第21話 真香の狙い(拓也視点)
「ねえ、どう言うつもりなの?」
「うん? どう言うつもりとは?」
「もうやめない? と言ったよね」
「全部、話してさ。真香は別れた方が良いんじゃないか?」
真香が俺の部屋で待っていたことに驚いた。母親が変に気を回してくれて俺の部屋に入れてくれたらしい。
部屋に入る時に彼女なの、と聞いてくるから、誰かと思ったら、真香かよ。
目の前の真香は母親が出してくれたミルフィーユを食べながら、アイスココアを飲んでいた。真香には、水でいいのに、と思ってしまう自分がいて嫌になる。
「バッカじゃない! ふざけるのは顔だけにしてよ。わたしが今までどれだけ献身的に尽くしてきたか、拓也だって知ってるでしょ!」
大声で真香が叫び、机を叩いた。辞めてくれよ。絶対、痴情のもつれと勘違いされるよ。
「顔は人よりはマシなつもりだし、献身的かは知らないけど、努力してきたことは認めるよ」
一階から階段を登ってくる音が聞こえ、すぐに
「なんだよ!」
「入っていいかな?」
凄い勘違いされてるのは、声音からでもわかる。入っていいか、と聞いてるが、ダメと言ったら引き下がるのだろうか。
「駄目って言ったら?」
「3分待つわ!!」
そう言うことだ。入らないと言う選択肢は無いのだ。
俺は何も言わずに扉を開けた。正義感の塊のようなうちの母親は部屋に入るなり、真香をぎゅっと抱きしめた。
「ごめん、ごめんね。拓也に何を言われたの?」
「えと、あの……」
抱きしめられた真香も凄く驚いていた。
「身体は大丈夫? 叩かれたりしなかった?」
「いえ、大丈夫ですが……」
「でも、傷はなくても心の傷は大きいよね。関係は持ってるの、それともまだなの?」
矢継ぎ早に勘違いの発言が出てくる。
「あのさ。俺と真香は何もねえからな」
「はあっ!? 拓也何言ってるの! あなたそれでも、早川家の跡継ぎなの?」
こういうことがあるから、俺は極力、女友達を家に呼んだりしなかった。
「真香、お前。母さんに凄い勘違いされてるぞ」
「そっ、そうみたいね。ごめーん」
だから、ここで話すの嫌だったんだよ。うちの母親は見ての通り正義感の塊だ。きっと俺が真香を口説いて付き合って、あまつさえ肉体関係を持ったにも関わらず、別れ話を切り出したとでも思ってるのだろう。
「なあ、母さん……、すげえ勘違いだからな」
「勘違いってね。何を言ってるのよ。女の子泣かせて、あなたそれでも男なの?」
母親は俺を睨みつける。この人見た目は今でも可愛いんだけどな。猪突猛進型と言うのかな。走り出したら誰も止められない。親父はそう言う時は、好きだと抱きしめて誤魔化してる。そんなことしてるから、こうなるんだよ。
「えと、お母さんすいません。わたしと拓也さんは恋人同士じゃないんです」
真香は母親から、ゆっくりと離れた。
「えっ? 今まで献身的に尽くしてくれたんでしょ?」
「あははははは」
「そこ、笑うとこか?」
「いや、お母さんいい人ね」
「うるせえよ」
それから、事情を説明するのに骨を折った。結局、母親におおよその事を説明することになってしまう。
「と言うことは、真香ちゃんはうちの拓也ではなくて、隼人くんが好きなのね」
隼人なら何度も家に呼んでるから、割と理解が早かった。
「それどころか、付き合ってるんです!」
「で、隼人くんには幼馴染のちさきちゃんと、うちの拓也が付き合ってると嘘をついてる、って言うわけね」
「もともとは、ちさきちゃんの提案でした。わたしが隼人が好きと言ったら協力してくれて……」
説明の仕方が凄く真香に都合良さそうだが、大筋は間違ってない。
「恋か……いいわね」
なんか、この人少女漫画の主人公を手伝う友人の立場でいるんじゃなかろうか。
「でも……、ちさきちゃんはその時の記憶はないわけでしょ」
「そこら辺がややこしくなってる。隼人は俺と付き合ってると思ってるからな」
「それ、バラしちゃうと真香ちゃんは凄い不利になるわね」
「でしょう!」
「半年間、ずっと励まし続けた真香ちゃんの隼人くんへの想いは本物だよ。なのに、それバラすとなんか真香ちゃん、悪者になっちゃうね」
いや、元々、この女かなり腹黒いぞ。事実と言うのは奇妙なもので、こう説明するとなぜか真香が悲劇のヒロインに思えてしまう。
「でもよ、俺もうんざりなんだよ。叶わない恋をずっと演じたくもねえし……」
「あー、うちの拓也はちさきちゃんのこと好きなのか」
「うるせえよ」
「難しいねえ」
難しくもねえけどな。全部バラしてあとは二人に任せたらいいんだよ。
「分かったわ。わたしも手を貸すよ!」
「お母さん、ありがとうございます!」
「うん! 頑張ってね。恋が叶うように応援してる!」
真香の説明が悪いんだよ。そもそも、この話の1番の問題はちさきが兄妹だと勘違いしたことから始まってるんだから。その話を言わなければ、ちさきの独断に思えてしまうだろ。
「真香、ちさきと隼人の話はしないでいいのか?」
「拓也、なんの話?」
母親は不審そうに俺を見る。
「あははは、なんでもないです。こっちの話」
真香が俺の耳元で、小さな声で俺に詰問した。
「その話はゆっくりと説明してくからね。今話すと勘違いしたら、駄目じゃ無い?」
いや、それ勘違いじゃなくて、思い切り真実なんですけども。
「めんどくせぇ。ふたりで頑張ってくれよ」
「分かった! お母さん一肌脱ぐからね」
ぶっちゃけ、母親がこうなったら誰も止められない。そして、だいたいが最悪な方向に行くんだよな。
「もう寝るから、ふたりとも出て行ってくれ」
「えー、酷い。酷いですよね。お母さん?」
「拓也、わたしが今まで何を教えてきたと思ってるのよ!」
俺は今まであんたを反面教師として生きてきたんだよ。
俺はスマホを取り出して、隼人にLINEを打った。
(隼人ごめんな。母親の暴走止められそうに無い)
今は意味わからねえだろうけど、どうせすぐに分かることになる。
――――――――
真香の手助けキャラですかね
どちらにせよ動きそうですよね
荒らしてはくれそうですからね
さあて、本当に真香の味方になるのでしょうかね。
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