第30話 テスト(隼人視点→ちさき視点)

(隼人視点)


 帰ってからも、ずっとちさきとふたりきりになる方法を考えていた。真香は1日中ちさきの側にいて、俺を監視し続けた。俺はずっと表面上は平静を装っているがそれも限界に達してくる。


 真香が今まで俺のためにやってくれていたと思っていたことが、拓也に言われてみると、ちさきと俺を引き離そうとしてるように見えた。


 明日もこの調子で行くと俺よりも速く病室に行き、俺を監視し続けるだろう。


 このままでは二週間何もできない。これでは駄目だ。


 なんとか、ちさきと直接会って話さないと駄目だ。話せば恐らくちさきなら、分かってくれる。


 生まれて今までずっと一緒だった、ちさきとの距離が今凄く遠い。


 LINEで話そうか。だが、真香に相談されたら、逆効果になる。場合によっては、ちさきを奈落の底に落としてしまう可能性すらある。


 ちさきの母親に相談して、ちさきに話してもらおうか。いや、それも駄目だ。これ以上、真香の本質を知る人間を増やしたくはない。この方法は、真香の耳に入る可能性が高まってしまう。


 もう、これしかない。これも絶対ではない。でも、見つかる可能性は低い。


 俺は昨日まで教えた範囲のテストをふたり分作成した。


 後はちさきにテストを解いてもらうだけだ。





――――――――――

(ちさき視点)




「じゃあ今日、授業のまとめテストをするならな」


「えーっ、テストやるの?」


 真香ちゃんが不満の声をあげた。進級テストのない真香ちゃんはわたしに付き合ってくれてるだけなのだ。


「必要なのは、わたしだけだから真香ちゃんはテストやらなくてもいいんだよ」


 わたしは真香ちゃんに向き直ってニッコリと笑った。うまく笑えてるだろうか。自信はなかった。


「そんなわけには行かないでしょ。わたしも受けるからね」


「まあ、これが本番じゃないからさ。軽い気持ちで取り組んでいいから。逆に今回の問題で間違えても本番で間違わなければいいんだよ」


 隼人はわたしに気を遣って、そう言ってくれる。隼人、わたしは自信あるからね。


「大丈夫だよ」


「ちさきちゃん、賢すぎるよ。わたし無理……」


 思わず笑みが浮かんでしまう。


「わっ、ちさきちゃん笑った。なに、わたしのこと馬鹿にしてるの?」


「ちがっ、違うよ。馬鹿になんかしてない!」


 馬鹿になんかするわけがない。


「事故で半年も寝たきりになって、死んでたっておかしくないのに、奇跡的に助かって、こんな風に三人で勉強してるなんて、幸せだなぁって思っただけだよ」


 それを聞いた隼人が慌てて目を逸らした。そうだ、わたしだけじゃない。隼人も大変だったんだね。


「あっ、隼人泣いてるの!」


 真香ちゃんが追い討ちをかける。言わなくてもいいのになあ。わたしは、そんな隼人が大好きだ。でも、このことは口に出してはいけない。言ってしまえば、真香ちゃんを傷つけてしまう。


「うるせえよ。ちさきの話に少し感動しただけだ」


 暫くすると看護師がお昼ご飯を配膳しに病室に入って来た。


「じゃあ、またリハビリ終わったら来るからね」


「リハビリ頑張れよ!」


 真香ちゃんと隼人はそう言って帰って行った。ふたりともわたしのために大切な時間を割いてくれている。本当にありがたい。





――――――――




 わたしがリハビリから戻るとふたりが待っていた。リハビリも順調だったし、テストも頑張るぞ。


 わたしと真香ちゃんにテストが配られる。


 うん、これなら大丈夫。授業の復習は欠かさなかった。出た問題は少し応用問題になっているが、これならば、難しくない。


 最後が択一問題だ。同じ答えが何個か入るらしい。問題数が多いから、時間配分に気をつけないといけない。


「もう、こんな難しい問題分からない!」


 真香ちゃんは、まだ三割くらいしか埋まってないようだ。


「まあ、少し難しいかもしれないから、真香はあまり落ち込むなよ」


「まだ、終わってないから、頑張るよ」


 わたしはかなりの高得点が期待できそうだ。恋に遊びとやることがたくさんある真香ちゃんと違って、わたしは自習とリハビリしかすることがなかった。わたしは、解けて当たり前なのだ。


 択一問題を埋めていく。難しかったがなんとか最後まで埋まった。やった終わったよ。まだ時間が五分ある。見直しをしようと思っていると、隼人が小声でわたしに呟いた。


「択一、できたら、声に出さずに前から読んでよ」


 わたしは択一を前から読んでみる。


 ヨルナナジオクジヨウデマツ。


「えっ……」


 真香ちゃんは問題を解いているから気がついていない。隼人をじっとみると唇の前で人差し指を立てた。話すな、ということなのだろう。どう言うことなの。真香ちゃんと言う彼女がいながら、わたしに……。


 わたしは真香ちゃんをチラッと見た。罪悪感から、言ってしまおうか迷った。もう一度、隼人の方を見る。


 隼人の表情は真剣そのものだ。何か理由があるのだろう。


「……分かった」


 その言葉を聞いて、真香ちゃんがこちらを見る。


「なにかあったの?」


「なんでもないよ。真香ちゃんも頑張れって思っただけだよ」


「そう、でもこの問題本当に難しいよ。誰だよ、こんな難しい問題考えたの」


 わたしは罪悪感から、そっと問題を裏に向けた。


「もういいのか? いいなら回収するけども」


「うん、大丈夫……」


 その後、隼人が採点をしてくれた。真香ちゃんは三割強。わたしは九割強が正解だったそうだ。


 それにしても、わたしは悪い女だ。隼人とは兄妹で、真香ちゃんの彼氏なのだ。なのに、わたしはその男の誘いを受けようと思っている。


 何があっても後悔はしないよ。やはり、どうしても隼人を好きな気持ちは変わりそうにない。





――――――――




隼人はちさきに話せそうですね。


さて次回はどうなるんでしょうか。


こちらちさきちゃんのイメージイラストになります。


今後ともよろしくお願いします。



https://kakuyomu.jp/users/rakuen3/news/16817330663799452142

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