第24話 喫茶店の三人(拓也視点)
「真香ちゃん待った?」
「いえ、そんなことはないですよ」
「良かった」
俺たちは近くの喫茶店の窓際に座った。メニューを持って来た女性店員に俺と母親はコーヒー、真香はカフェオレを注文した。
「で、どうして突然、お母様は今日わたしを呼び出されたのですか?」
真香は母親と話しているが、視線は完全に俺の方を向いていた。
「そうなのよ。事実確認したくてね。あのさ、間違ってたら言ってくれていいからね」
「はい、なんですか?」
言葉では『なんですか』と言っているが、俺を睨みつけてるんだから、これから言おうとしていることは完全に分かってるだろ。
「あのさ、真香ちゃん、半年前ちさきちゃんに隼人くんと実は兄妹だと言ったと言う話は本当?」
いつも思うがびっくりするくらい直接的に聞くなあ。裏表がないのは良いことかもしれないが、真香のような黒い意志がある女の子に対しては裏目に出る可能性もある方法だ。
「えと、……お母さん。その話は拓也くんから聞いたのですか?」
その確認いるか? 俺以外に話せる人間いないだろ。そもそもこの話が始まる前から終始俺を睨んでるんだから、分かった上で聞いてるよな?
「そうなのよ! だから、事実かどうかを先に確認しておかないとと思ってね」
「お母さん……」
真香はうちのお母さんの手をぎゅっと握った。涙も出てないのに、ハンカチで目元を拭う。素晴らしい演技だ。演技派女優になればいいのにと思わず思ってしまう。
「はい、拓也くんの言った話の通りです!」
「やっぱり、そうなのね」
母親の声音が詰問調になる。分かっていたが、母親の心の動きが手に取るように分かるよな。
「はい、ただし……」
ここが肝だろう。真香がまともに告白するなんて、俺は鼻から思っていない。
「少しわたしの言いたかったことと違うと思います!」
いや、言ったとおりだろ。真香がちさきを引き離したくて、この話を持って行ったことは動かしようのない事実だ。
「どう言うことなの?」
母親のこの返答に真香は唇を振るわせながら、ゆっくりと話し出した。
「ちさきちゃんが隼人くんを好きだと知りませんでした。だから、普通に女友達に相談する気持ちでちさきちゃんには相談をしたのです。その時、ちさきちゃんは、わたしを手伝ってくれると言いました。凄く嬉しかったけども、それが隼人くんを奪う形になってしまっていたのですね」
そんなわけねえだろ。ちさきと隼人がお互いにお互いを意識しあってるのは、俺だって分かっていた。真香が知らないわけがないのだ。
「そうなのね。確かにわたしもそう言う経験あるよ!」
母親が真香の手を握った。その姿はまるで少女漫画のヒロインを励ます友人その一だった。俺はあえて悪役その一になる。
「いや、それはないね」
その声に真香は俺を思い切り睨んだ。
「俺だって、ちさきと隼人が好き同士なのは分かってたんだ。確かに二人ともそんなこと全く言わなかったけど見れば分かった。俺が分かってるのに真香がわからないわけがないよ」
「拓也くん、ちさきちゃんのことよく見てたのね」
真香の言葉は、そのまま捉えれば俺に凄いね、と言っているようだが、その目はふざけんな。てめえ死にてえのか、としか見えないんだよな。
怖い怖い、いつか呪い殺されそうだわ。
「いや、それはあり得ないんだよね。たださ、今知ってたか知らなかったかなんて正直どうでもいいんだよ」
「拓也、どう言うことよ?」
「今、問題なのは俺とちさきが付き合ってもいないのに、付き合っていると嘘を言っていることだ。だから、隼人はお前の告白にオッケーしたわけだよな。ちさきがその時のことを思い出せない今、隼人に全部話して、その後のことは隼人とちさきに決めてもらったほうがいいと思う」
「なんでよ、そんなことしたら、わたしはどうなるのよ」
「お前さ、理解しろよ。ちさきと隼人が兄妹じゃなければ付き合えてないんだよ」
「ちさきちゃんはわたしのことを思って、偽りの恋人を演じたんだよ。今バラすことは、ちさきちゃんのその時の気持ちを踏み躙ることになる」
本当にこの女は……、よくもまあ次から次へと……。
「じゃあさ、ちさきちゃんに話せば良くない?」
「えっ!?」
俺と真香は同時に母親を見た。ちさきにはその時の記憶がない。しかし、元々この話はちさきが考えたものだ。なら、ちさきに話すことは筋が通っているのだ。
「うん。そうだね、拓也もいいよね。わたしはそれでいいよ」
真香は俺を睨みつけながら、同意を求めた。
「ああ、それならいいかもな」
とりあえず、真香が何を考えてるかは分からないが、ちさきに話すことで大きな前進になりそうだ。
――――――――
さあさ、動き出しました。
読んでいただきありがとうございます。
ちさきちゃんのイメージイラストも作成しました。
今後ともよろしくお願いします。
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