第26話 電話(拓也視点)
「なあ母さん、ちょっといいかな?」
俺は真香が喫茶店から出て行ったのを確認して、母親に声をかけた。本当は一緒に帰ろうとしたところを止めたのだ。女性店員さんが来たので、もう一杯コーヒーを注文した。
「いいけど……。それより、あなたが女の子連れてくるなんて本当に驚いたわよ」
「腐れ縁なんだよ」
「そう言えば小さい時に数回来てたっけ。今でも続いてたんだね」
「まあな」
「なら、もっと連れて来なさいよ」
「いや、それは……、まあそれはさておきだ」
「なんか誤魔化したわね……」
この話に乗ると後が面倒だ。俺はこの話は無視することに決めた。そんなことより重要なのは真香の今後の動きだ。母親は恐らく、ちさきのリハビリ回復を待って、三人で話せる機会を設けようと考えているのだろう。それではあまりにも遅すぎる。
「真香のことだけど、恐らく明日病院にちさきを訪ねて来て、自分に有利になるように話を進めると思う」
「でも、本人に話すなら、それで良くない?」
「少しも良くないよ。どうせ、ちさきを抱き込もうとする魂胆だよ」
「ふうん、確かにそうかもね」
「珍しいな、肯定するなんてさ」
「まあね。拓也が散々言うから、じっと見てたけど泣き真似したり、本当に演技が上手い娘よね」
「だろ。だから俺は、隼人に直接話そうと思うんだよ」
俺はちさきが記憶喪失になった今、ちさきだけでなく隼人にも話して、2人で話をしてもらう機会を持つべきだとずっと思ってきた。
「それ、でも……真香ちゃん怒らないかな」
「だから、隼人には真香にしばらく内緒にしてもらう。あくまでこれはちさきと話し合ってもらうことが目的なんだ」
「なるほどねえ。でもあの娘のことだから、ちさきちゃんに二人で会わないで欲しいとか言ってないかな?」
「多分言ってると思う。だから、隼人にはそのことも話す。今回、重要なのは、ふたりの今後だからな。真香と今後も付き合っていくのか、一度、全てをリセットするのか。それをちさきと二人で考えるべきなんだ」
「なるほどねえ」
「明日、隼人を呼んでファミレスで話そうと思う」
「じゃあ、わたしは聞かなかったことにしようかな。今後は拓也に任せるよ。もっともわたしは真香ちゃんが可哀想と思って動くつもりだったけど、それならわたしが動く理由がないもの」
「そうしてくれると、ありがたい」
「拓也は本当に大きくなったわね。友達のこと考えられるようになるなんてね。でもね……」
母親は俺の顔をじっと見る。
「彼女作らないとだめだよ!」
「うるせえよ」
「折角こんなイケメンに産んであげたのに、報われないわ」
「俺は簡単に誰かと付き合ったり、別れたりしたくないんだ」
「そうか、まあ頭硬いもんね」
「そんなこといいだろ」
「でも、本当に残念。そうだ! 真香ちゃんとかどう?」
母親は嬉しそうに手をパンと叩いた。
「おい……」
「何よ」
「だから、真香は腹黒いんだって……」
「わたしは、そうは思わないよ。一途じゃん。嘘ついてでも一緒にいたいなんてさ」
「でも、それ俺を見てるわけじゃねえよな」
「そのうちわかる日が来るよ。本当の幸せが何かってね」
「なんか、母さんが言うと説得力あるよな」
「でしょう。わたしも高校生の頃、ふたりの男の子がわたしを取り合ったの」
「そうなんだ。知らなかったよ」
「そりゃ言ってないもの」
「父さんがサッカー部の友達とね。PKを3回やって多く点数とれた方が、わたしをもらうって約束してね」
「で、父さんが勝ったのか?」
母さんは首を横に振った。
「ボロ負けよ」
「じゃあ、何故!?」
「だって、わたし商品じゃないもの。そこにわたしの気持ちってないわけでしょ」
「それもそうか」
「その話聞いて、わたしは父さんに怒ったの。そんなに簡単に諦めるのかってね」
「そしたら、諦めたくないって、泣きながら父さんから告白されたんだよ」
「ははっ、らしいわ」
「父さん、その友達と喧嘩になったらしいけどね。でも、今はいい友達だよ」
「ふうん、そんなことがあったんだね」
「人の心は変わるんだよ。だから、あまり決めつけなくていいと思う。相手の男の子も今では二児のいい父親だよ。今はうちと同じくらい仲がいいんだから……。だから、決めつける必要はない。まだ、あなた達は高校生なんだからね」
まあ、そうなのかも知れない。真香も時間が経てば、いい思い出になるのかも知れない。ただ、そんなことより今は隼人のことが先だ。俺は隼人に電話をした。
「珍しいな。お前から電話かけてくるなんてな」
「そうだな。そろそろ種明かしをしようと思ってさ」
「種明かしってなんだよ」
「それは明日話すからさ。それよか今、近くに真香はいない?」
「今は病院にいて、側にはちさきしかいないけど……」
そうか、ちさきもいるんだ。俺は真香が二人で会わないように手を回してないので少し不思議に感じた。
「なあ、ちさき、いつもと違うところはないか?」
「そう言えば、今後はわたしにも拓也がいるから、なるべく二人で会わないほうがいいとか言ってるぞ」
「そうか、やはりそうだよな」
「なんか知ってるのか」
「いや、それも含めて明日話したいんだけど、いいかな?」
「分かった。ここで、ちさきや真香を入れて話すか? 彼氏のお前が来るなら、ちさきも喜ぶと思うけど……」
「いや、別の場所でお前と二人で話したい」
「珍しいな。何かあるのか?」
「すごく重要な話なんだ」
「なら、分かった。じゃあいつものファミレスに明日9時な」
「ああ、それとちさきにも今日、俺が連絡した事秘密にしておいて欲しいんだ」
「ああ、なんか理由ありそうだから別にいいけどさ。ちさきはそんなこと聞かないと思うからな」
「明日、全部話すから」
「そうか、……分かった」
「じゃあ、明日ね」
俺はその言葉を言うとスマホを切った。これで全てが決まるんだ、明日は正念場になる。
「隼人くんと話す準備はできたみたいね」
目の前の母親が嬉しそうに笑った。
「ああ、これからだよ。真香の思い通りにはさせない」
「そうだね。真香ちゃんのしてる嘘は、ダメな嘘だよね。きっと、自分も傷つけてる。そんなことしても、本当に人の心は動かせないんだよ」
「PK合戦の時みたいにかな」
「そうだね。わたし、サッカーの商品じゃないもの」
「違いないわ」
俺が笑うと母親も一緒に笑った。そうだ、これは隼人やちさきを救うだけでなく、真香も含めて、みんなを救うんためにやるんだ。
――――――――
ここからは、反撃が始まります。
よろしくお願いします。
ちさきちゃんのイラストです。
とても可愛いでしょ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます