 でも、それができないなら、何を食べてもらっても構わない。もちろん、お腹は空いてるが、ちさきから取るのなら、俺のを食べてもらおう。


「悪いな。じゃあ、そこのウインナーと卵焼きが食べたいかのう」


 俺は弁当の蓋を皿にしておばあちゃんに手渡した。


「おおっ、流石にちさきの母親じゃ。昔から本当に料理がうまいのう」


 おばあちゃんの食欲は、見た目ほどでは無かった。ウインナーと卵焼き一つずつゆっくり食べた。


「わしも眠くなったから寝るわ。隼人、場所を変わってくれないか」


「ああ……」


 おばあちゃんは、俺と席を変わるとそのまま寝てしまった。


「隼人、ごめんね。おばあちゃんって昔からあーなのよ」


「えっ!?」


「本当に一人で突っ走って周りを巻き込んで、疲れたら寝てしまう。全く気を使わないように見えるんだけどね」


 ちさきは、俺の耳に自分の口を近づけた。


「本当はね。人一倍気を使ってるんだよ。今だってやりすぎた、と思ったから変わってくれたんだよ」


「そうなのか?」


「あははは、邪魔されたと思った?」


「いや、まあ……うん、ごめん」


「本当は凄く寂しがりやで、それでいて本当は思いやりのある人なんだよ」


 そのまま、ちさきは俺の肩に自分の頭を乗せた。


「心配ないよ。この旅行、わたしも楽しみにしてるからね」


「えと、その……うん、俺も楽しみだ」


 ちさきがどう言う意味で楽しみと言ったのか分からない。でも、その言葉に俺はドキドキが止まらなかった。




――――――――




いつも応援ありがとうございます。



もうそろそろ終盤じゃない?


星そろそろつけてもいいのですよ?


よろしくお願いします。

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