第28話 ちさきの決断(ちさき視点)
「じゃあ、わたし、そろそろ行くね。また、リハビリ終わったくらいに戻るから……」
真香ちゃんは、そう言うと昼ごはんを食べに帰って行った。
真香ちゃんが帰って、すぐに看護師がお昼ご飯を配膳しにやってくる。今日のご飯は筑前煮、シャケ、唐揚げが少しとご飯に豚汁だった。
「リハビリ頑張ってるから、後2週間くらいで、退院できるようだよ」
「本当ですか? やった!」
看護師の言葉に思わずガッツポーズをしてしまう。しばらく松葉杖生活になりそうだけれども、予定より早く退院できそうだ。
わたしはご飯を一口食べた。ベッドに寝ている時間が長いため、あまりお腹は空いていないが、身体を回復させるために、頑張って食べる。
スマホのロックを解除して、隼人のスマホの下四桁を入れ日記帳を開けた。懐かしいな。ぼんやりとだが覚えている。わたしは毎日日記を欠かさない性格だったよ。
日記はちょうど半年前で終わっていた。最後の日記は真香ちゃんに映画館を勧めた。どんな映画を見に行くのだろうか、と書かれていた。
隼人はこの日、本能寺の真実を見に行ったのだ。もっとロマンチックな映画もあっただろうに、ぶれないなあ。
そこから日記を一月と少し前まで戻ってみる。この日、真香ちゃんから隼人と兄妹だと告げられたのだ。
日記には、今日真香ちゃんから隼人と兄妹だと告げられた、とだけ書かれていた。
それまでの日記は日常のことが事細かに書かれていたのだが、この日はこれしか書かれてなかった。自分のことながら、余程ショックだったのだろう。この日を境に両親に聞くべきか、聞かない方がいいのか、もし聞くならばどう話せばいいのか、とわたしが葛藤してるのが分かる。
何度かそれとなく聞いてみるが、はぐらかされてるのか、それとも兄妹じゃないのか分からなかったようだ。
それから一月。わたしの気持ちはぐるぐると空回りしていた。
そのちょうど一月後に真香ちゃんから、隼人が好きだと告白される。その日の日記にわたしはハッとした。
真香ちゃんから隼人が好きと告白された。一月前、わたしたちは兄妹だと言われたちょうど一月後だ。考えてはいけない事だけど……。
日記はここで切れていた。この後、わたしは何を書きたかったのだろう。
人を疑ってはいけない。いけないと両親からも教えられてきた。
「ねえ、ちさき、来たよ……」
「お母さん、いらっしゃい」
「娘のお見舞いにいらっしゃいは変よ」
「それもそうか」
母親が服とか下着を持ってやってきた。忙しいのに、毎日必ず来てくれる。
「ちさき、2週間後に退院できるんだって、おめでとう」
「やった!」
寝ていた期間の記憶がないため、闘病生活はそんなに長く感じないが、身体の状態からどれだけ寝ていたのかわかる。母親にはかなり無理をさせてしまっただろう。家に帰ったら親孝行しないとね。
「でね、お盆にいつも広島帰ってるでしょ。今年は北海道のお父さんのところに行く予定だったから行く予定はなかったんだけどね。広島のおじいちゃんが、ちさきだけでも来れないかって……、リハビリ後すぐになるし、お母さん断ろうと思ってるんだけどね」
えっ、広島に帰れば、あれだけ不可能と思われた戸籍を取ることができる。お盆なら市役所は開いているのだ。わたしの胸はドクンと大きく高鳴った。
「やはり、リハビリすぐだから難しいよね」
これは千載一遇のチャンスだ。広島に行けば今までモヤモヤしていたことが解決する。
「わたし、広島に行くよ!」
思わず身を乗り出してしまう。
「えっ!?」
母親は凄く驚いていた。
「でも、大丈夫? 松葉杖で行くのは大変よ」
もう、このわだかまりを続けるのは嫌なんだ。
「大丈夫。行けるよ!」
「そう、でも心配だわ。誰か一緒に行ってくれる人探しとこうか」
母親は困った顔をした。言い出したのは母親だったのだが、わたしが断ること前提だったのだろう。
「ありがとう。わたしも聞いてみるよ」
「そうね。お友達とか、同年代の子の方がいいよね」
「うん、色々当たってみるよ」
わたしがニッコリと笑うと、母親も笑った。
「リハビリにもなるよね。別にどこが悪いわけでもないんだし……」
「そうだよ、わたし、どこも悪くないよ」
「分かった。じゃあ、叔母さんたちもきっと喜ぶと思うわ。連絡しとくね」
「うん、美味しいもの楽しみにしてるって言っといてね」
「分かったわよ。じゃあ、また、明日来るからね」
母親は手を振って笑った。
「ちさきちゃん、リハビリ行こうか」
入れ替わるように看護師が病室に入ってくる。
「はい、頑張ります!」
広島へ行けると分かるとリハビリにも力が入ってくる。どんな結果になろうとも、頑張ろう、と思った。
――――――――――
「ただいま」
「お帰りなさい」
リハビリを終えて病室に戻ると真香ちゃんが待ってくれていた。
「あのね、今年、広島に行くことになったんだ」
あまりの嬉しさに一緒に喜んでもらおうと真香ちゃんに話した。
「……そう、……そうなんだ」
でも、真香ちゃんは凄く複雑な顔をした。その表情は一瞬だったけども、凄く違和感があった。
「良かったね。これで全てがわかるよね」
真香ちゃんはそう言ってニッコリと笑う。
「でも、大丈夫? 松葉杖で広島旅行とかご両親がいても大変だよ」
「いえ、わたし一人なんだよ」
「そうなの? ご両親は?」
「父方の両親のところに行くことが前から決まってたの。さすがに飛行機は無理だからと、わたしが行くのは断ってたらしいんだけどね」
「そうなんだ。なら、わたし一緒に行ってあげるよ」
「えっ、嘘」
真香は迷いもなく、そう言った。お盆なら色々予定もあるだろうに大丈夫なのだろうか。
「そんなの悪いよ」
「わたしたち、幼馴染だよ。それとこのことは隼人くんには秘密にしておこうよ」
「えっ? なぜ?」
「だって、それでもしも、もしもだよ。兄妹じゃなかったら、ちさきちゃんどうするの?」
そこまで考えてなかった。わたしはどうしたいのだろうか。
「わたしと隼人はもう半年も付き合ってるんだよ。キス……だってしたし、それにね。……初めてもあげたし……」
真香ちゃんは、わたしをじっと見た。その目は涙に濡れていた。そうだったんだ。ふたりはそんな関係になっていたんだ。わたしは真香ちゃんの両手を握った。
「大丈夫。何も変わらないよ。そんなこと知らなかった、ごめんね」
「ううん、気にしてないからね」
わたしは酷いことを言ってしまった。半年の間に真香ちゃんは隼人と関係を持ったんだね。それじゃあ、広島に行く必要なんて……。でも、それでも行きたいと思った。
「無理じゃなかったら、広島への同行よろしくお願いします」
「うん、分かった」
真香ちゃんはそう言ってニッコリと笑った。
――――――――
なんか雲行き怪しいですね
隼人が間に合うと良いのですがね
星いただけると、隼人が頑張ります(嘘
どちらにせよ応援よろしくお願いします
いつも、読んでいただきありがとうございます
https://kakuyomu.jp/users/rakuen3/news/16817330663799452142
ちさきちゃんイラストです。
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